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転移した前世の心残りを今世で  作者: 佐々木尽左
11章 終わりの地、始まりの地
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200年遅れの決闘 後編

 既に周囲は完全に暗くなった元領主の館には、約二十アーテムの距離を挟んで俺とフールが対峙している。その周囲には、街中から集まったと思われる数多くの幽霊ゴースト白骨死体スケルトンがいた。まるで俺達の対決を見守っているかのようだ。


 ごく少数の白骨死体スケルトンが動く中、俺は剣を構えて考え事をしている。


 剣の技量では負けているので真正面から戦っては勝てない。では、星幽剣アストラルソードでとどめを刺すためにはどうすればいいのだろうか。


 まずはフールの意表を突かなければならない。死霊魔術師ネクロマンサーと言いながら乗っ取った男が接近戦を得意としているので、かなりのことをしなければフールの隙を突けないだろう。


 ただし、今のフールの体は反射神経がいいので、意表を突いても一瞬で対応される可能性がある。だから、やるなら一気呵成に責め立てなければいけない。


 逆にフールはどうするつもりなんだろうか。俺が想像できる範囲だと、接近戦に持ち込んで圧倒しつつ、無詠唱の魔法で俺の隙を作って倒すということになる。これにまだ隠し玉があると厄介なんだけど、わからないことをいくら考えても答えは出ない。


 そうやって色々と考えているが、なぜかフールも動く気配がない。俺に合わせている訳ではないだろうから、あっちも何か考えているんだろう。


 尚もじっとしていると、一体の白骨死体スケルトンが背後からフールに寄っていく。そうしてそのまま抱きつこうとした。


 「ふん」


 それをフールは、無言で振り返って叩き壊した。その隙を俺は逃さず利用する。


 「土石散弾アースショット!」


 フールの足下一帯から爆発音と共に土や石が空に向かって放たれる。とりあえず、これで痛めつけて動けなくなったところを攻撃する打算だ。


 しかし異変を察知したのか、フールは真上に飛び上がると自分の直下に闇盾ダークシールドを展開した。恐ろしく感が良いのか、それとも何か察知する方法があるのか、どちらにしてもこれでは意表は突けないらしい。


 意表を突くのは失敗したようだが、それでも足が地面から離れている状態は作り出せた。この間は身動きできないので今の間に切り込もうとした俺だったが、フールは近づこうとする俺に対して反撃をしてきた。


 「闇散弾ダークショット

 「光盾ライトニングシールド!」


 俺は迫ってくる散弾を発現させた光の盾で防ぐ。またしても足を止められてしまった。いいところでいつも牽制されてしまう。


 「いやぁ、ちょっと危なかったよね。だんだんと戦い慣れてきたんじゃないのかい?」

 「そりゃこんだけ戦っていればな」


 また振り出しに戻ってしまった。なかなか好機を活かせないな、俺。


 「さて、じっとしていても仕方ないし、そろそろ決着をつけようじゃないか」


 フールはそう言うと、俺の返事を待たずに突っ込んできた。真正面からぶつかるのはまずいので、魔法を撃ちながら右横へと移動する。


 「火槍ファイアスピア!」


 距離が近いので魔法操作マジカルコントロールでの制御が間に合わない。フールは火槍ファイアスピアの軌道を読むと俺へと向かいやすいように避けた。牽制すらうまくいかないのか!


 「さぁて、それじゃ楽しい剣技のお時間だ!」


 尚も迫ってくるフールが剣を構えて深く踏み込んできた。くそ、戦いの運び方がうまいなぁ!


 何にせよ、真正面からやり合うのはまずい。俺は後ろか横かどちらに避けようか迷う。


 そのとき、ふとフールの背後に直進する火槍ファイアスピアの姿が俺の視界に入った。真っ暗な空間に赤く燃える針のような魔法の槍は、そのまま幽霊ゴースト白骨死体スケルトンにぶつかろうとしている。


 今更な話だが、このときになって火槍ファイアスピアが元住民に当たるのは何となく嫌だなと思った。フールと散々魔法を撃ち合っておいて自分でも変だとは思うが、それでも火槍ファイアスピアの軌道を変えないといけないと感じた。


 だから魔法操作マジカルコントロールの制御下にある火槍ファイアスピアの軌道を空へと向けた。ぎりぎり一体の白骨死体スケルトンをかすめたけど、これは仕方ないだろう。


 しかしそれを見た瞬間、これだ!と思った。フールを出し抜ける方法をひとつ思いついた! というよりも思い出した!


 同時に、避ける判断の遅れた俺の脇腹をフールの剣が抉る。


 「ぐっ?! ってぇ!!」


 焼けるような痛みが抉られた脇腹から叩きつけられる。遅れて後方へと避けたが、思っている以上に何歩も下がってしまう。脚に力が入らない!


 「あれぇ? 牽制のつもりだったんだけどね。こりゃいいや!」


 痛みで体が思うように動かない。考えもまとまらない。なのにフールは迫ってくる。そりゃそうだ、俺を殺す好機だからな。


 「回復ヒーリング


 ようやく傷を治さないといけないことを思い出した俺は、左脇腹に左手を当てて回復ヒーリングの魔法を発動させる。傷は驚く早さで回復していき、同時に意識は明瞭になってゆく。


 そうして、フールが目の前で、俺に対して剣を振り下ろしていることをやっと認識できた。危ねぇ!


 俺は片膝を突いて長剣を頭上に構えようとするが、完全に構えきる前にフールの剣とぶつかる。かなり押し込まれて片膝を突いたが、何とか頭をかち割られずに済んだ。


 「惜しいね!」

 「やかましいわ!」


 俺が自分で半ばまで刃先に切り込みを入れてしまった真銀製長剣ミスリルロングソードは、折れずに耐えてくれた。さすが真銀ミスリル製だな。


 「光の剣のおかげで、剣が折れなかったのか。本当、きみは色々厄介だね!」


 フールは力押しで剣を押しつけてくると思っていたが、片膝を突いた俺を蹴りつけてきた。つま先が脇腹に当たって俺は後方に転がる。


 「ってぇ!!」


 転がった先で慌てて起き上がったが、そのときには既にフールが目の前まで迫っている。


 「さぁて、そろそろ死んでくれないかなぁ!」


 今の勢いのまま、フールは決着をつけるつもりのようだ。気勢を削がれている俺は防戦一方だった。


 ようやくフールの剣捌きに慣れてきたと思ったら、脚を引っかけられて転がされてしまう。そうして跳ね起きると、俺は再び体勢を整えるところからやり直しだ。


 くっそ、好き勝手しやがって!


 「火球ファイアボール!」

 「おっと!」


 俺はフールの顔面めがけて魔法を撃ち込もうとする。さすがに危ないと判断したらしいフールは斜め後方へと下がった。同時に俺も少し下がる。


 お互いの距離は約五アーテムだ。踏み込めばすぐに相手の懐へと入ることができる。


 「さすがに息も上がってきたようだね」


 俺が肩で息をしているのに対して、フールはまだ余裕がある。このまま続けると、体力差で負けてしまいそうだ。そして、フールは自分が有利に戦えていることを認識している。ここで俺を休まさずに畳みかけるのは正しい選択だ。


 フールは構えるとすぐに突っ込んできた。


 多彩な魔法も莫大な魔力も今は十全に使えないし、相手が使わせてくれない。ならば、さっき思い出した方法を試すのは今しかない!


 「光槍ライトニングスピア闇槍ダークスピア!」


 時間の都合上、撃てた魔法は二つだけ。ぶっつけ本番だから不安はあるが、今はもうこれにかけるしかない。


 「はは、残念!」


 フールはそのどちらも避けて俺に肉迫する。そして、再び連撃で俺を追い詰めようとした。


 何度も打ち込まれてくる攻撃を、俺は星幽剣アストラルソードを発動させた真銀製長剣ミスリルロングソードで必死に防ぐ。ある程度は保ってくれるのだろうけど、いつ折れるか心配でたまらない。


 そしてその間にも、俺はフールの後方へと飛び去った魔法の槍二つを制御しなければならなかった。地面に平行して直進していたそれら二つは、まず上空へと旋回させていく。


 「その剣、さっさと折れてくれると嬉しいんだけどね!」

 「やかましい! んな簡単に折れるかよ!」


 目の前の危機であるフールの連撃を何とか防いでいるものの、集中できなくて反撃する余裕がない。その場にとどまっているのが精一杯だ。


 すると、また脚を引っかけられて転んでしまった。慌てて起きようとするところに、フールが剣を振り下ろしてきた。俺は再び転がってそれを避ける。


 「惜しいね! 思った以上にしぶといや!」

 「ちくしょう! いい気になりやがって!」


 思わず言い返してしまう。でも、今はそれどころじゃない。


 制御している二本の魔法の槍は、大きく旋回しながら半円を描いて飛び続けている。さすがに視線を向けるとばれるので、ここは捜索サーチの魔法で現在位置を確認していた。


 「うん? だいぶ動きが鈍ってきたね! そろそろ体力切れかな?」


 嬉しそうにフールが声をかけてくるが、それは間違いだ。体力が尽きてきたんじゃない。魔法操作マジカルコントロールによる魔法の槍の操作と捜索サーチの魔法でその軌道の確認を剣戟と同時にやらないといけないから、フールの剣捌きについていけなくなっただけだ。


 致命傷こそないものの、フールが一回剣を振るうたびに俺のどこかが傷ついてゆく。皮一枚ならまだしも、大抵肉も少し切られるから痛いんだよな!


 「はっ!」


 気合い一発、フールは横薙ぎに俺の脇腹めがけて切りつけてくる。


 さすがに危ないと思った俺は、後ろに下がりながら剣でその攻撃を受け止めようとした。すると、俺の真銀製長剣ミスリルロングソードは中程から完全に折れてしまう。ついにこのときが来たか!


 俺は長剣を犠牲にして何とか攻撃圏外へと出たが、肝心の剣は半分から先がない。


 「はは! やったね!」


 ようやく好機がやってきたフールは、さも楽しそうに再び俺へと踏み込んでくる。一方の俺は、ようやく蹈鞴を踏み終えたところで次の回避行動がとれない!


 くそっ、あと少し! 二本の魔法の槍は、もう俺達の頭上まで戻ってきている!


 唐竹割りに振り下ろされる剣を目前にして、俺は片膝立ちにになり、半分になってしまった真銀製長剣ミスリルロングソードを頭上に構えて受け止めようとする。右手は柄に、左手は折れた刃に添えて。


 ガン、と強い衝撃が両手から両腕に、そして体へと伝わってゆく。フールも両手で思い切り剣を振り下ろしてきたので、その衝撃はいつになく重い。


 「いっつ!」


 刃の食い込んだ左手から血が流れてきた。さすがに刃先に手を添えて無事ではいられない。しかし、フールの打ち下ろし攻撃は防いだ。


 「ははっ、長かった戦いも、いよいよ終わりだね!」

 「ああ、お前が死んでな」


 嬉しそうに笑っているフールに対して、俺はにやりと笑い返した。


 そしてフールが何かをしゃべろうとした瞬間、ついに待ち望んでいたものがやって来た!


 最後の微調整を済ませた魔法の槍二つが、フールの両腕にまっすぐ落ちてきた!


 「がっ?!」


 驚愕の表情を浮かべたフールの悲鳴は、地面に着弾した光槍ライトニングスピア闇槍ダークスピアの短い破裂音にかき消された。


 白と黒の閃光が視界を埋める中、真銀製長剣ミスリルロングソードにかかる圧力が急になくなったことに気づく。それに合わせて俺は折れた長剣を手放し、真銀製短剣ミスリルショートソードを鞘から引き抜いた。


 閃光が急速に収まる中、目の前の地面に落ちた長剣とそれを握ったままの両腕が転がっていた。もちろんどちらの腕も二の腕から切断されている。


 視線を前に向けると何歩か下がって体勢を整えようとしているフールがこちらを見ていた。


 「おおおっ!」


 雄叫びを上げながら、俺は星幽剣アストラルソードをまとわせた真銀製短剣ミスリルショートソードを持ってフールへと突撃する。苦痛と怒りと恐怖がない交ぜになった表情のフールは尚も逃れようとするが、俺はそれを許さない!


 「かっはっ!」


 フールの心臓に向けて剣を突き立てたとき、あまりにもあっけなく貫けたので驚いた。あれだけ苦労して戦ったのに、最後はあっけないほど簡単に刃が体に入ったからだ。


 「あ……れ?」


 俺がじっとフールの顔を見ていると、フールは不思議そうに俺の顔を見返してきた。まるで、どうして自分が刺されているのかわからないといった様子である。


 「なん、で……乗り、移れ、ないん、だ?」

 「お前は今から死ぬからだよ」


 俺は返答したが、その声なんて聞こえていないというように無反応だ。


 「どう、して、憑依……のまほう、がふっ」


 血が逆流してきたらしく、フールは口から盛大に吐き出した。俺にも大いにかかる。


 そうしてしばらく見ていると、今まであった妙な圧迫感が次第に薄れてきた。同時に、二重に見えていた輪郭も重なってゆく。


 俺はというと、体に痛みはあるものの、それ以外におかしいところはない。潜伏期間なんてものがあったら話は別だが、このフールの様子だとそんなことはないのだろう。


 「け、ん、きゅう、し、なきゃ……い、き、ない……」


 痙攣を起こしていたフールの体も、次第に力を失ってゆく。それに伴って支える力を失った体は地面に倒れ込もうとしていた。


 俺が真銀製短剣ミスリルショートソードを力一杯に引き抜くと、フールはそのまま仰向けに倒れた。


 「はぁ、はぁ」


 もはや動かないフールの死体を見ながら、俺は呆然とする。フールを倒したという実感が全然ない。


 ふと周囲を見ていた。俺達の周囲には、元住民である幽霊ゴースト白骨死体スケルトンがひしめいていたはずだ。しかし、どこを見回してもきれいさっぱり消えていた。


 それを見て、ようやく俺はフールを倒したんだな、と実感することができた。

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