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転移した前世の心残りを今世で  作者: 佐々木尽左
11章 終わりの地、始まりの地
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対話から対決へ

 「二百年ぶりに勇者の剣から解放されて人間に転生する。たぶん奇跡的なことなんだろうね」


 再び背後で戦いが始まると同時に、フールの話も再開する。


 「前世で活躍したんだし、転生後は穏やかに生きると思ったんだけど、違ったんだ」

 「生まれ故郷が流行病で全滅したからな。その時点で普通ってのはなくなったよ」


 実際のところ、あのまま育っても冒険者になっていたので大して変わらなかったと思う。でも、ペイリン魔法学園で教師をすることはなかったかもしれないな。そうなると、普通の冒険者として終わった可能性が高い。


 「転生後の人生が平穏無事だなんて限らないよね。ごめん、僕の勝手な想像だったよ。そっかぁ」


 俺の返答を聞いたフールが初めて笑顔を崩した。


 全ての選択肢を俺が自分で選べたわけじゃないことを知ったからなんだろう。でも、そんなに沈痛な表情をすることか? まぁ、こうやって狙われていることを考えると、最初から俺がフールと無関係なところで生きていく可能性が低かったことがわかって、残念がっているというところか。


 「でもさ、どうしてきみは僕のことを殺そうとするのさ? 僕はきみに直接何かした覚えはないんだけど」

 「俺やライナス達を散々裏で操っていたってことも腹が立つが、旧イーストフォートを滅ぼしたろう? 最後の領主からお前を討つように頼まれていたんだよ」


 俺の言葉を聞いたフールは心底意外そうに目を見開いた。


 「え、どうしてそれを知っているのさ?」

 「その領主様から聞いたんだよ。お前、二百年くらい同じ騎士で名前もそのまま使い続けていただろう。後でローラが聖騎士団の記録を調べたら、出てきたぞ」


 結局あのときは調べておしまいになったけど、まさか今になって役立つとは思わなかった。ローラも驚いているだろう。


 「はぁ、ベラの言う通りだったね。もっとしっかりと偽名を使っておくんだったよ」

 「お前、仕事がいい加減だっていつも怒られていたんだろう」


 ベラ本人には会ったことはないものの、その人形であるアレブならば知っている。フールはねちねちと責められていたに違いない。


 「あれ、でもそうなると、再び僕をどうやって見つけ出したのかな? もしかして、さっき言っていたよく利く鼻ってやつでかい?」

 「確かにそうなるんだが、前世でお前を見かけたことがあるからな」

 「あー、最北の森での修行とロックホーン城に突入するときだっけ?」

 「もうひとつ前があるだろう。ライナス達が豊穣の湖を往来する船に乗る直前だ。ハーティアで会ってただろう」


 それを聞いたフールは大きなため息をついた。どうも余計なことをしていたっぽいな。


 「余計な好奇心は抱くものじゃないねぇ」

 「ハーティアで会わなかったら、旧イーストフォートの元領主の話を聞いても聞き流していただろうし、ローラも聖騎士団で調べることはしなかったよ」


 俺だってここまで執着しているのは、ハーティアで以前のこいつに会った印象があったからだ。そしてローラの調査やベラの記録など、少しずつ積み重なった結果である。


 フールは上を向いて嘆息していた。こいつは好奇心で身を滅ぼすタイプみたいだな。これから俺が滅ぼすんだが。


 「そうだ、せっかくだから俺の方も聞きたいことがある」

 「へぇ、なんだい?」


 どうも俺の話にも興味があるらしい。背後での戦いはまだ終わっていないから、このまま会話を続けるとしよう。


 「お前、以前ノースフォートにいただろう。あの流行病を起こしたのはお前か?」

 「そうだよ。研究は考察だけじゃなくて実験も必要だからね」

 「あれ、下手したら何万人も死んでいたんだぞ?!」

 「きみにはわからないだろうけど、僕には自分の実験の方が大切なんだ。それに、旧イーストフォートを滅ぼした僕に、今更そんなことを聞くのかい?」


 こいつ、ふざけた態度で言いやがるな!


 そりゃ他人のことなんてどうだっていいのは俺も同じだけど、自分のために万単位で人を殺してもいいなんて思わねぇぞ!


 「何百年も研究していて、まだ終わんねぇのかよ?」

 「あー、一応区切りはついたんだけどね? その結果を検証するのに時間がかかるし、派生の研究だってあるからね。そのためには色々とやらないといけないことがあるのさ」

 「まだやるつもりなのか!」

 「ま、全部終わったら引退してもいいんだけどねぇ」


 思った以上に危ない奴だな。生かしておいたら本当にろくでもないことをやりやがるぞ。


 「それじゃ、ハーティアの流行病もお前の仕業か!」

 「いや、あれは違う。自然発生したものだよ。あ、自然発生ってのも変な言い方だね。ともかく、僕がやったんじゃない。初期状態から観察はしていたけどね」

 「わかっていたんなら防げよなぁ!」

 「そんなことを言っても、僕には必要なことだったんだから放っておくしかないだろう。それに、光の教団が頑張ったおかげで大きくならずに済んだじゃないか」


 自分のやっていることを全然疑ってねぇな。何百年も生きるとこんなふうになるのか?


 「ラレニムの街で住民を誘拐していたのは、ハーティアで死者アンデッドとして使うためだったのか?」

 「そうだよ。だから君がハーティアで襲撃してからは、ほとんど活動していなかっただろう? 早々に潰されちゃったから、ろくに使えなかったっていう面もあるけどね」


 一応俺達の予想は当たっていたらしい。しかし、まだ知りたいことはある。


 「先日、盗賊の討伐隊に参加して呪いの山脈に入ったときに、死霊系の魔物が全然いなかったが、お前が集めていたのか?」

 「その通り。ここの周囲を守らせるために集めたのさ。なかなか苦労したよ。人形にした手下を各地に派遣して集め回ったんだ。あ、そうそう、この体を手に入れた後、各地の盗賊団を回って洗脳したんだ。そこからも何人か適正のある人間を人形にして使ったっけ」


 ここまで来るとある程度想像できる。そしてもう驚かない。


 「そうなると、どの盗賊団も全滅するまで仕向けたのもお前か」

 「ああ。ここであの一帯の盗賊団がいなくなると、また盗賊団が現れない限り討伐隊はやってこないからね。安心してここに住めるだろう?」


 やっぱりそうか。どうりで変だと思ったんだよな。


 「師匠!」

 「ユージ、終わったよ!」


 次の質問をしようとしたとき、アリーとジルの声が俺の背中に投げかけられた。振り向くと、全員がこちらに駆け寄ってくる。


 「う~ん、話はここまでかな」


 俺達が六人揃うのを他人事のように眺めながら、フールは独りごちた。こいつ、まだこんなに余裕な態度だということは、更に切り札があるということなのか?


 「あんたがフールって奴なんやな! もう逃がさへんで! 覚悟しぃや!」

 「あなたのせいで大勢の人が亡くなりました。今、その罪を償ってもらうわよ!」


 スカリーとクレアの二人は、肩で息をしながらフールに向かって啖呵を切る。


 「フールか。懐かしい名前を聞いたなぁ。それ、ユージから聞いたの?」


 フールの問いかけにスカリーは答えない。ただ、怒りに燃えた視線を向けるだけだ。


 そういえば、フールに対して正面からフールと言ったのは、今が初めてだっけ。今まで当たり前のように使っていたから全然気づかなかった。


 「魔王の配下だったとき以来だね。そんな名前とうの昔に忘れていたけど、そうか、きみにとって僕はフールなんだ」


 フールからふざけた態度が抜ける。さすがに六対一となると嘗めた態度はとれないか。


 俺は手にした真銀製短剣ミスリルショートソード星幽剣アストラルソードを発現させる。


 「最後の質問なんだが、お前、死んだら殺した奴に乗り移れるんだろ? なのにどうして俺からは逃げようとするんだ?」


 一応、星幽剣アストラルソードならばフールを倒せるという推測はしている。しかし、試したわけではないので本当のところはわからない。しかし、ハーティアの倉庫街で襲撃したとき、あいつは星幽剣アストラルソードの攻撃を驚きながら避けた。この時点でほぼ確定だが、本人の口からそれを確認したい。


 「その様子じゃ、もうわかっているみたいだね。まったく、どうやってそのことを知ったんだか」


 本当に困ったという様子でフールは嘆息する。


 これで確定だ。やっぱり、星幽剣アストラルソードを使えばフールを滅ぼせるんだ。


 「でも、僕を滅ぼす機会がきみにあるように、僕もきみを殺す機会を得ているんだよ?」

 「なに?」


 フールはそう言うと、右手をぱちんと鳴らす。すると、俺達の周囲に十人くらいの剣を持った男達が現れた。


 「うおっ! なんじゃこりゃ?!」


 俺達の中で最初に反応したのはカイルだった。こちらを先制攻撃しようとした相手を切り伏せる。続いてアリーがほぼ同時に反応した。こちらも真っ二つだ。


 しかし、俺達の反応はここまでで、俺、スカリー、アリーの三人は男達に先制攻撃を許してしまう。


 「うおっ?!」

 「ちょっ! いだっ?!」

 「きゃっ?!」


 そばにいた精霊がひとりの攻撃は受けてくれたが、もうひとりの攻撃は自分達で受けなければならない。俺はともかく、スカリーとクレアが第一撃を受け止められたのは奇跡だ。特にスカリーなんて条件反射で突き出した杖に、相手の剣がたまたまぶつかっただけにしか見えない。


 こうしてフールが突然出現させた男達の奇襲は一応防げた。スカリーは相手の勢いを殺せずに頭へ杖をぶつけて転んだが、充分に許容範囲だ。


 「ジル、スカリーを!」

 「わかってる!」


 クレアも危ないが、スカリーは更に危ない。突然斬りかかってきた男とつばぜり合いをしつつ、ジルにスカリーのことを頼む。


 「はは、どうだい? 驚いたろう? 僕だっていつもやられっぱなしというわけじゃないよ。反撃の切り札くらい用意しておくさ」


 いたずらが成功した子供そのままに満面の笑みを浮かべたフールが、俺に対して嬉しそうに話しかけてくる。不自然に余裕ぶっていると思ったら、こんな隠し玉があったのか!


 「転移用の魔方陣って知っているかい? 人や物を一瞬で別の場所に送り届ける便利な魔法なんだけどね。難点として魔方陣を描かないと使えないんだ」

 「んなことくらい、知っているよっ!」


 尚も互角のつばぜり合いを演じている俺は、真正面の男に気を取られながらも、フールの話に思わず口を挟んでしまった。


 「そっか、なら話は早いね。で、そんな便利だけど使いづらい転移用の魔方陣なんだけど、僕は色々と手を入れて特定の合図ひとつで人や物を転送できるようにしたんだ」


 フールは「こんなふうにね」と再び指を鳴らすと十人の男達が現れる。アリーとカイルの活躍でやっと半分の敵を倒せたと思ったら、また増えた!


 「ちっ、くそ!」


 やっとひとりを切り伏せて次の敵と戦おうとしたら三人に増えている。ビスケットみたいに叩いたら増えるんじゃない!


 さすがにこれはまずいので、自分で召喚した精霊二体に二人を任せる。突然現れた男達はそこまで強くないので、俺でも一対一ならどうにか対処できる。


 ただ、星幽剣アストラルソードを発現させた真銀製短剣ミスリルショートソードを受け止められる武器を持っているということは、やっぱりフールの奴は最初から星幽剣アストラルソードには注意していたんだ。


 俺の背後では、数の増えた敵を相手に仲間が戦っている。


 スカリーは完全に防戦一方だ。ジルが更に一体の精霊を追加して二体の精霊と一緒に戦っているが、さすがに魔法使いの身で近接戦闘をこなすのは無理があった。そう悟ったスカリーは、他の仲間が加勢してくれるまでひたすら守り続ける戦術に切り替えている。


 「くそ、うっとうしい!」


 いいところのお嬢様らしからぬ言葉を吐きながら、二人の男の攻撃を躱し続ける。もちろん、杖と体術だけでは間に合わないので、ときおり土壁アースウォールなどの魔法を使って盾としている。残り二人は精霊が相手をしていた。


 一方、クレアは精霊二体に二人の敵を任せて、正面に据えた敵と真っ向から戦っていた。足下にひとり倒れているということは、どうも自力で倒したらしい。


 「せいっ!」


 クレアの戦い方で特徴的なのは体術を使っているところだ。どうも魔法を使うことは諦めて、鎚矛メイスと体術を使った近接戦闘に切り替えたらしい。鎚矛メイスで相手の攻撃を受け止めたり受け流したりしてから、拳や脚で一撃を入れている。そして、弱ったところを鎚矛メイスでとどめという流れだ。あ、今二人目を倒した。


 「スカリー、ひとりもらうぞ!」

 「よっしゃ、俺も!」


 前衛組であるアリーとカイルはさすがに強い。俺がどうにか相手にできる程度の敵ならば、四人片付けるのに大した時間は必要ないらしい。自分の分を全て倒すと、今度はスカリーが相手をしている二人を引き受けた。そして、アリーは一撃、カイルは二撃で倒す。


 「うーん、思ったよりもやるねぇ。見くびっていたつもりはなかったんだけど」


 その様子を見ていたフールが意外そうな表情を俺達に向けていた。残るは、俺、スカリー、クレアを守っている精霊が相手にしている六人と、俺自身が相手にしているひとりだ。奇襲同然で仕掛けられたところからここまで立て直せたのは幸いである。


 「やっぱりあの妖精が誤算だったかな。まさか大森林から出てくるなんてねぇ」


 確かに、ジルがいなかったら間違いなく俺達は全滅していただろうな。俺だけでも同じ数だけの精霊は召喚できるけど、戦っている最中は自分のことで精一杯だから、仲間の危機に都合良く精霊を追加で召喚したりすることはできない。今も俺達の頭上で戦況を見て適切に支援してくれている。


 「よしっ、倒した!」


 目の前の男をやっと倒せた。だいぶ慣れたとはいえ、やっぱり剣は扱いにくいな。しかも短剣で長剣を持った相手だし。天井の高さが気になるけど、俺も長剣に持ち替えようかな。


 「それじゃ、もう一回頑張ってもらおうかな」

 「させるか! 火球ファイアボール


 両脇で精霊が相手にしている二人の敵を無視して、俺は指を鳴らそうとしているフールめがけて魔法を撃った。そして同時に駆け出す。距離は十五アーテム未満、この程度なら俺でもすぐに縮められる。


 「惜しいね!」


 不敵な笑みを浮かべながら、フールは直進する火球ファイアボールを避けた。火球ファイアボールは背後の壁にぶつかって爆発四散する。そして、避けながらフールは再び指を鳴らす。


 そうしてせっかく減らした敵の数がまた増えた。再び十三人からやり直しだ。


 しかしその間に、俺はフールとの間合いを詰めていた。改造した転移用の魔方陣で人を呼び寄せることはできるみたいだが、どの位置に転移させるかという細かい指定はできないらしい。俺達の間にはひとりも転移してこなかった。


 「なるほど、火球ファイアボールは間合いを詰めるための囮でもあったんだ。やるね!」


 避けながら流れるような動作で剣を抜いたフールは、その剣で俺の一撃を防ぐ。フールの能力か憑依した男の才能なのかはわからないが、俺よりも強いんじゃないだろうか。


 「くっそ!」

 「さて、こっちもたまにはやり返さないとね。火球ファイアボール


 俺はその言葉を聞いた瞬間、横っ飛びの後に地面を転がってフールから間合いを取った。無詠唱で魔法を撃ち込まれると思ったからだ。


 けれど、何も起きない。


 「ははは、戦いには駆け引きも必要だということを、覚えておくといいよ! じゃあね!」


 心底楽しそうに笑いながらフールは奥の通路へと駆けてゆく。


 くっそ、騙された!


 俺は慌てて立ち上がると後を追いかけようと駆け出した。

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