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転移した前世の心残りを今世で  作者: 佐々木尽左
10章 呪いの山脈
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2度目の夜襲と部隊の立て直し

 制圧した盗賊の根城を後にして、俺達ガルフ小隊は三日間かけて本隊まで戻ってきた。


 与えられた任務をこなし、意気揚々と本隊へ凱旋した俺達だったが、出発したときと違って本隊の雰囲気は異様に張り詰めていた。


 「え? なに? どうなってんの?」


 俺は思わずつぶやいてしまう。しかし、それはガルフ隊長以下全員の気持ちを代弁していたはずだ。


 近づくにつれてはっきりとわかったが、簡易な柵は傷ついており、服や武具が汚れている正規兵もいる。それになんだか、以前よりも数が少なくなっているように見受けられた。


 「まるで敵襲を受けたみたいじゃないか」


 俺の近くを歩いていた正規兵の一人が顔をしかめて感想を漏らす。確かにそんな感じだ。


 普段は気の向くまま飛び回っているジルも、穏やかではない雰囲気に気づいているらしく、俺の後ろからこっそりついてきている。


 「とてもじゃないけど、あたし達の勝利を祝える雰囲気じゃないわよね」

 「士気は落ちているに殺気立っているみたいだもんな」


 何とも言えない微妙な雰囲気である。悪い意味でだ。この様子だと、手酷い損害を受けている可能性がある。


 「ここで一旦止まれ。私は任務の結果を報告してくる。本隊の様子がおかしいから、貴様ら冒険者はじっとしていた方がいいぞ」


 ガルフ隊長は俺達にそう伝えると、従者と一緒に奥へと進んでいった。


 残された俺達はガルフ隊長が戻ってくるまで待つしかないわけだが、そういえば俺達以外に冒険者を見かけない。まだ他の小隊は帰ってきていないのだろうか。


 「なんか嫌な感じやな。あ、あそこの柵は一回倒されたっぽいな」

 「それならば、あちらの岩の黒い染みは血しぶきか?」


 俺と同じように周囲を眺めていたカイルとアリーは、戦いの痕跡を見つけていた。


 「討伐は中止になるのかしら?」

 「本隊がよっぽど手酷い被害を受けてたら、一旦引き上げるかもしれへんな。見たところ、致命的な被害を受けたわけじゃなさそうやけど」


 見た目の印象だけじゃよくわからない。詳しい話はガルフ隊長に聞いた方がいいだろう。


 一時間ほど待っていると、ガルフ隊長が戻ってきた。そして、本隊に何があったのかを語ってくれる。


 その説明によると、八日前に俺達が出発したあとに、本隊は盗賊の夜襲を受けたらしい。襲撃側の正確な数はわからないものの、一部は防ぎきれずに陣地内部へと侵入されてしまったそうだ。


 「一部は防ぎきれなかったって、敵の数はそんなに多かったんですか?」

 「いや、簡易な柵を打ち立てていただけなのをみてもわかるとおり、防備が充分じゃなかったんだ。嘗めてかかったわかではないんだろうが」


 俺の質問に対するガルフ隊長の返事は歯切れが悪い。戦っている相手に反撃されるのはよくあることだが、実際にされると悔しいしかっこ悪いもんな。


 「損害はどの程度なんですか?」

 「幸い深刻ではないそうだ。しかし、まさか盗賊に二回も夜襲を食らうとはな。精神的な衝撃の方が大きい」


 なるほどな。まさか盗賊がまとまって反撃してくるなんて予想していなかったということなんだろう。ただ、一回目は俺も予想していなかったけど、二回目はもしかしたらと思っていたが。


 「俺達はこれからどうするんですか?」

 「本隊の警備に加わる。前の襲撃で受けた損害の穴埋めをしたいらしい」


 苦笑しながらガルフ隊長は俺に説明してくれた。それで本隊の戦力は充分に回復できるそうだ。こんな雰囲気の中でのんびりとできないから、それでもいいか。


 ということで、盗賊討伐隊としてのガルフ小隊は一旦解体ということになった。正規兵は本隊へと戻り、俺達冒険者はガルフ隊長の指揮下のままだ。別の小隊が戻ってくるまではこのままなのだろう。




 それから数日の間に、続々と小隊が戻ってきた。ある小隊は俺達と同じように意気揚々と戻ってきたが、別の小隊はぼろぼろになって戻ってきた。盗賊の制圧が成功したかどうかは見た目ではっきりとわかるくらいだ。あの様子だと、六小隊のうち半分しか勝っていない。


 「さっき正規兵の奴から聞いたんやけどな、山に入ってからの損害が馬鹿にならんらしいで。本隊と小隊の損害を合わせたら、八十人くらいって聞いたわ」

 「山に入ったときの人数が全部で五百四十人だったから、一割五分くらいが死んだことになるのね。意外と多いじゃないのよ」


 散歩に行っていたカイルが戻ってくるなり、仕入れた話をみんなに開陳する。最初に反応したのはクレアだった。


 「他の戻ってきた小隊の連中によると、勝ったところは俺らと同じように楽勝やったみたいやな。けど、負けたところは人数が全然違ったらしい」

 「事前情報通りのところと、そうでないところの差が大きいということか?」

 「半年前の情報やしな。そんなこともあるんとちゃうかな」


 話の輪にアリーも加わってくる。楽勝だったとはいえ、俺達の場合も事前情報と実際の状況は違ったしな。人数が激増しているところがあってもおかしくない。


 「負けたところの中には、ろくに偵察もせんと突入したところもありそうやな」

 「参加した冒険者に聞いたら、そんな小隊もあったらしいで。様子を見ようって提案したのに却下されたって怒っとった」

 「なんでそんな大切なことを端折るんや。アホちゃうか」


 カイルの話によると、偵察せずにそのまま突っ込んだ小隊もあるらしい。指揮官の騎士からしたら、周囲に競争相手はいないんだし、もっと慎重にやってもよかったんじゃないか? 誰にも手柄をとられるわけじゃないのにな。冗談で言ったら事実と返されたスカリーも呆れている。


 「ねぇねぇ。さっきこの討伐隊から離れていく人を見かけたんだけど、あれはどうしてなのかわかる?」

 「ああそれな。これ以上戦えへん冒険者パーティの連中やろう」


 落ち着きのないジルもあっちこっちふらふらとしているが、どうもそのときに討伐隊から去って行く連中を見かけたらしい。


 ガルフ小隊に所属していた俺達以外のパーティは、戦力が半減したから三日前に去って行った。他にも、魔法使いや僧侶を失って去って行くパーティもあった。その結果、冒険者は十四組七十名にまで減る。街を出たときの半分以下だ。


 「しかし、今回相手をしている盗賊は随分と厄介だな。夜襲を仕掛けてきたり、後衛の僧侶や魔法使いを集中して狙ったり、実に嫌なことばかりしてくる」

 「フールの入れ知恵なんやろな。盗賊がこんなに的確な行動をするなんて聞いたことないし」


 難しい顔をして独りごちるアリーの言葉をスカリーが拾う。俺達も含めて、参加する者達にたかが盗賊という思いがどこかにあっただけに、これほどいいようにやられていることに衝撃を受けっぱなしだ。


 「ああそうか。どこかで見覚えがあると思っていたけど、あのときと同じか」


 前世でライナス達と一緒に冒険していた頃に、似たようなことがあったことを思い出す。確か、中央山脈で魔物討伐をしたときだ。ローラを俺達のパーティに迎え入れるために手柄が必要だったから、ライナスとバリーと一緒に参加した。


 そしてあのとき、山奥に潜んでいるという魔物を討伐する部隊と陣地を守る部隊に分かれたんだけど、部隊が分かれているときに陣地が襲撃を受けたよなぁ。その結果、陣地は壊滅、ライナス達もかろうじて生き残ったっけ。今回の件は、それに似ている気がする。


 「それにしても、相変わらず僧侶と魔法使いを集中して狙っているのよね。戦い方としては正しいんだけど、狙われる方としてはたまらないわ」

 「確かにな。うちも狙われる対象やからなぁ」


 俺の独り言をよそにして話は進んでゆく。目下一番の問題は後衛の狙い撃ちだ。正面からやってくる敵はどうにかできるが、相手の根城の中だと側面や後方からも襲われる心配をしないといけない。


 「う~ん、正面で敵と戦ってるときは、さすがに二人の様子を見るのは難しいよなぁ、アリーはどうや?」

 「私もだ。気を配ることはある程度できても、危地に陥ったときに助けられるとは限らない」


 自分の手がいっぱいのときはさすがに対処できないもんな。


 「それじゃ、あたしの精霊で守ってあげよっか?」


 さっきから俺達の上をふわふわと飛んでいたジルが口を挟んでくる。そうか、召喚した精霊で守るのか。


 「うちらを守るために精霊を使うんはええけど、ジルはどうするんや? 最低二体はうちとクレアにかかりきりになってしまうんやで?」

 「わかっているわよ。別に二体くらいどうってことないし、ユージもいるじゃないの」


 そうして全員の視線が俺に向けられる。確かにそうでしたね。俺も精霊を召喚できた。


 「わかった。それじゃ俺とジルで二体ずつ精霊を召喚して二人を守らせよう」

 「あれ、ひとり二体も必要なの? 一体で充分じゃない?」

 「念のためだよ。同時に二人が斬りかかってきたっていう事例がひとつあるからな」


 今回の討伐隊ではないが、以前冒険者活動をしていたときに、そんな不意打ちを食らったという話を聞いたことがあるのだ。かなりの使い手の魔法使いは、二人目の刃にかかって死んでしまったらしい。


 「ふ~ん、そうなんだ。それならあたしもユージも二体ずつ召喚しよっか!」


 俺の説明を聞いたジルは納得してくれたようで、次からはスカリーとクレアのために精霊を召喚してくれることになった。


 「ま、なんにせよ、次の命令があるまでは待ちやね。次はどうするんやろうなぁ」


 討伐隊の首脳部が詰めている天幕がある方を見ながらカイルは独りごちる。


 今後は攻めるだけじゃなくて守ることも考えないといけない。指揮するのは一層面倒になるだろうな。




 小隊が全て帰還して数日が過ぎた。上層部としては、このままだと成果が不充分ということで、盗賊の討伐は実行するらしい。


 ただ、討伐隊が事前に手に入れていた情報は、根城の位置以外はあまり参考にならないということがわかったので、今後は慎重に小隊を派遣することになった。


 具体的には、一度に派遣する小隊の数を減らして人数を増やす。また、必ず偵察を入念に行ってから攻撃を実施する。このような命令がコールフィールド隊長の名前付きで出された。


 「それで、今回の小隊はどんな編成になっているんですか?」

 「あ~、それがなぁ」


 新たな命令が出たと聞いたので俺達の隊長であるガルフ隊長に質問してみたら、なにやら歯切れが悪い。


 「貴様らのパーティは俺の配下のままで、斥候小隊として動くことになった。盗賊の根城を制圧するのは別の小隊の役目だ」


 詳しく話を聞くと、小隊を斥候役と攻撃役の二つにわけて、斥候小隊が最初に盗賊の根城について偵察し、その情報を元に攻撃小隊がその根城を制圧することになったそうだ。


 斥候小隊は騎士と冒険者一組で二個小隊、攻撃小隊は騎士、正規兵、冒険者六組で二個小隊である。俺達は斥候小隊のひとつというわけだ。


 「小隊の数を絞って、斥候役が敵情を正確に把握し、攻撃役が敵を制圧する。やり方としては正しいですよね」

 「確かにそうなんだが、斥候役は手柄を挙げられないんだぞ。特に今回は盗賊の所有物を自分のものにしていいんだ。斥候役に任じられた貴様のパーティは大損だろう? なのに随分と平気そうだな」


 なるほどね。ガルフ隊長からしたら、俺のパーティは権利を取り上げられたように見えるんだろう。なのに抗議しないのが不思議に思えるのか。


 「今回の敵は盗賊なのにかなり賢そうです。下手に攻撃に参加すると死にやすいんじゃないですか?」

 「貴様の言い分が正しければ、今回の討伐は失敗するということになるな」


 ガルフ隊長は苦笑するものの、俺を怒らない。今回の相手が厄介であることを肌で感じ取っているのだろう。


 「とにかくだ。先の攻撃で制圧できなかった三つの場所を攻撃小隊が攻略している間に、我々は別の根城について調べるぞ」


 ガルフ隊長の言葉に俺はうなずいた。


 俺達の目的はフールの討伐であって盗賊はどうでもいい。だから、安全に呪いの山脈を探し回れるのなら、むしろ都合がよかった。そういう意味では、この斥候小隊の役目は渡りに船といえる。


 ということで、再びガルフ隊長を頭に戴いて俺達は活動を開始する。隊長の従者も含めて全部で十二人だ。


 最初は討伐隊上層部が手に入れていた情報の確認である。どうせやるなら、できるだけ正確な情報を手に入れたい。なので、ジルを中心に俺の捜索サーチの魔法などを駆使して盗賊の根城について調べ上げる。


 また、俺達が以前単独で呪いの山脈を調べたときに見つけた盗賊の根城についても、うまい具合に話を持っていって『新たに発見』した。これにはガルフ隊長や討伐隊の上層部も喜んでくれて、俺達の意見は次第に採用されやすくなってきた。


 もちろん、その間にフールの所在も密かに調査していた。ガルフ隊長も俺達の提案に乗ってくれることが多くなったので、本来の目的のための調査も交えて偵察活動をする。ただ、今のところ成果はない。


 出鼻を二度も挫かれた討伐隊であったが、今の編成にしてからは嘘のように盗賊の討伐はうまくいくようになった。さすがに頭数を増やし、僧侶や魔法使いの守りを厚くすると、盗賊側は最終的にじり貧となる。


 呪いの山脈の南部でも、討伐隊は東の端で活動していた。やがてめぼしい根城を壊滅しつくすと、場所を順番に西へとずらしてゆく。当初の予定よりも時間はかかっているそうだが、成果は予定通り出ているようなので活動は続行するようだ。


 あと、人員の追加も始めたようだ。特に冒険者の消耗が大きいので、ラレニムの街だけでなく、連合の北部からも冒険者をかき集め始めたらしい。つまり、何ヵ月かかってもきっちりと盗賊を殲滅するという方針になったということである。これで領地が荒らされずにすむのならと、各貴族も協力してくれていると聞く。


 このように、全体的に盗賊の討伐隊はうまく機能している。たまに盗品をたくさん溜め込んでいる盗賊がいるため、冒険者も臨時収入が入って士気が高い。これなら、時間はかかっても呪いの山脈の南部にいる盗賊はあらかたいなくなるだろう。


 ただ一点、フールが未だに発見できないという以外に気になることがある。それは、呪いの山脈に多数いるはずの死霊系の魔物を全然見かけないということだ。斥候として多少奥に入っても全く見かけない。これは一体なぜなのか、俺は非常に気になっていた。

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