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転移した前世の心残りを今世で  作者: 佐々木尽左
10章 呪いの山脈
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夜陰の中での再会

 今は真夜中だが、前方には俺が出現させた火壁ファイアウォールの残骸、後方の上には冒険者達が出現させた光明ライトの球が浮かんでいるため、俺たちの走っている周囲は意外に視界がいい。


 火壁ファイアウォールは、俺達が戦っていた場所から百アーテムほど北側にあるのですぐ近くだ。三十秒もあれば余裕で到達できる。


 しかし、さすがに俺達の行動は見抜かれていたのか、半ばくらいまで走破したときに四人の男達が行く手を阻んだ。しかし、その四人の表情を見て違和感を覚える。他の襲撃者は怒りや笑いなどの感情を浮かべていたのに、こいつらにはそれが全くない。すっぽりと抜け落ちているかのようだ。これはまるで――


 俺達の正面に出てきた四人のうち、三人と真正面からぶつかった。そして剣を交えた瞬間、強烈な力で押さえつけられる。


 「うぉ?! なんや、こいつ?!」

 「くっ、これはいつぞやの!」


 カイルは後方に押し返され、アリーは剣を交差したまま力比べの状態に陥る。これは間違いない、ラレニムの倉庫で戦った奴と同じだ!


 しかし、暢気にそんなことを思い出している場合じゃない。俺、アリー、カイルが相手のうち三人と対したということは、残るひとりが余るということだ。そいつは俺達前衛の脇を抜けてクレアに襲いかかる。


 「きゃっ?!」

 「ちょっ、あぶなっ!」


 とりあえず第一撃は鎚矛メイスで受けたものの、クレアは勢いをあまり殺すことができずにスカリーのところへ弾き飛ばされる。俺達でさえ受けるのがやっとなのだから、クレアならこれでも上出来だ。


 しかし、いつまでもそんな幸運が続くとも思えない。祝福ブレッシングの魔法で攻撃が当たりにくくなっているとはいえ、それだって限度がある。


 「くそっ、こいつ!」


 何度か刃を交えているが相手の剣は何ともない。さっきの襲撃者の剣はあっさりと切れたのに、今回は普通に切り結ばれている。これは剣に魔力付与がなされているのだろう。


 そうなると、剣の技量で上回らないと勝てないわけだが、それに関して俺は相手よりも劣っているみたいだ。くっそ、どう考えても長期戦かよ!


 何とか左右を見ると、アリーは一応優勢に戦えているようだが、カイルは微妙に劣勢っぽい。俺よりましといったくらいか。これはいよいよまずい。


 「スカリー?!」

 「あかん、呪文唱えてる暇がないわ!」


 遠距離戦ならば圧倒的な強さを誇る魔法使いも、無詠唱で魔法を使えない限り、近距離戦ではほぼ普通の人と同じである。つまり、あの二人は俺以上にじり貧だ。


 ん? 無詠唱?


 そうだ、俺って使えるじゃないか! どうして戦士のまねごとをしているんだよ!


 あまりの間抜けさ加減に愕然とする。何も相手の得意分野でがんばる必要なんてないだろう。さっさと片付けてやる!


 今、俺の目の前の相手に意識の全てを戻す。


 こいつは最初の一撃以来、基本的に突き中心で攻撃してくる。しかも、頭と胴体だけでなく、手足も狙ってくるのでこっちは受け流すのにも苦労する。槍から剣に転向したのかと思えるくらいだ。


 更に一撃が重いので、下手な受け方をすると手にした剣を落としかねない。実に厄介な相手といえる。


 突きについてはできるだけ余裕を持って回避している。紙一重なんていう器用なことは、剣士でも戦士でもない俺には無理だな。しかし、たまに斬りかかってくるので、そのときに受け止めて膠着状態へと持ち込んだ。


 「火球ファイアボール


 何度か試してようやく剣を切り結んだ状態で膠着した直後に、俺は相手の頭部めがけて熱い火の球をぶつけてやった。無詠唱でいきなり火球ファイアボールを出現させたので、さすがにこれを避けることはできない。


 相手の頭部に火球ファイアボールがぶつかって派手に燃え上がる。その余波を受けて俺も熱波で熱い思いをしてしまったが、こいつを倒せるのならば安いものだ。


 頭部というよりも肩から上が燃え上がっている相手は、剣を放り出して火を消そうとしている。しかし、景気よく燃えている炎はそう簡単に消えない。


 対処されても困る俺は、まだ消火活動に忙しい相手に剣を突き立ててとどめを刺した。これでクレアとスカリーを助けられる!


 「へぇ、意外だな。冒険者にこの護衛を倒せる奴がいるなんてさ」


 スカリーとクレアを助けようとそちらに向き直ったときに、背後からやたらと軽い言葉が聞こえてくる。しかし、声色は少ししゃがれているので、あまり似合っているしゃべり方とは思えない。


 なんだと思って振り返ってみると、そこには身長二アーテム近い大男が二人の手下を従えてこちらを見ていた。顔もごつい。


 しかし、それ以上に驚いたのが、輪郭が二重にぼやけて見え、更に相手から妙な圧迫感を感じたことだ。フールの奴め、また別の奴を乗っ取ったんだな。


 「あれ? 君は……ああいや、なんでもない。しかし、こうなるとちょっと面倒だよね」


 俺を見て何かを言いかけたフールだったが、そのまま何も言わずに愚痴だけ垂らす。ハーティアで顔を見られているからな。


 「お前がこの襲撃の主犯だな!」

 「そうだよ。何しろ盗賊の親玉なんてやっているからね。こっちも生き残るためにはなんでもしなきゃいけないだろう?」


 こいつ、どうせ自分を殺した相手を乗っ取るくせに、よく白々しく言えるな!


 「ま、目的は果たしたし、もういいや。じゃぁね」

 「お前、逃がさねぇぞ!」


 目の前に殺気だった敵がいるっていうのに、まるっきりこっちを相手にしていない態度なのが腹立つ。どうせ死なないからって余裕こいているに違いない。後悔させてやるぞ!


 背を向けて立ち去ろうとしているフールを追いかけようとすると、手下の二人が行く手を阻む。その二人はさっきの四人とは違ってちゃんと表情がある。少なくとも、俺への敵意は感じられた。ということは、フールが乗っ取る前からの大男の手下なのかもしれない。


 「くそ、邪魔な!」

 「あ、そうそう、暢気にその二人の相手をしていていいのかい? 確か、仲間のお嬢ちゃん達が危なかったんじゃないのかな?」


 こちらに振り向いたフールが楽しそうに俺へと指摘してくる。そうだった!


 二人の敵と対峙しているので安易に背後へ視線を向けられないが、声を聞く限りではまだ生きている。それでも何となく追い詰められているような雰囲気だ。これは本当に加勢しないとまずい。


 少ししてから、対峙している二人の男は、じりじりと後退しているのがわかった。そうか、今回は本気で戦う気はないのか。


 それを見た俺は自分も後ろへと下がる。もうフールの姿は暗闇に消えて見えない。捜索サーチの魔法をかけたらわかるけど、今は知ったところでどうにもできないしな。くそ、悔しいな!


 適度に下がったところで、俺は二人の敵に背を向けた。追ってくることも追い打ちしてくることもない。とりあえずは忘れていいだろう。


 アリーとカイルは相変わらずだ。ただ、スカリーとクレアのことが気になっているらしく、自分の相手に集中できていない。


 一方、スカリーをかばうように戦おうとするクレアは、圧倒的に技量が上の相手によく善戦していた。今まで生き残っていたのは、呪文を唱えようとするスカリーの行動を相手の男が妨害しようとしていたからだろう。真っ正面からぶつかっていたら、確実にクレアは殺されていた。


 「クレア、スカリー! 一旦下がれ!」


 横合いから突っ込むようにクレアの相手へ剣を突き出すと、そいつは大きく飛び退いた。その隙にクレアとスカリーは俺の後方へと下がる。


 「よし、これで……って、あれ?」


 ようやく仲間の危機を救えてこれから反撃だと構え直す前に、相手の男は引き下がっていた。不利と悟ったのか?


 「あ、おい、どこ行くんや!」

 「ここで逃げるのか?!」


 更に驚いたことに、カイルとアリーの相手もほぼ同時に引き下がったらしい。まさか逃げるとは思っていなかったらしい二人は、その様子を呆然と見送る。


 そのとき、討伐隊の冒険者と戦っていた襲撃者も戦うのをやめて一斉に引き始めた。そういえばフールの奴、目的は達したって言っていたな。何が目的だったんだ?


 一種の虚脱状態にあった俺達は、襲撃者が引き上げる様子をぼんやりと眺める。冒険者の一部はそれを追いかけていた。


 俺としてはこれ以上戦う意味はないので、陣地へと戻ることにした。




 結局、戦闘はその後しばらくして終わった。領主軍の騎士達は追撃しようとしたが、夜陰に紛れて逃げられては追い切れなかった。


 翌日、この夜襲の結果が明らかとなる。領主軍に損害はなかったが、冒険者には多数の死者が出ていた。具体的には三十人が死んでいる。全滅したパーティが二組、他は僧侶と魔法使いが集中的にやられている。


 人数の面から見ると百六十人の二割を失ったわけだが、後衛が壊滅したパーティで今回の討伐を辞退する冒険者パーティが続出してしまう。それが十組、実に三分の一に達したのは討伐隊にとって痛手だった。このため、残った冒険者の数は二十組百人である。


 「結局、討伐隊の北側で寝泊まりしていたパーティは、俺達以外は抜けたんだよなぁ」

 「戦う分には俺らみたいな前衛の戦士だけでもええんやろうけど、けが人が出たり遠距離戦になったりしたらお手上げやもんな」


 フールが目的を果たしたって言ってたけど、おそらく僧侶や魔法使いを集中的に殺したことを言っていたんだろうな。あいつ、今度は盗賊の首領になっているみたいだから、こんなことをしたんだ。


 「しかし、あの大男が今度のフールなんですね。師匠に説明してもらうまで、全く気づきませんでした」


 あの二アーテム近くある男がフールであることについては、既に全員に伝えてある。間違って俺以外が相手をすると大変だからだ。その姿をはっきりと見ているのはアリーとカイルだけだが、これは仕方ないだろう。


 「しっかし、あの無表情の男ってほんまに怖かったな。うちが呪文を唱える暇なんてくれへんねんもん。危うく死にかけたわ」

 「でも、このままじゃ済まさないわよ。必ず追い詰めてやるんだから!」

 「お、その腰の鎚矛メイスで頭をかち割るんやね。クレアさんの新たな伝説が誕生や」

 「どうしてそうなるのよ! 大体わたし全然相手になってなかったじゃないの!」


 俺達の横でスカリーとクレアが漫才を始める。まるでこれから盗賊の討伐に参加するみたいな話になっているが、実はその通りなのだ。


 理由は、二人ともフールに顔を見られてしまったからである。しかも俺と一緒に戦っているところをだ。こうなると、俺がフールを倒さずに死んでしまった場合、二人が狙われる可能性がある。それくらいならば、いっそのこと徹底的に協力して確実にフールを倒してしまおうということになったのだ。これは連絡用の水晶を使ってサラ先生にも話をしてある。朝一番にひどい話を持ちかけることになってしまって心苦しかったが。


 ということで、これからのフール討伐にはスカリーとクレアが加わることになった。これはとても助かる。ちなみに、この二人が俺のパーティに参加することは、討伐隊の冒険者の管理担当にも伝えてある。数が減って困っていたところに参加者が増えたのだから、拒否などするはずがなかった。


 「しかし、終わってから気づいたんだが、結局ジルはずっと寝ていたんだよな」


 俺はそう言いながら、天幕の出入り口から顔だけを出しているジルに目を向けた。


 「あ、あはは。いや~、よく眠れたわよ?」

 「ようあんな騒ぎの中で寝とったな」


 カイルなどは呆れている。


 そう、この妖精は、なんと戦闘の間ずっと天幕の中で寝ていやがったのだ! 俺からすると大した度胸だと思うと同時に、よく天幕とともに無事だったなと感心している。何しろ、隣につなぎ止めていた馬二頭は混乱の最中に殺されていた。一歩間違えれば、この暢気な妖精も同じようになっていたのは間違いない。


 「昨晩の戦いにジルがいてくれたならば、もしかしたら師匠はフールを追えたかもしれないな」

 「うっ、ご、ごめん。次はちゃんと起きるから」


 今度はアリーに追い詰められている。俺に叱られるときと違って、随分としおらしいじゃないか。


 まぁ、あんまり追い詰めてもいい結果にならないだろうから、俺からはこれ以上何も言わないでおくけど。


 「フールに目をつけられたのは残念だけど、こうなったら絶対に討ち取りましょう」

 「そうやな。魔法操作マジカルコントロールの調子もよかったし、これから多人数相手でもどうにかなりそうやわ!」


 改めてフール討伐へ向けての決意表明をするスカリーとクレア。最初はジルだけのつもりだったが、こうやって二人も仲間に加わってくれると、やはり心強い。


 今のところ、フールと二回戦って二回とも逃げられている。今度こそは追い詰めて倒したい。

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