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転移した前世の心残りを今世で  作者: 佐々木尽左
10章 呪いの山脈
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盗賊討伐隊への参加

 ジルと再会した翌日、俺は全員を伴って冒険者ギルドへと向かう。できるだけ面倒を避けたかったので、かなり日が高くなってから宿を出た。


 冒険者ギルドの建物内に入ると、読み通り人は多くない。これならちょっかいを出されにくいだろう。


 「う、何よ、このにおい」


 中に入ってすぐに、ジルが冒険者ギルドの洗礼を受けて顔をしかめている。その両隣ではスカリーとクレアも渋い表情をしていた。こちらもまだ慣れないらしい。


 受付カウンターへ近づくにしたがって、ジルに気づく冒険者が増えていく。目をこすったり凝らしたり、中には二度見する奴もいる。


 しかし、建物内にいる冒険者の数が少ないこともあって、大きな騒ぎにはならない。


 「そんじゃ、うちらはここで待ってるさかいな」

 「早く応募を済ませてくださいね」


 今回の討伐に参加しないスカリーとクレアは、待合場所にある椅子に座って俺達を待つ。そんな大人数で行ってもしょうがないしな。


 「あんた、今日は珍しいのを連れてきているな」

 「こいつが今度新しく入った仲間だよ」

 「ジルってゆーんだよ!」


 ジルは、俺の右肩に立って頭のてっぺんに左手を乗せてから、中年の職員に名乗る。こいつ、俺を止まり木みたいに思っているな。


 一方、中年の職員はしばし絶句する。周囲の職員もジルに気づいたらしく、手を止めてこちらに視線を向けていた。


 「それで、今日は例の討伐隊に参加しようと思って来たんだけど、まだ募集しているよな?」

 「ああ、それは大丈夫だ。ぎりぎりだが期限内だしな。しかしその、ジルっていうちっちゃい嬢ちゃんは戦えるのか?」


 見た目の珍しさはともかく、小さい妖精が戦えるなんて普通は思えないよな。俺だって未だに半信半疑なんだから。でも、ここはきちんと言っておかないと。


 「戦いは直接戦闘だけじゃないだろ?」

 「ああ、なるほどな。そういうことか」

 「ねぇ、ユージ。それどういう意味?」


 とりあえずジルの質問を無視して、中年の職員に討伐隊に参加させても問題ないことを納得させる。説明するのが大変そうなので、今は事実よりも相手の理解を得る方を優先した。


 「それで、討伐隊に参加するためにはどうしたらいいんだ?」

 「この紙に参加するメンバーの名前と職業を書いてくれ。リーダーの名前の横には丸もだ。それが終わったらこの札を持って領主の館に行ってくれ。後の手続きはそっちでやることになっている」


 なるほど、冒険者ギルドは参加者を募集するだけなのか。この様子だと、報酬の受け渡しは領主のところかな。


 俺、アリー、カイル、そしてジルの名前を書き込んで渡すと、中年の職員は討伐隊参加者に渡されるという札を差し出してくる。見れば札の先の方に『三十』という番号が書いてあるぞ。


 「領主の館に着いたら、その札を差し出して、盗賊討伐隊への参加希望者だということを申し出てくれ」


 俺は受け取った番号付きの札をしばらく眺める。どう見ても普通の木の札だな。


 「他には何かあるか?」

 「いや、こっちは以上だ。死ぬんじゃないぞ」

 「じゃぁね~」


 俺は頷くと踵を返してスカリーとクレアの待つテーブルへと向かう。その後にアリーとカイル、そして頭上からジルが続いた。


 「ユージ先生、もう申し込みはできたんか?」

 「この札を持って、領主の館に行くことになった」

 「この三十っていう番号は、三十番目ということですか?」

 「たぶん」


 俺が近づくとスカリーとクレアが質問してきたので、返答しつつさっきもらった木の札をテーブルに出す。そして、クレアが手にとって眺めた。


 「ユージ先生、領主の館にはすぐに行くんでっか?」

 「うん。もうすぐ募集期限だし、早く行かないとな」

 「そんじゃみんなで一緒に行きまっか」

 「いや、俺ひとりで行く。みんなはジルと一緒にここで待っていてくれ」


 そう言うと、ジル以外の四人は俺とジルを見比べながら微妙に納得した表情となる。今一番近づきたくないところだよな。


 「え~、どうしてついて行っちゃダメなのよ!」

 「お前、領主と面会するつもりか? エディセカルで王族と面会させられそうになって逃げてきたんだろ? だったらついて来たら駄目だろう」


 俺の目の前で飛んで抗議しようとしたジルに反論すると、その表情が凍り付く。あんな堅苦しいところなんて、俺以上に嫌いだろうしなぁ。


 「ひとりで面会するっていうんなら、俺は止めないけど」

 「ごめん、あたしここでみんなと待ってるね」


 何を思いだしたのかはわからないが、ふらふらとクレアの方へと飛んでその胸にぴとっとくっつく。あ、ちょっと羨ましい。


 「師匠、ジルは問題あっても私とカイルは一緒に行ってもいいのではないですか?」

 「いいって言えばいいんだけど、ジルだけいないのが逆に怪しくなると思ったから、代表してひとりで行くつもりなんだ」

 「そうですか。私は師匠ひとりだと、本当に仲間がいるか怪しまれると思ったので、同行しようとしたのです」


 その言い方じゃ、俺に仲間がいないみたいな言い方でなんだか嫌だな。しかしそうか、仲間がいないと思われることもあるのか。だったらひとりくらい連れていくべきかもしれない。


 「そうか。なら、アリーがついて来てくれ。カイルは留守番な」

 「女ばっかりで固めると、変な奴が寄ってくるやろうしなぁ」


 よくわかってる。帰ってきたら乱闘騒ぎになっている、なんてことは勘弁してほしいからな。


 「よし、それじゃ行こうか」

 「はい」


 俺はスカリーに手渡されていた木の札を受け取ると、アリーと一緒に冒険者ギルドの外へと出た。




 ラレニムの領主の館は、街の中央よりやや南側にある。街ができた当初は真ん中だったらしいが、発展するにつれて北側に拡張していった結果、現在のようになったそうだ。


 冒険者ギルドから南に向かって歩くと、城壁のように高い塀と大きめの堀にぶつかる。これが領主の館、正確には敷地の一角だ。向かって左手の向こうには、入り口となる跳ね橋がある。


 領主の館というくらいだから城じゃないんだろうけど、さすがに身を守るために固めている防備はしっかりしていそうだ。二人で跳ね橋を渡ろうとすると、門番の二人が怪訝な顔をしてこちらに視線を向けてくる。


 「あの、盗賊の討伐隊に参加するため、冒険者ギルドからきました」


 門番に誰何される前に、俺は懐からもらった木の札を見せびらかしながら自分達の説明をする。すると、門番達は肩の力を抜いて警戒を解いた。


 「なんだ、もう来ないかと思っていたのに、こんなぎりぎりに応募してくるとはな」

 「札を貸してみろ。三十か。ああ、大体そんなもんだったよなぁ。ちょっと待ってろ。担当者を呼んでくる。おーい!」


 札を受け取った門番のひとりが、それを手にしたまま開けっ放しの門をくぐり、すぐその裏手へと回る。大きな声で呼びつけようとしたことは、すぐ近くに受け付け担当者がいるのか。


 一旦姿を消した門番は、すぐにひとりの男を連れてきた。門番は軽装の鎧を身につけていたので兵士らしく見えるが、この男は服装こそ門番と同じだが鎧は身につけていない。


 「私が、今回の討伐隊の受付担当者だ。この三十という札を持ってきたのは君たちか?」

 「はい、そうです」


 俺達の受け答えが始まると、自分の仕事は終わったとばかりに門番が定位置へと戻ってゆく。それでも興味があるのか暇なのか、視線はこちらへと向けたままだ。


 「君たちが三十組目の冒険者パーティということになるが、二人組なのか?」

 「いえ、もう二人います。今日は申し込みだけなので、代表して二人だけで来たんです」

 「わかった。それでは、こちらに来てもらおうか」


 受け付け担当者の兵士は、先ほどからアリーのことが気になるのか、ちらちらと視線を向けている。この辺りじゃ魔族は珍しいもんな。冒険者ギルドだと最近は落ち着いてきたけど、基本的にアリーはなかなか目立つ。


 門の裏手に回ると、小学校で使う机と長机の中間みたいな木製の机がひとつ、椅子とセットで置いてあった。その机の上には白紙の用紙が重ねて置いてある。


 「今から君たち全員分の名前をこの紙に書くが、って、お前は字が書けるのか?」

 「はい、書けますよ。四人分書けばいいんですよね?」


 俺がペンを手に取ると、驚いたように担当者は目を見開いた。冒険者で字の書けない奴は多いからその反応は仕方ないけど、俺はちゃんと練習したから読み書きできるぞ。


 腰をかがめると、俺は自分の名前を始め、他の三人の名前も順番に書いてゆく。大して時間はかからなかった。


 「ユージ、アリー、カイル、ジル、か。へぇ、ちゃんと読めるな。なかなか学があるじゃないか、お前」


 そりゃペイリン魔法学園で教鞭を執っていたからな。学がないと先生なんて務まらないぞ。面倒だから言わないけど。


 俺が紙に名前を書き終わってペンを置くと、その兵士が代わりにペンを持って三十と書き込む。そして、別の書類を取り出して、俺達の名前を含めて何かを書き込んだ。


 「よし、できた。おい、今からこれを渡す。これは今回の討伐隊に参加する冒険者パーティの証明書だ。これを持って一週間後に街の北門外まで来るようにな」


 受け取った証明書を見ると、確かに盗賊の討伐隊に参加したことを証明すると書いてある。


 「それがないと、参加中に物資の配給が受けられなかったり、盗賊どもから巻き上げた金品も全部没収になる。だから絶対になくすなよ」

 「略奪はありなのですか?」

 「あ、ああ。詳しくは一週間後に全員が集まったところで説明があるぞ」


 今まで堂々と話をしていた兵士は、横合いからアリーに質問されてなぜか動揺していた。それでも一応きちんと説明はしてくれる。


 「略奪したものは全て自分のものになるのだろうか」

 「説明は後日に全てするんだが……ええと、基本的には全部と思ってくれていい。ただし、魔法具みたいな珍しいものがあった場合は、召し上げになる可能性が高いだろう」

 「何を取ったのか見せる必要があるということですか」

 「そうだ。隠し立てして後で見つかると大変なことになるから、その場で全て見せた方がいいぞ」


 質疑応答をしているうちに、兵士は少しずつアリーに慣れてきたようだ。態度と言葉から動揺がなくなってきた。


 「もし有名な盗賊を討ち取ったら、何か褒美がもらえるのか?」

 「有名な盗賊? 今回の討伐対象にそんなのいたかな。ちょっとした賞金首はいるかもしれないが、期待しない方がいいと思う」


 名のある武将を討ち取ったならともかく、さすがに盗賊じゃ難しいだろう。というより、アリーは何を期待しているんだ。国や領主同士の戦争じゃないのに。


 尚もアリーが受け付け担当者の兵士に質問をしているが、さしあたって重要なことではない。


 他に重要なことといえば、報酬の受け取る方法や死んだときの対応などがある。特に死後のことなんて冒険者相手にしっかりやってくれるとは思えないが、一応話をすることはできる。


 俺に関しては、別にどうでもいいので何も考えていない。それと、極端な話、報酬もどうでもいいので、金額さえ合っていれば、後日指示された通りに受け取ればいいだろう。


 「アリー、そろそろ帰ろうか。どうせ説明は後でしてくれるんだろうし」

 「そうですか。わかりました。それではここまでにします」

 「お前らにとったら、いい稼ぎ時になるだろう。張り切って戦うといい」


 ようやくアリーの質問攻めから解放された受け付け担当者は、肩の力を抜いて最後にそう言葉をかけてきた。


 俺達二人は、跳ね橋を越えて領主の敷地内から街へと戻る。


 「師匠、思った以上にあっさりと受付は終わりましたね」

 「冒険者ギルド経由で募集をかけているからな、質はある程度確保できていると判断しているんだろう」


 領主が直接募集をかけると、本当に怪しい奴まで集まってしまう。そこから更に選別するとなると大変だ。そこで、ある程度の質と量を求めているときは、冒険者ギルドで冒険者を集めることが多い。


 言ってみれば、俺達は冒険者ギルドに紹介状をもらって討伐隊に参加しているようなものである。ただし、扱いは雑兵だが。


 「俺達からすれば、討伐隊に参加できればいい。後はこれをどれだけ利用できるかだな」


 討伐隊がどの辺りをどの程度まで討伐するのかまだはっきりとしていないので、俺としては少し不安は残る。ただ、他に紛れてフールの居場所を堂々と探せる状況というのはとても嬉しい。


 俺としては早く一週間後の集合時が待ち遠しかった。

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