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転移した前世の心残りを今世で  作者: 佐々木尽左
10章 呪いの山脈
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空き時間を利用した調査

 ジルが俺達と一緒にフール討伐をするのはいいとして、ラレニムから動きたくない俺達とどうやって合流するのかが問題となっている。これを解決するために、オフィーリア先生、サラ先生、レティシアさんの三人に話し合ってもらうことになった。


 その間は特にやることもなかったので、冒険者ギルドへ報酬を受け取りに行ったり、みんなで水晶を使ってスカリー、クレア、シャロンと話をしたりしていた。


 「そういえば、いつ返事がもらえるのか聞いていなかったな」


 三人とも連絡用の水晶を持っているので、一見するといつでも連絡できるように思える。しかし、三人とも日々仕事や面会などをしているのだから、すぐに都合が合うとは限らない。ただ、早く話し合って決めてくれないと間に合わないので、あまり悠長なことも言っていられない。


 スカリー達三人と話をした翌日の夜に、俺は再度レティシアさんに連絡をとった。


 「こんばんは、レティシアさん。一昨日のジルをこちらへ連れてくる話はどうなりましたか?」

 「こんばんは、ユージ。ふふふ、急いでいるのですから気になりますよね」

 「やっほー! ユージ、あたしね、スカリーとクレアにあんたのところまで連れてってもらうことになったよ!」


 挨拶をすぐに切り上げて本題へと入った俺に対して、レティシアさんはその心中を察してくれた。そして、具体的に返事をしてくれたのは、横から入ってきたジルだった。


 ジルの話を聞いた俺は、一瞬固まる。え、スカリーとクレア?


 「どう? 驚いたでしょ!」

 「昨日、その二人と話をしたけど、何も知らない様子だったぞ?」

 「それはそうでしょ。だって決まったの昨日の夜なんだもん。スカリーとクレアに教えたのだって今日の朝なんだから、昨日の夜は知らないわよ」


 そうだったのか。どうりで暢気に俺達と話をしていたはずだ。あのとき知っていたら教えてくれただろうし。


 「しかし、よくサラ先生が許したな。俺達との同行は許さなかったのに」

 「他に案がなかったのと、いくつかの条件を付けることで同意してもらいました」


 ジルと話していたらレティシアさんが横から説明をしてくれた。条件というのは、二人の安全を優先すること、二人の安全について可能な限り努力すること、道中はジルも二人を守ること、というものだ。一見すると過保護に思えるが、お家断絶の危険性があるので納得はできる。


 「具体的にはどんなことをするんでっか?」

 「まず、道中に危険なことがあったら可能な限り回避します。争い事は御法度ですね」


 君子危うきに近寄らずってわけだ。わざわざ危険なことをする必要なんてないからこれは理解できる。


 「次に、オフィーリアとトーマスから魔法具をひとつ借りました。一度しか使えませんが、転移の魔法が使える腕輪をスカリーとクレアにひとつずつ渡すことになっています」


 え、何それすごい。聞けば、以前から少しずつ作っていたらしい。俺達の分も持ってきてくれるそうだ。


 ちなみに、どうして俺達が出発するときに渡してくれなかったのかというと、俺が転送用の魔方陣を描けるので不要だと思っていたそうだ。しかし、俺は今回道具を持ってきていなかったりする。ははっ。


 「最後に、これは当然のことですが、何か危機が迫ればジルは二人を助けることになっています」


 三つの内容を聞いてみたが、腕輪以外は特別なことじゃないな。これで俺達のところまでの案内役を任せたということは、後方支援の一環と見なしてくれているんだろう。ただ、言ってみれば前線に向かわせるようなものだから、あえてこんな条件を付けたんだろうな。


 「出発はいつなんだろうか?」

 「明後日です。そちらが急いでいるのはわかりますが、スカリーとクレアにも準備というものがありますので」


 アリーの質問にもレティシアさんは答えてくれる。


 「大丈夫でっせ。まだ募集の張り紙はなかったですさかいに」

 「道中は馬を使って一ヵ月くらいですから、明後日に出発してくれるなら間に合いそうですね」


 俺はカイルと一緒にジル側の対応で問題ないことを説明した。


 「ユージ先生、これで戦力強化は討伐隊の参加までにできそうですやん。よかったぁ」

 「それに、久しぶりに二人と会える。楽しみだ」


 カイルとアリーは嬉しそうに話しかけてくる。


 「ありがとうございます。これで安心して旅を続けられます」

 「よかったですね。わたくしとしても、やるからにはあなたに成功してもらいたいですから」

 「ふふん、あたしが参加するんだから、もう勝ったも同然よね!」


 勝ったも同然かどうかはともかく、討伐の成功はより確実なものになるだろう。後はフールがどれだけ普段から準備をしているかだろうな。




 ジルとの合流の問題はひとまず解決した。募集期限ぎりぎりには間に合うみたいだから、ジルと合流してから討伐隊の募集に応じることにしよう。


 そうなると、待っているこの一ヵ月間をどうしようかという問題が浮上してくる。数日くらいならラレニム観光をして過ごすのもいいが、一ヵ月はさすがに長すぎる。ならば星幽剣アストラルソードの制御の修行をしようかとも考えたが、今度は場所がない。


 そこで俺達は、呪いの山脈へ行ってみることにした。街道沿いに馬で十日ほど進むと呪いの山脈と併走するが、そこからちょっと中に入ってみるのである。


 これは偵察である。第一の理由は呪いの山脈の地形を体験するためだ。盗賊の討伐隊へ参加してから足を踏み入れてもいいのかもしれないが、以前に一度来た場所という感覚があると、何をするにしても自信を持って行動できる。フールと戦うときの不安要素はひとつでも減らしたいので、やることにしたのだ。


 他にもうひとつ、フールの探索という作業も兼ねている。ちょっと山に入ったくらいでは見つかるとは思えないが、もしこれで引っかかったら儲けものだ。状況によっては討伐隊に参加せずに単独で向かってもいいだろう。そういった選択肢を増やすためにも、自分の思うように捜査がしたいのである。


 この考えをアリーとカイルに打ち明けると、二人とも賛成してくれた。どうも前の依頼で街中は一通り歩き回ったので、今度は外に出てみたかったらしい。


 そうなると、善は急げだ。厩舎で預かってもらっていた馬を引き取るとすぐに出発した。


 「いやぁ、なんかこうゆうのって久しぶりやなぁ」

 「ラレニムに着いたのは十日前だから、そんなに経っていないはずだぞ」

 「こうゆうんは、気分の問題なんやって!」


 馬上でのんびりと揺られていると、くつわを並べて進むカイルとアリーが雑談を始めた。どちらの言い分もわかるけど、やっぱり開放感ってのはあるよなぁ。


 季節は既に秋なので普通なら涼しいはずなのだが、ラレニム連合は大陸の南東部にあるためそんなことはない。感覚としては残暑の季節といったところだ。呪いの山脈もラレニム連合に接している部分は、山に登ってもそんなに寒くないらしい。


 馬で街道を北上して六日目には北西へと進路をとる。この辺りからラレニム連合の北部と呼ばれる地域であり、盗賊の被害が大きいところだ。


 「冒険者ギルドでは盗賊が猛威を振るっているように聞いていたが、そんな気配は感じられないな」

 「アリー、そりゃ警備のしっかりしてる街道やからやんか。盗賊かて死にたないんやさかい、手薄な村や単独行動してる隊商を狙うって」


 レサシガム共和国のときみたいに、街道上に破壊された荷馬車などがないことをアリーは不思議に思ったようだ。


 この辺りは昔から開発が進んでいるので、街道以外に多数の村が存在している。そのため、盗賊はそんな村を中心に襲っているらしい。街道が荒らされると商人を通じて国外にも話は広まりやすいからな。メンツもかかっているだけに貴族側もここだけはしっかり保護している。


 そんな事情もあって、この十日間は安全に進むことができた。現在はラレニム連合の北の端にいる。更に街道を進んでゆけば一日でハーティア王国だ。


 問題はここからだ。街道から外れて真北に向かうと馬で半日のところに呪いの山脈がある。ここでは何ひとつ保証されないので危険極まりない。


 今後の予定は、呪いの山脈の麓に着くとそのまま麓に沿って真東へと進み、大体ラレニムの街の真北までやってきたら南下して街へ戻ることにしている。その間、頻繁に捜索サーチの魔法をかけて、フールと盗賊の様子を窺うのだ。俺の捜索範囲は現在半径三オリクなので、山の入り口がどうなっているかくらいは調べられる。


 「盗賊と出会わなければいいのだがな」

 「どうやろ、そんなうまいこといくかなぁ。連中の溜まり場みたいなところなんやろ?」


 万が一、盗賊を見かけた場合は逃げることにしている。今回は戦いに来たわけではないし、多数で来襲されたら面倒だからだ。


 それと、ここに来て馬の食べる飼い葉のことを思い出した。呪いの山脈では手に入らない。しかし、馬の腰に乗せても大した量にならない。


 色々と考えた結果、大八車のように簡素な荷馬車一台を買い、そこに飼い葉を積み上げることにした。この二輪の荷馬車は三頭の馬で順番に引っ張ればいいだろう。


 「さて、これでいいか」

 「まぁ確かにええんですけど、なんや不格好でんな」

 「やむを得ないとはいえ、な」


 最初は俺の乗る馬で引っ張ることになったが、いざ金具を馬に装備して荷馬車をつなげてみると、その姿は微妙だ。馬が荷馬車を引っ張る姿なんて見慣れているはずなのに違和感があるのは、乗馬用の馬に引かせているからなんだろう。


 それでも他に手段のない俺達はこの荷馬車を使うしかない。この際見た目は諦めて出発した。


 街道から呪いの山脈までは真北に進んで約半日だ。これだけ近いのだから盗賊に頻繁に襲われてもおかしくないのだが、街道だけはがっちりと守られているので滅多に襲われることはない。


 呪いの山脈と呼ばれている山々は、以前踏破した大北方山脈と比べると大して険しくない。標高が高くないだけでなく、山の斜面も比較的なだらかだ。そういった意味では登りやすいといえる。


 しかし、呪いの山脈は盗賊の根城となっている以外に、死霊系の魔物が多数生息していることで有名だ。特に幽霊ゴーストが多い。どうしてこんなにいるのか誰もわからないが、一説によれば、旧イーストフォート滅亡時に一緒に滅んだ周辺の村人のなれの果てだという。


 そういった理由もあり、呪いの山脈に踏み込むときは、昼は盗賊、夜は幽霊ゴーストに気をつけないといけない。


 昼頃に麓へと着いた俺達は、まず捜索サーチを使って周辺について調べてみた。半径三オリク以内にフールはいない。山賊は十人くらいが一ヵ所に固まっている。たぶん根城だろう。


 「師匠、どうですか?」

 「う~ん、根城らしきものがひとつあるだけだな。外れだ」


 さすがに最初から当たりを期待はしていない。さて、ここから麓を東に進みながら捜索サーチをかけていく。


 麓は比較的なだらかとはいえ、やはり平地よりは進みにくい。荷馬車を引いているとなると尚更だ。


 俺は馬で少しずつ進みながら、三十分に一回の割合で捜索サーチをかけていく。風景同様毎回の結果にほとんど変化はないが、せっかくやってきたのだから虱潰しに調査して抜けがないようにしたい。


 それと、調査の結果わかったことは順次記録として残している。討伐隊に提供するかどうかはともかくとして、自分達が動くときに予想外のことを減らすためだ。これはアリーとカイルにも手伝ってもらっている。


 昼間の調査が終わると、夜間は野営をすることになる。すると、脅威は盗賊から死霊系の魔物へと代わる。


 「うわ、いるいる」


 日が暮れてしばらくしてから捜索サーチで調べてみると、どこから現れたのか大量の幽霊ゴーストが現れていた。


 「あー、目視でも確認できますわ。あれ光ってんのかなぁ」


 周囲に点在している幽霊ゴーストを眺めているカイルが隣から話しかけてくる。あいつらって、月明かりがない真っ暗なところでも見えるからなぁ。確かにどうなっているんだろう。


 ちなみに、アリーは既に眠っている。これだけ幽霊ゴーストが点在しているとなると、ひとりで不寝番をするのは難しい。だから、ひとりずつ眠ることにした。


 こうして、四日ほどかけてゆっくりと呪いの山脈の南部を調べていった。さすがに内部まで確認することはできなかったが、これで麓近辺はかなりはっきりとわかった。


 「う~ん、さすがにフールの反応はなかったか」

 「もっと奥にいるんとちゃいまっか? なんか研究してるんやったら、隠したいもんもぎょうさんあるやろうし」

 「しかし、麓だけでもこれだけのことがわかれば、次に来たときはかなり心強い。一旦街に戻って対策をゆっくりと考えることもできる」


 俺はフールの反応が得られなかったのを残念に思っていたが、特にアリーなんかは調査記録がこれから役立つことを喜んでいる。


 「しかし、こうなるとどこにいるんだろうなぁ」

 「更に奥の場所ということになりますね。場合によってはこの山脈を虱潰しに探す必要がありますね」

 「そりゃ面倒やなぁ。それより、ラレニムの討伐隊ってどこまで進むつもりなんやろな? これ、結構おるやん」


 俺達はこの調査でフールの居場所をつきとめられなかったので、盗賊の討伐隊に参加することになる。しかし、その討伐隊がどのくらい盗賊を討つのかは実際に参加してみないとわからない。麓の山賊をいくつか討ち取っておしまいというのなら、早々に抜け出したいな。


 「とりあえず、一旦ラレニムに戻って討伐隊の募集要項を見てみよう。ここで考えたって何もわからないしな」


 今頃はもう募集が始まっている頃だろう。どのくらいの冒険者が集まるのかはわからないが、たくさん集まるほど討伐隊は山脈の奥まで入り込むことができる。俺達としても奥地へと進みたい理由ができたので、たくさんの冒険者が応募していることを祈るばかりだ。


 調査の終わった俺達は、真南へと向かって馬を進めた。

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