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転移した前世の心残りを今世で  作者: 佐々木尽左
9章 届かぬ刃
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真銀製の剣を使った修行

 ロックホールから戻ってきたスカリーとクレアの二人から受け取った真銀ミスリル製の剣二振りを手に、俺とアリーとカイルの三人はフォレスティアへと転移した。


 「あ、やっと来た! ねぇねぇ、それが真銀ミスリル製の剣ってやつなの? へ~、長いのと短いのが二つあるんだ」


 俺の修行に付き合うのがすっかり当たり前となったジルが、レティシアさんに挨拶をする俺の真上でぐるぐると回る。珍しいものに目がないジルのことだからこれは予想できた。


 「これでようやく星幽剣アストラルソードを制御する修行ができるのですね。よかったではありませんか」


 手に入れた二振りの剣を見せると、精霊の水を提供してくれたレティシアさんも喜んでくれた。ただ、剣そのものに興味はなさそうだけど。


 「聞けば、フールの居場所は既につきとめているそうですね。それと、オフィーリアとトーマスも何やら魔法具を作っていると聞いています。条件は揃いつつあるようで何よりです」


 連絡用の水晶を持っているレティシアさんは、オフィーリア先生とサラ先生の二人とたまに話をしている。それはもちろんフール対策が中心なのだが、最近は仕事や趣味へと話題が広がりつつあるらしい。俺が聞いた範囲では、徐々に友達に電話をかける感覚になっているようだ。


 それといつの間にか、月に一度という間隔でレティシアさん、ジル、オフィーリア先生、サラ先生の四人は会食しているそうだ。フォレスティア、デモニア、レサシガムの各屋敷で順番に夕食会を開いていると聞いたときは本当に驚いた。四人は普段簡単には出かけられない身分なので、こういう会食は大切な息抜きらしい。いつの間にそこまで仲良くなっていたんだろう。


 そういった理由から、俺達の様子は大体のところを把握されている。次第に水晶と魔方陣の使われ方がごく個人的なものになりつつあるが、おそらく一番いい使われ方をしているんだろうな。


 「ユージ、それじゃ早速修行しに行くわよ! ほら、ちゃっちゃと使えるようにならないとね!」


 まるで自分が新しいおもちゃを手に入れたみたいにはしゃぐジルに急かされる。


 「そうです、早く修行をしましょう、師匠」

 「俺もその真銀ミスリル製の剣がどんなもんか気になりますさかい、早速試し切りしましょうや」


 どうも俺以外の三人の方がよほどやる気があるようだ。レティシアさんと目を合わせてお互い苦笑する。これじゃ誰のための修行なのかわからないな。


 俺達三人はレティシアさんに礼をすると、ジルを伴って修行場である別荘へと向かった。




 すっかり修行の場として定着した魔方陣のある別荘近辺には、基本的にエルフは近づかない。単純にこの辺りに用がないからだ。たまにジル以外の妖精がやってくることがあって絡まれることもあるけど、そのときはジルに対応してもらっている。一緒になって遊んでいるだけだけどな。


 「それで師匠、修行はどのようにして進めるのですか?」

 「まずは真銀製長剣ミスリルロングソード星幽剣アストラルソードを制御できるかの確認からだ」

 「前世でできとったんとちゃいますの?」

 「前のときはライナスと一緒にやってたけど、今は俺一人だからな。最初からひとつずつ確認しておくべきだろう」


 俺としても、真銀ミスリル製の剣を手に入れたのだから星幽剣アストラルソードを制御できると考えている。しかし、前世と状況が違うのだから、今との差異を最初に知っておくべきだろう。


 俺は長剣ロングソードの方を鞘から抜くと両手で持って構え、視界の中心に一アーテムの刃を据えてじっとする。


 次に、俺は長剣ロングソードへと魔力を流し込む感覚を想像しながら星幽剣アストラルソードを発動した。それに応じて真銀製長剣ミスリルロングソードが輝く。


 「わ! できたじゃない!」


 嬉しそうにジルが俺の上をぐるぐると回る。アリーとカイルの二人も顔に笑顔を浮かべているのが視界の端に映る。俺としてもとりあえずは嬉しい。


 そして、俺は剣を輝かせたまま、しばらくじっとしている。


 「師匠、先ほどからじっとしていますが、どうしたのですか?」


 いつまでたっても俺が動かないことに疑問を持ったアリーが声をかけてくる。俺としても早く色々と試したいが、まずは真銀ミスリル製の剣が星幽剣アストラルソードに耐えられることを確認しないといけない。


 今までだと星幽剣アストラルソードを発動してからすぐに武器は壊れてしまったが、今のところ真銀製長剣ミスリルロングソードに異変はない。俺は更に魔力を注いで剣の光度を上げる。


 ライナスが使っていた剣と全く同じ材料でできているのは知っているが、本当にあれと同じように扱っても壊れないという保証はない。俺としては魔王と戦っていたときと同じように使えるのが理想だから、徐々にその状態へと近づけるべく魔力を注いでゆく。


 「ちょっ?! ユージ先生! まぶしすぎまんがな!」

 「なによこれ?! あんたやりすぎ!」


 光度が際限なく上がるせいで、既に周囲は何も見えなくなりつつある。白一色の世界、かつてのときとほぼ同じだ。そうか、この剣も耐えられるのか。


 それがわかると、俺は星幽剣アストラルソードを一旦解除する。すると、途端に輝きは失われた。しかし目の状態はおかしくなったままなので周囲はよく見えない。


 「うん、これなら相当無茶をしても大丈夫だろう。ライナスの使っていた剣と同じだ」

 「魔王と戦ったときもこんな感じだったのですか?」


 顔をしかめたままのアリーが尋ねてきたので、俺は頷く。まだ目の状態が正常に戻りきっていないようだ。


 「もう、目がちかちかするじゃないのよぅ!」

 「いやそれにしても、あそこまで光らせられるなんて思いませんでしたわ。今の見たら、ほんまに何でも切れそうですやん」


 目をこすって身をくねらせているジルの横で、目を閉じたり開けたりしているカイルが感想を漏らした。


 「充分に魔力を注げることは今のでわかった。次はきちんと制御できるかだな」


 問題はここからだ。発動だけなら今までもできた。今度はこの星幽剣アストラルソードを自在に扱えるようにならないといけない。


 俺は再び剣を構えると星幽剣アストラルソードを発動させる。さっきとは違って、今度は注ぐ魔力の量を減らす。すると光度は下がる。淡く輝くくらいになったところで、この辺りが下限値だということがわかった。


 その状態のまま、俺は近くにある比較的細い木に寄る。それでも直径が四十イトゥネックはあった。


 それと向き合って剣を振り上げると、右上から左下に剣を一気に振り下ろした。そして、あまりの手応えのなさに驚く。何かを切ったという感触がほとんどないものだから、一瞬空振りしたのかと錯覚したくらいだ。


 しかし、俺が剣を振り抜くと同時に木が切り口を境にずり落ちる。すげぇ、剣の扱いがうまくない俺でさえこんなことができるようになるのか。真銀ミスリルでできた武器の切れ味っていうのもあるんだろうけど、それでもこんな豆腐をきるような感覚にはならないだろう。


 これならどんなものでも切れそうだ。単純によく切れるというだけでは困るが、切れないよりもずっといい。


 「え?」


 そうやって俺が星幽剣アストラルソードの切れ味に感動していると、たった今切った木がゆっくりとこちらへ倒れてくる。まるで、お前も道連れにしてやるといわんばかりにだ。


 「うわー!」

 「ちょっ! なにしてんですか、ユージ先生!」

 「師匠!」


 俺の悲鳴と他の悲鳴が木の倒れる音と一緒に響き渡る。


 かろうじて避けることのできた俺は、尻餅をついたまま呆然と倒れた木を見ていた。そうだよな、考えて切らないとこんなふうになるんだよな。だから木こりさんは木を切る方向をちゃんと考えて切るし、倒れるときは周囲に声をかけるんだ。アホだな、俺。


 「こらー! ユージ、そんな簡単に木を切っちゃダメでしょう! 木だって生きているんだよ! 試すなら石か岩にしなさい!」


 そして真っ先に俺のところへ飛んできたジルに叱られた。むやみやたらに木を切るなと。ここは人間の住むところじゃないんだから、当然エルフや精霊のやり方に合わせないといけないよな。


 「一瞬空振りしたように見えましたが、随分と大した切れ味ですね。私の剣でも今の木は切れるでしょうけど、あそこまで抵抗なく切れるかどうか」

 「切っちゃダメなの!」


 アリーが寄ってきて感想を述べてくれた。横でジルがその発言に怒っているせいで、俺としては少し気になる。


 「俺の鉄製の剣やと食い込ませるのがやっとやろうなぁ。魔力付与エンチャントかけたらいける……かなぁ。やっぱり無理か」

 「だーかーらー! 切っちゃダメなんだって!」


 すっかり興奮しているジルは、木を切る話をしている俺たちに向かって声を張り上げていた。


 「わかった。もう切らないから、こっちの話をさせてくれ」

 「みんな後でお説教だからね!」


 俺だけが悪いはずなのに、なぜかアリーとカイルも連座してしまっている。


 ともかく、とりあえず真銀製長剣ミスリルロングソードならば、魔力付与エンチャントのように星幽剣アストラルソードを扱えそうなことはわかった。恐らく真銀製短剣ミスリルショートソードも似たような感覚で使えるはず。そうなると、あとはどれだけ練習を繰り返して自在に使えるようになれるかだな。




 これ以後の修行は、星幽剣アストラルソードを自在に発動させて魔力の量を調整する訓練に重点を置いた後に、アリーとカイルの二人に相手をしてもらいながら実戦でも使えるように練習を繰り返した。


 一度感覚を掴むと、発動と魔力量の調整は意外と簡単にできた。それができたら後は簡単と言いたいところだったんだけど、困ったことに実戦形式で戦ってみるとうまくはいかなかった。あまりにも戦いに集中しすぎると、星幽剣アストラルソードの発動が解除されてしまうのだ。


 「おっかしいなぁ。どうして解除されるんだろう。ライナスはそんなことなかったような気がするんだけどなぁ」


 基本的に剣の技量は三人の中で一番劣る俺が二対一形式で二人を相手にすると、ほぼ完璧に星幽剣アストラルソードの発動は解除されてしまう。目の前の危機に気を取られて星幽剣アストラルソードどころではないのだ。


 「ユージ先生。前世って先生とライナスの二人で星幽剣アストラルソード使つこうてたんでしたっけ?」

 「うん」

 「ということは、先生が星幽剣アストラルソードを維持する担当で、ライナスは使うだけでよかったんとちゃいますか?」

 「あー」


 休憩中にみんなと雑談していると、カイルがふとそんなことを話してくれた。なるほどな、俺がいたことでライナスは使うだけでよかったのか。


 「そうなると、師匠はひとりで二人分の役割を果たさないといけないわけですね」

 「うーん、そんな器用なことができるのかなぁ」


 あんまり器用じゃないという自覚があるだけに、俺としては自分に疑問を持たざるを得ない。最終的には慣れなんだろうけど、時間がかかりそうだなぁ。


 「だったらできるまで練習すればいいじゃないのよ」

 「飽きやすい性格のお前に言われてもな」

 「何よその言い方は! あたし、あんたに言葉と魔法を教えてあげたじゃない。物覚えのよくない、あ・ん・た・に!」

 「ええい、そんなところを強調すんな!」


 言っていることに納得できてしまうだけに、余計に腹が立つ。確かに、なんだかんだ言って最後まで教えてくれたんだよな。かなり複雑な気分だ。


 「なぁ、アリー。ユージ先生って、どの辺りまで星幽剣アストラルソードの発動を維持できてるように見える?」

 「一対一ならかなりまで集中できているように見える。それが二対一になると駄目になっている。つまり、師匠は同時に二つまでなら並行して物事に当たれるらしい」


 俺がジルとじゃれている間に、アリーとカイルが俺についての分析を始めていた。三つ以上同時に対処しようとすると集中力が散漫になるのか。


 「ということは、今のところ一対一ならフールと戦えるのか」


 とりあえず最低限の能力は身につけたと判断していいだろう。でも、本当に最低限でしかないから不安でもある。


 「ねぇねぇ、それだったらさ、あたしも混ざって三対一に対処できるように目指したらどうかな?」

 「高負荷をかけて能力を上げるやりかたか。ふむ、悪くはないな」


 ジルの提案にアリーが乗りかかろうとする。


 三対一に慣れてしまえば、二対一のときでも星幽剣アストラルソードを発動し続けられるという考え方か。


 「たぶん、それができるようになったら、三人以上でも使えるようになるんやろな。ユージ先生、どうでっしゃろ?」

 「今のところ慣れるしかないってんなら、ジルの案に乗りかかるしかないよなぁ」


 あんまり負荷が高すぎると俺がつぶれてしまいかねないので、正直なところ気が進まない。でも、他にいい案がない以上、この方法を採用するしかない。


 俺達は三対一で戦う方式で修行を再開することにした。やってみる前からわかっていたことだけど、やっぱりえらく大変だった。ジルの奴に遊ばれているのがわかって悔しかったが、徐々に手応えを感じられたので何も言い返せなかったのが更に悔しい。


 効果があるのならこのやり方を続けるしかない。結局のところ、俺はこのまま三対一で対戦を続けて、ひたすら三人にボコられる日々を送ることになった。

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