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転移した前世の心残りを今世で  作者: 佐々木尽左
8章 袖触れあう距離
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全員が揃った

 スカリーとクレアがノースフォートからレサシガムへと移動するのに、約一ヵ月かかる。連絡用の水晶で話を聞いていると旅そのものは順調で、このままだと予定通りに到着するということだった。それが今月の二十二日らしい。


 俺からすると随分時間がかかっているように感じるが、それは転移用の魔方陣で気軽にあっちこっち行っているからだ。魔方陣の使えないところへ行くとなると、あの二人と同じく移動にやたらと時間がかかる。


 ということで、十日ほど間が空きそうなので、その間に関係各所へ行くことにした。このとき、どうせならということでシャロンも一緒に連れて行く。


 デモニアのオフィーリア先生の所へは既に行ったので、次はレサシガムのサラ先生の所とフォレスティアのレティシアさんの所だ。どちらも違う意味でシャロンは感激していた。


 サラ先生と約一年ぶりに再会したシャロンは、涙を浮かべて抱擁を交わしていた。スカリー達のときもそうだったが、もう会えないと思っていた人に会えたのだから、その嬉しさも一入ひとしおだろう。自領に屋敷を構えて研究をすることになったが、魔方陣のおかげで今後も交流できることを互いに喜んでいた。


 一方、レティシアさんとジルに初めて会ったときのシャロンは、おとぎ話で知るエルフと妖精を目の当たりにして完全に舞い上がっていた。フォレスティアを見たときも驚いていたけれどその比じゃない。おかげで、一緒に来ていたアリーがなだめるのに苦労していた。毎日水晶を使ってお話ししたいと言っているが、迷惑だからやめような?


 現在魔方陣を使って転移できる先を一通り案内すると、シャロンは自分の屋敷で再び研究に戻る。


 それに合わせて、俺は星幽剣アストラルソードを扱う制御の練習を再開した。とはいっても、剣の制御の方ではなく、魔王がやっていたような物理魔法攻撃を防いだり魔法を無効化したりできないかということを試していたのだ。あれが俺にもできるようになったら、フールもあっさりと倒せるようになるだろう。


 とりあえず右腕以外からも星幽剣アストラルソード発動時の発光ができるように練習しているが、魔力の消費が激しくなっただけでまるで制御できない。何日か試してみたが、今のところ糸口すら見つけ出せないでいた。




 そうしてついに、スカリーとクレアがレサシガムに戻ってくる日がやって来た。こういう旅では数日遅れるのは当たり前だが、毎日のように水晶で連絡を取り合っているので、あの二人の場合に限っては到着日がわからないなんてことはない。


 できればレサシガムのペイリン邸でお出迎えをみんなでしたかった。けど、初日は家族が再会を喜び合うべきだろうというシャロンの忠告を受けて、俺達は翌日にあの二人と会うことにした。


 そして当日、俺、アリー、シャロンは、魔方陣を使って一緒にペイリン邸へと転移した。


 「おー! みんな直接会うんは久しぶりやなぁ!」

 「本当ね! 久しぶりに会うっていう感じはしないけれど」

 「スカーレット様! ああ、やはり直接お目にかかるのが一番ですわ!」

 「二人ともお帰り、と言うべきなのだろうな」


 出会った瞬間、スカリー、クレア、シャロン、アリーはすぐさま近寄って何度も抱擁を交わす。たぶんシャロンがいなければここまでの騒ぎにならなかっただろう。俺は完全に出遅れてしまい、その輪に入れないでいた。


 「数年ぶりに会う同窓会みたいだな」

 「ほんまやな! まぁ、シャロンとこうして会えるとは考えとらへんかったから、気分はすっかり同窓会なんやけど」


 応接室のソファに座ったスカリーが俺に向き直って答える。この四人で集まれるのが嬉しいらしく、非常に上機嫌だ。その隣にはシャロンがしっかりと座っている。

 

 「わたしとスカリーはこの一ヵ月、ずっと馬車で移動していたけれど、シャロンもアリーもデモニアに行ったりフォレスティアに行ったりしていたのよね。わたし達の旅路よりも長い距離を一瞬で移動できるなんて、本当に転移の魔方陣って便利よね」


 スカリーの正面に座ったクレアが呆れたように俺達を見る。


 「クレア、言いたいことはわかるが、私と師匠はデモニアからハーティアまで馬で走破したぞ。一方的に楽をしていたと思われるのは心外だ」


 隣に座っているクレアにアリーが抗議の声を上げる。苦労をしていたんだから気持ちはわかる。


 俺もアリーの隣に座ってこれで全員だ。スカリーは使用人を呼ぶと歓談用にお菓子などを持ってこさせる。


 「これでやっと一段落つけるわ。なんか今年もいきなり忙しかったなぁ」

 「でもこの後、ロックホールに行かないといけないんでしょ? また二ヵ月くらいは旅なのよね」


 お菓子を食べて一息ついているスカリーに対して、クレアはこれからのことを思ってため息をつく。気づけばこの二人は何かと忙しい。


 「しかも二人とも、転移の魔方陣がないところに赴いてばかりですわよね」

 「そうなんや! ユージ先生とアリーはともかく、うちとクレアもってどういうことなんや!」

 「てっきり、レサシガムに残って何かするものとばかり思っていたのにね」


 シャロンの指摘にスカリーとクレアが声を上げた。


 確か、スカリーは学校でサラ先生の補助で、クレアはレサシガムの治療院で奉仕活動だったか。家の許可を得て俺の支援を本格的にしてくれるのはこれからだが、それがいきなりドワーフ山脈行きだ。


 「そうゆうたら、シャロンは親の領地に屋敷を構えて研究しとるんやったか? 何を研究してんの?」

 「学生時代の続きですわ。魔法操作マジカルコントロールの使い勝手を更によくする研究をしていますのよ」

 「それは私も楽しみにしている。是非使えるようにしてほしい」


 俺達に協力してくれるという条件のひとつだ。今のやつよりも使いやすくなるのなら、更に戦いやすくなる。


 「具体的に言いますと、進路変更能力の向上、消費魔力の抑制、短距離への対応などですわ」

 「それは一度に解決する問題なのだろうか?」

 「いえ、それはさすがに無理ですわ。ひとつずつ解決しなければいけませんわよ」


 戦っているときに少し離れた相手に魔法を躱されると、一気に懐へと飛び込まれることもある。改良した魔法操作マジカルコントロールでそれを防げるのなら、非常に強力な武器となるに違いない。


 アリーの念頭にはそういった思いがあるのだろう。それだけに、シャロンへの質問が集中する。


 「しかしこうなると、あとはカイルがいたら本当に全員集まることになるんだよなぁ」


 卒業式を迎えてすぐに学校を飛び出した、訛りのきつい貧乏貴族の三男坊だ。やたらと元気で一緒にいて面白かったよな。


 「そういえば、そうですよね。今頃どうしているのかな?」

 「ふふふ、どこかを元気よく走り回っていることでしょうね」


 俺の言葉で思い出したのか、クレアとシャロンがカイルのことを話している。確か騎士団に入りたがっていたっけ。


 「なぁ、ちょっと冒険者ギルドをのぞきに行かへんか?」

 「え、全員でか?」


 スカリーの提案に俺は思わず声を返す。かつて冒険者ギルドで起きた騒動のことを思い出して、思わず俺は顔を引きつらせた。


 「大丈夫やって、ちょっと一通り眺めるだけやん。カイルがおったら、うちの家まで引っ張ってきたらええねん」

 「カイルのパーティメンバーがいたらどうするのだ?」

 「そんときゃ酒場に変更だな」


 スカリーがあんまりにも気軽に言うものだからアリーが口を挟んだが、俺の案が一番無難だろう。酒を何杯かおごってやれば、一日くらいカイルを貸してくれるかもしれない。


 「酒場かぁ。それならいいかも。行きましょう、ユージ先生」

 「こんな昼間っからいるかなぁ」


 順調に冒険者稼業が続いていたら、休暇でもない限りは外に出ているだろう。可能性はなきに等しいが、久しぶりにレサシガムの冒険者ギルドに行くのもいいか。


 最終的には全員に押される形で俺も従うことになった。




 レサシガムの冒険者ギルドに入るのも久しぶりだ。去年クレアとアリーを実家に返すために利用したとき以来だ。


 中に入ると相変わらず男臭い。たまにえた臭いがするので顔をしかめるが、それも少し懐かしいと思えてしまう。


 「うっ、この臭いのことを忘れていましたわ」

 「確かに」


 シャロンとクレアは持ってきたハンカチを鼻に当てて臭いを紛らわせようとする。しないよりかはましか。


 それにしても、昼間からくだを巻いている奴はさすがに少ないな。身持ちを崩しそうな奴も見かけないし、この様子だとすぐに室内を探し尽くせるだろう。


 俺以外は年頃の娘、しかも目を貼る美人ばかりだ。注目の的である。ただ、人自体が少ないので大変なことにはならない。


 「さすがにおらへんなぁ」

 「いくら何でも無謀……ん?」


 スカリーの近くで周囲を見ていたアリーが、ある一点に視線を固定した。俺もそちらに顔を向ける。


 「え、うそ」


 思わず俺は言葉を漏らす。視線は奥の席に固定したままだ。あの横顔は間違いない!


 「「カイル!」」


 アリーと同時に叫んだ。すると、当の本人以外に、スカリー、クレア、シャロンもこちらへと振り向く。


 「え、みんな? なんでここにおるんや?!」


 俺達五人は、驚愕と呆然の表情を浮かべて固まっているカイルのそばにまで寄る。


 「久しぶりだな。無事そうで何よりなんだが、元気はなさそうだな」

 「はは、こんな暗い顔しとったらわかりますわな」


 以前のカイルなら俺達以上に明るく返事をしてくれたはずなのに、今はすっかり覇気がない。騎士団に入るべく頑張って活動していると思っていたのに、一体何があったんだろうか。


 「カイル、お前は冒険者活動をしているのだろう。今日は休みなのか?」

 「あー、いや。俺のパーティな、仕事に失敗して壊滅してしもてん」


 アリーの問いかけにカイルが理由を語った。


 先日、とある金持ちの倉庫を守る任務の応援に行ったら、ちょうど大規模な襲撃を受けたらしい。しかも運悪く、カイルのパーティが最初の奇襲を受けてしまい、一撃で半分が即死したという。カイルも負傷したものの、どうにか切り抜けて生き残ったということだ。ただし、仕事には失敗してしまったので解雇されたということだった。


 「それは災難だったわね。怪我はもういいの?」

 「ああ。それは魔法で治してもろたさかい、もう平気や。ただ、これからどうしようかって考えとるところや」

 「これから? また別のパーティに入って冒険者を続けるんと違うのん?」

 「そうしたいんやけどな。困ったことに、俺が前回失敗した仕事が周囲に知られてしもて、そんなけちのついた奴はいらんって弾かれるんや」


 正確には、金持ちの倉庫が大規模な盗賊団に襲撃されたことが有名になっているということだ。近年そんなことはなかったので、かなり目立っているらしい。


 「一度失敗しただけで全く相手にされなくなりますの?」

 「そりゃ嫌がられるで。わざわざけちのついた奴なんて選ばんでも、実績に傷のない奴なんてなんぼでもおるさかいな」


 あーそうか。カイルの言う通りだ。しかもできるパーティほど入りたがる奴はいくらでもいるんだから、大きく蹴躓いた奴をわざわざ入れる理由なんてないだろう。


 「師匠、私達の旅にカイルを加えてはいかがでしょうか」


 少し伺うような目つきでアリーが俺に提案してきた。


 派手に失敗したことがどのくらいで噂されなくなるかはわからない。けど、一年くらいは相手にされない可能性がある。もしそうなら、その間は俺達と一緒に活動していればいい。


 それと、俺達の仲間に加わることで、失敗した仕事とワンクッション置ける。次のパーティを見つけるときの面接で前のパーティの話をしないといけなくなったとしても、俺達のことを説明すればいい。つまり、壊滅したパーティのことを話さなくてもよくなるのだ。


 「そうだな。スカリーもクレアもシャロンも後方支援に回っているもんな。もうひとりくらい直接手伝ってくれる奴がいてもいいか」

 「ちょ、ちょっと待ってぇな。仲間にしてくれるってゆうんは嬉しいけど、みんなは一体何をしとるんや?」


 勝手に話を進めている俺とアリーに向かって、カイルが困惑の表情と声を向けてくる。何も説明をしていないのだから当然だろう。


 「とりあえず、スカリー、クレア、シャロンに聞いておくが、カイルが仲間になることに反対か?」

 「いや、仲間にするんならこれ以上の人材はおらんし、うちは賛成や」

 「わたしも賛成です。見たところ身の振り方にも困っているようだし、友達は助けないといけません」

 「わたくしも反対する理由はありません。必ず役に立ってくれますわ」


 三人の言葉を聞いたアリーが力強く頷く。それに対して、さっきから置いてけぼりのカイルは微妙な表情をしたままだ。いい加減に理由を話してやる必要があるだろう。


 「よし、なら決まりだ! カイル、今からスカリーの家に行こう。そこで全部話してやる。俺達が何をやっているかをな」

 「はぁ」


 カイルにしては気の抜けた返事だが、今はいいだろう。


 俺達はカイルを立たせると、そのままペイリン邸へと向かった。

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