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転移した前世の心残りを今世で  作者: 佐々木尽左
7章 妖精の住む森と星幽剣
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星幽剣を出せるようになりたい

 ライオンズ邸での夕飯とその後の歓談が終わると、その日は解散となる。フールを倒す目算をとりあえずつけた俺達は、それぞれの役割を果たすために屋敷を去ろうとしたが、寸前でオフィーリア先生に止められた。


 「以前お話ししていた連絡用の水晶をいくつか作りましたので、皆さんにお配りしますわ」


 オフィーリア先生がそう言うと、いつの間にか脇に控えていたウィルモットさんが水晶を手渡してゆく。受け取ったのは、サラ先生、スカリー、レティシアさんの三人だ。


 この人選にはもちろん意味がある。サラ先生とレティシアさんに水晶を渡したのは、レサシガムとフォレスティアへは常に連絡を取れるようにするためだ。スカリーに預けたのは、クレアとは常に一組で今後動くことが多くなるからである。ちなみに、ジルは小さすぎて持ち運べないから渡していない。また、アリーは俺と常に一緒なので同じく不要と判断された。


 これで俺とオフィーリア先生を含めると、五人が連絡用の水晶を手にしたことになる。スカリーとクレアと今後は別行動をとることになるが、いつでも話ができるのは嬉しい。


 俺達四人は、レティシアさんとジルの二人と一緒にフォレスティアに戻った。別荘の魔方陣に現れた俺達はそのままレティシアさんの屋敷へと向かう。


 「今晩はとても有意義なひとときを過ごせました。あなた達以外の人間と魔族の方とお話できてとても楽しかったです。今度は街を歩き回ってみたいですね」

 「レサシガムとデモニアでしたら、スカリーとアリーが案内してくれますよ」

 「任しとき! どこでも案内しますんで、いつでも来てや!」

 「デモニアを観光するのでしたら、私も案内しましょう」


 レティシアさんに向かって、スカリーとアリーが笑顔で案内役を引き受けてくれる。


 「で、みんなは今晩ここに泊まるのよね」

 「そうね。明日の朝にはレサシガムに転移して、そこからノースフォートへ向かうわ」


 ジルの問いかけにクレアが答える。クレアはこれからフール討伐について両親と話をしないといけない。それがうまくいかないと先へ進めないわけだが、『勇者の剣』を取り戻した功績があるので説得できると考えている。スカリーも同行するから大丈夫だろう。


 ともかく、二人にはライナスとローラの書き残した書物を調べるために、明朝フォレスティアを離れる。それじゃどうしてわざわざフォレスティアに戻って来たのかというと、荷物を取りに来たのだ。大森林を進んできたときに使っていた荷物である。


 そして俺は、待機させていた土の精霊アースエレメント水の精霊ウォーターエレメントを全て解放した。妖精の湖と大森林を通過したときに大活躍してもらったが、ようやくお役御免だ。ご苦労様である。




 翌朝、レティシアさんの屋敷で一緒に朝ご飯を食べた後、ジルを含めた俺達五人は別荘の魔方陣までやってきた。そして、レサシガムへ転移するスカリーとクレアを見送る。


 「それじゃみんな、またね。ノースフォートまで一ヵ月かかるのが面倒よね」

 「あの水晶で毎日連絡したるさかいな!」


 二人の表情は明るいだけでなく、ちょっと近所まで出かけるというような感じだ。人と別れるときの寂しさなど微塵もない。水晶でいつも連絡できることがわかっているからである。


 簡単な挨拶を交わすと、スカリーとクレアの二人は魔方陣でレサシガムへと転移していった。


 「さて、これであたし達だけになったわね。さぁ、ユージ、光の剣を出す修行を始めましょ!」


 基本的にじっとしていられないジルが早速せっついてきた。気持ちはわかる。


 「それで、どのように修行するのですか?」

 「どのようにって言われてもな」


 アリーにも尋ねられたが、俺の返事は随分と歯切れが悪い。


 かつてライナスが使っていた光の剣、正確には星幽剣アストラルソードというやつは、俺と二人ではじめて使えるものだった。起動はライナス、魔力の供給は俺というように役割分担をしていたんだ。やたらと魔力を消費するのであんまり使いたくなかった印象が強い。


 それで、今の説明でもわかる通り、以前はどちらか片方だけでは使えなかった。そして当時の俺は魔力を提供するだけだったので、正直なところ、どうやって星幽剣アストラルソードを起動させればいいかなんてわからない。そう、出現させることすらできないのだ。


 以前、ペイリン家とホーリーランド家でライナス達が書いた本を見せてもらったけど、そんなこと書いてあったかな? ライナスの書き残した本に、初めて星幽剣アストラルソードを使えるようになったことや、その修行については書いてあったけど、どうやって起動するかという記述を見た記憶はない。


 「ねぇ、どうして何もしないの?」

 「何もしないんじゃなくて、できないんだよ」


 自分で言ってて恥ずかしいが、できないものはどうにもならない。


 隠していてもどうせ追求されて話す羽目になるのは目に見えているから、俺はライナスと俺の関係から全部説明した。すると、ジルもアリーも神妙な顔つきになる。


 「困りましたね。そうなりますと、スカリーとクレアの報告を待つことになるのですか?」

 「えー、どうにかして使えるようになりなさいよ~」


 俺としてもどうにかしたい。でも、取っ掛かりさえないので何も試せない。


 「ライナスが星幽剣アストラルソードを起動するときは師匠と一体化していたということですが、そのときの師匠はどんな状態だったのですか?」

 「正確には重なり合っていただけなんだけど、そうだな、あのときの状態か」


 思い出す感覚と言えば、魔力を大量に放出し続ける喪失感だな。あまりの多さに初めてのときは心底驚いた覚えがある。


 「そうか、ライナスの状態はわからなくても、俺自身の状態は覚えているから、まずそこからなぞっていけばいいのか」

 「ユージ、できそう?」

 「とりあえず試してみないとわからないな」


 横からジルが尋ねてくるが、まだ思いついた段階なので何とも言えない。それでもやれることは見つかったので試してみることにした。


 基本的に魔力を放出するのは魔法を使うときだ。そのため、魔力を消費したいならば魔法を使えばいいのだが、光の剣での魔力消費は魔法を使うときとは感覚がまるで違う。消費する魔力の差があまりにも大きいという理由もあるが、思い切り運動して疲れたときの感覚に何となく似ているんだよな。


 「アリー、体を疲れた状態にしたい。組み手の相手をしてくれないか?」

 「それは構いませんが、レティシア殿の屋敷に戻れば武具一式を使えますよ?」

 「体を疲労させられたらいいからそれでもいいけど、剣術の方がいいのか?」

 「だめでしょうか?」


 どうもアリーは体術よりも剣術の方がお好みらしく、顔を赤くしながら自分の希望をさりげなく要求してくる。


 「いや、いいよ。それじゃ運動も兼ねて走ろうか」

 「はい!」

 「それじゃ出発~!」


 俺の返事に嬉しそうに頷いたアリーを見ると、ジルは待ってましたとばかりに羽を忙しく動かせて、レティシアさんの屋敷に向かって飛び上がった。


 暦上は新年の一月だが、フォレスティアは人間の住む土地よりも暑い。そうなると当然走ると汗だくになった。


 「はぁはぁ、疲れるのはいいけど、汗だくになるんだったな」

 「あんた今更何言ってんのよ」


 腹立たしいことに汗ひとつかいていないジルに馬鹿にされる。わかってるんだったら最初から言ってくれよな。言い出しっぺだから、アリーがいる手前自分でやめづらいんだよ!


 一方、アリーはというと、やっぱり汗まみれだ。基本的に黒装束だから俺よりも暑いはずである。家にすぐ帰ることができるんだから白系統の服にすればいいと思うんだけど、どうもそこはこだわりがあるらしい。


 ともかく、俺とアリーはレティシアさんの屋敷で与えられた部屋に戻る。自分の鎚矛メイスを手にするとすぐに外へ出た。さすがにこれだけ暑いと鎧を身につける気にはなれない。


 「師匠、お待たせしました」


 俺が自分の部屋から出てきてすぐにアリーも現れた。手には黒い長剣ロングソードが握られている。そこでふと気がついた。


 「なぁ、アリー。真剣でやるのか?」

 「木剣がないので仕方ありません」


 微妙に頬を赤く染めて視線をそらすアリー。そうだった、アリーはこういう奴だった。以前にもこんな事があったよな。すっかり忘れてた。


 「ねぇ、どうしたの? 早く行こうよ!」


 事情を知らないジルは、じっとしている俺達二人の頭上で催促してくる。別に急いでいるわけじゃないけど、何となく引っ込みがつかなくなってしまった。


 「あーもーわかった。別荘まで走るぞ!」

 「はい!」


 俺が声を上げると、アリーは満面の笑みで返事をした。こういうときだけいい笑顔になるな、お前は。




 別荘にたどり着いて一服した後、俺達は組み手改め剣術試合を始めた。鎧は身につけていないが武器は本物という、ある意味実践よりも危ない状態だ。適度に体を動かして疲れるつもりだったのに、俺にとっては実践さながらの緊張したひとときであった。


 破損を防ぐために武器への魔力付与以外は魔法なしとした。純粋に武器を使った試合だったんだけど、元々人間と魔族の身体能力差があるので俺は終始劣勢だった。おまけに卒業後も稽古を欠かさず実際の戦闘も経ているものだから、正直かなりきつかったな。もう剣術に関しては先生なんて名乗れない。俺は鎚矛メイス専門だけど。


 三十分もすると、俺は全身汗だくで立つのもやっとの状態だった。だってアリーの奴、だんだんと夢中になって本気になってくるんだもん。最後の方はちらちらと本気の一撃を叩き込まれそうになって大変だった。


 「アリー、実は、お前、俺を、殺したい、だろう」


 息が上がってしょうがない。三十分でこんなに追い込まれるなんて思わなかった。


 「いいえ、そんなことはありません。師匠が私の本気を引き出してくださったんですよ」


 ちょっとあかん笑みが入っているものの、実にいい笑顔でアリーが言葉を返してきた。あっちはまだ余裕があるな。


 「あれー? ユージって守護霊だったときより弱くなった?」


 なんて失礼な感想を頭上からジルが投げつけてきた。前世で物理的な近接戦闘なんてやったことがない俺としては、完全に言いがかりとしか思えない。でも疲れて何も言い返せなかった。


 「ともかく、これで一旦おしまいだ。目的は剣の修行じゃ、ないからな」

 「はい!」


 これでアリーは満足してくれたらしい。上気した笑顔は色気があるんだけど、今の俺はそれどころじゃない。だめだ、軽く目眩もしてきた。


 一旦近くの木の根に座って呼吸を落ち着かせようとした。アリーも隣に寄ってきて木の幹にもたれかかる。


 「ねー、ユージ。あんたほんとに大丈夫?」

 「少し休んで体を落ち着けたらな。あー疲れた」


 アリーに比べて残念な体たらくではあるものの、体を疲れさせるという目的は達成できた。死にそうになっただけのことはあって、かなり体がだるい。


 呼吸が落ち着き、汗を吸った服が冷えてきた頃、俺は立ち上がる。もうそろそろいいだろう。


 「お、いよいよね!」

 「師匠、次は何をすればいいですか?」


 俺は首を横に振ってアリーを少し遠ざける。ここからは俺だけの問題だから、当面一人だけで何とかしないといけない。


 とりあえず体を疲れさせることはできたわけだが、今度は魔力をどう放出するかだ。ライナスと重なったときは自動的に魔力を吸い取られるという感じがしたので、自分から何かをしたという記憶がない。というか確か、魔力を吸い出されるがままだったような気がする。


 ということは、あの感覚で魔力が放出できるようになればいいのか?


 しばらく考えた後、俺は全身に残る倦怠感に引きずられるような形で、魔力を放出するという想像をしてみた。もちろん、単なる思いつきなので、本当にこれでいいのかは全くわからない。


 「うわ、何これ?! あんた魔力が漏れてきたわよ!」

 「私にはわからないな。師匠はどんな状態なのだ?」

 「泉から水が湧き出るように、ユージの体から魔力が漏れてきているのよ! こんなの他の人がやったらすぐに魔力がなくなっちゃうわよ!」


 ただひたすら魔力を放出するという想像をしていたらジルが騒ぎ始めた。話を聞くに魔力がだだ漏れらしい。つまり、ライナスに魔力を供給していたときと同じか似た状態なわけだ。


 意外と思いつきがうまくいって嬉しいが、問題はここからだ。この状態から星幽剣アストラルソードを起動させるにはどうしたらいいんだろうか。


 その後どうしようかと色々考えていたが、どうにもいい考えが浮かばなかった。そしてお昼を迎える。調査開始半日で守護霊だったときの状態を再現できたのはよかったけど、ここからどうしたらいいのかはまだわからない。


 これからも色々と考察と検証を繰り返していくことになるだろう。

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