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ファーストキス
「なんだよ。いいじゃねえか」
「だめ! 良くない!」
くっついてくる恋人を手で押し返す。
タコみたいに唇とんがらせてんじゃないわよ。
「もしかしてキスしたことない?」
「だったらなんだっていうの?」
ついかわいくない態度を取ってしまう。
でもね、初めてだから夢があるの。
そんな軽々しい思い出にしたくないの。
一生に一度の体験を。
ふてくされる私を見て、恋人は笑う。
そして小さくガッツポーズする。
「じゃあ俺が初めてなわけだ」
余裕のあるような笑みを浮かべる恋人。
「な、何がおかしいの……」
笑いが止まらない恋人を見て悔しくなる。
一瞬、私が抵抗の力を弱めると恋人は
それを見逃さなかった。
「スキあり!」
「!?」
塞がれた唇。掴まれた左手首。柔らかい感触。
本当は、少女漫画のような蕩ける様な
ファーストキスを夢見ていたのに。
ムードの何もあったもんじゃない。
「……」
でも、まぁ。
背中に回された腕が優しかったから許してあげよう。




