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お姫様抱っこ
「あちゃー、鼻緒が」
「よし、今こそこの力を使う時!」
「はっ!?」
言うが早いか、体がふわりと持ち上がる。
彼の顔が急に近くにきた。
「なななななな!」
「だってそれじゃ歩けないだろ?」
夏祭りの帰り道。
周囲の目線が気になる。
「だって、言ってたじゃん。前に」
「前に?」
見た目はヒョロヒョロなのに、どこにそんな力あるの?
鼻緒が切れた下駄を胸に抱えて、彼の方をじっと見る。
「お姫様抱っこ、してもらってみたいって」
「あ……」
「だから筋トレしてたんだよ? どう?」
誇らしげにドヤ顔を見せてくる彼。
最近ジムに通っていたのは知っていたけどまさか。
「彼女の夢を叶えるのが彼氏の役目でしょ!」
そう言ってにっこり笑う彼に甘えるように体を預ける。
後ろではまだお祭りの賑やかな声が聞こえてくる。
じゃあ――次は私が、彼の夢を叶えなくちゃね。