勇者召喚されたうどん県民のわたしが異世界でうどん茹でて成り上がるお話
※この小説はフィクションです。実在の人物・団体・都道府県等にはあんまり関わりはございません。
▼1年目、わたし13歳
なんか気が付くと、知らない場所に立っていて知らないお兄さんが目の前に居ました。
「よし! 勇者召喚は成功だ!」
え? え? 何がどうなってるんですか?
「おっと、ごめん。君もいきなりで混乱しているだろう。状況を説明しようか……ふむ、文献の通り言葉は通じるようだな」
あ、はい。お願いします。
それから暫くお話して、大体のことは呑み込めました。
まず、ここは「異世界」なんだそうです。むしろここの人達にとってわたしがさっきまで居た所が異世界だとのことです。
次に、目の前に居るお兄さんは「エフ博士」といって、凄く頭の良い人なんです。ふええ~、尊敬です~。
あとそれから、わたしは『人類と魔王との戦いに終止符を打つべく召喚された勇者』なんだそうです。
ふえええええええ~。
勇者さんとか魔王さんとかって、わたしが元居たうどん県だとRPGの中にしか居ませんでしたからよく判りませんけど、凄いものなんでしょうか?
うどん県ではみんなでおうどんを沢山茹でてみんなで食べるだけの代わり映えしない毎日でしたので、こちらの世界がどれだけ危険で非常識が溢れてるのか、想像もつかないです。
わたしもおうどんを茹でる以外何もできない小娘なので、お役に立てそうにないかも……
「ふむ、戦闘は苦手なのか。まあ僕もこんな若い少女が送られてくるとは思わなかったからな。それで、“ウドン”とは?」
え? こちらの世界にはおうどんが無いのですか!?
確かに、なんだかありがちで平凡な中世ヨーロッパ風の文化みたいですし、和食は馴染みが薄いのでしょうか。
ですがおうどんこそ、人類の英知の結晶にして幸福の象徴と言います!
良かったら早速実物をお見せしますので、お台所を貸してください!
丁度おうどんを捏ねている最中に召喚されたので準備も万端、すぐにでも作成に取り掛かれます!
「わ、わかった。この城の厨房の料理長とかけあってみる」
それから1時間ほどかけまして……
牛肉の代わりにデスヨロイガメという魔物さんのお肉を投入し。
おネギの代わりにデスマンドラゴラという魔物さんの葉っぱを刻んで薬味にして。
こちらにはおダシの風習が無いみたいなので地域定番のソースを使って煮込みうどん風にアレンジ。
そんなこんなでどうにか肉うどんが完成です! 材料に使わせて貰った魔物さんに敬意を払いましてこれを“デスうどん”と名付けましょう!
「ヤな名前だな! もうちょっと何とかならなかったのか!」
エフ博士がなんだか文句言ってましたが、フォークで絡めて掬い取り一口食べた途端に笑顔が浮かびます。
「これは……スープパスタに似てると思ったが歯応えは全然違うんだな。麺が太いのに柔らかく、それでいて歯応えがある。なんとも不思議な食感だ」
おお。初めて食べたのにそこに気付くとはなかなかの食通さんですね。
ですが、わたしとしてはこのおうどんはあまり自慢できる出来ではないのです。小麦もお水も土地が痩せてるのか質があまり良くないです。
エフ博士に訊いたところ、魔王さんとの戦いでヒヘイ? しているとかでこの国の食糧事情はあまりよろしくないんだそうです。
この世界に来たのも何かのご縁、ぜひ皆様の食糧事情改善のお手伝いをさせて下さい!
「そうは言うものの、君をこの世界に召喚したのは魔王の軍勢に対抗する為だからなあ……戦闘の経験が無いとは言え、予言書にも確かに君がこの戦いの鍵になると書いてあるから何らかの意味はある筈なんだ」
そんな訳で、エフ博士とこの国も内政を取り仕切るアール大臣とが相談した結果。
「君の身の振り方としては、戦えないからと言って流石に今の状態で放り出す訳にもいかないし、とりあえず城下町にある勇者育成学院に5年間通って貰うことになった」
つまり、戦士とか魔法使いとか盗賊とかの隠れた資質に賭けてみる訳ですね。
「君に限って盗賊は無さそうだけど、ただ単に今まで戦闘とかの経験が無かったから苦手なだけで訓練すれば意外と伸びても不思議じゃないからね」
あ、ですが学校に通うとなると一つ心配事が……
「どうした? 学費ならこちらの都合で召喚した訳だし国の方で面倒を見るが」
いえ。学校に通うようになるとエタるというジンクスもあるみたいなので、ちゃんと卒業できるかなあ、と。
「エタらないよ! これ短編なんだから!」
冗談はさておき、こうしてわたしの戦いが幕を開けたのです!
▼2年目、わたし14歳
トントンと、学院寮の扉が音を立てました。はーい、今出まーす!
ああ、エフ博士、いらっしゃいませ。今丁度おうどん茹でていたところです。良かったらこれをどうぞ。
そう言ってわたしは、茹でたてのおうどんが入った容器を手渡しました。
「ありがとう、持って帰って夜食にでも食べさせて貰うよ」
あ、飼育部のお友だちから貰った卵もありますので、月見うどんにして食べると美味しいですよ。
「それで、訓練の状況とかはどうだ?」
訊いてくるエフ博士に、わたしはおずおずと通知表を差し出します。
「どれどれ……って、剣術は5段階評価でE!? どん底じゃないか!」
ふえええええええ~。だって運動苦手なんですよ~。それに、魔法はBですよB! やっぱり異世界に来たらまずは魔法ですよ!
「あ、確かに。うん、頑張れば勇者パーティの魔法使いにもなれる見込みもありそうだね」
わたしとしましては、お母さんやお婆ちゃんのような立派なうどん職人を目指している訳ですが……
そうそう。学院でもわたしの作ったおうどんが好評で、中庭の菜園に畑を少し頂けることになったんです!
そこで土壌の改善とか品質の改良とかを重ねて美味しい小麦が採れるようになって、学食でも時々おうどんを作って振舞ったりしています!
故郷のうどん県でもみんな家庭用の農場を持ってましたから、わたしも自分用のに憧れてたんです!
「学園生活を楽しむゆとりがあるのは結構だけど、勇者修行も頑張れよ、特に剣術」
そこはぼちぼち善処します。それで、今の悩みは土地の狭さですね。どうしても小麦の収穫量がボトルネックになっておうどんの生産量も頭打ちになってしまいます。
現時点でのGDU(Gross Domestic UDON=国内総うどん)は年間約5千玉といったところでしょうか。この国の需要どころか学食に卸すにも全然足りません。
と思いを馳せていると、通知表に目を落としていたエフ博士が一言。
「でも得意属性は時空なのか。無属性は派手な攻撃魔法が無いから不人気なのが惜しいところだな」
いい加減無属性不遇設定も飽きてきましたね。
「さらっと毒を吐くなよ!」
それに、戦闘には不向きでもこういう地味な魔法の方がうどん作りにも応用できそうで先が楽しみです。
「……僕は段々不安になってきたな」
▼3年目、わたし15歳
トントンと、亜空間観測室の扉が音を立てました。はーい、今出まーす!
ああ、エフ博士、いらっしゃいませ。今丁度おうどん茹でていたところです。良かったらこれをどうぞ。
そう言ってわたしは、茹でたてのおうどんが入った寸胴鍋を手渡しました。サービスで油揚げも入れておきましたのできつねうどんにしてお召し上がり下さいね。
「ありがとう、って重!? 一体何食分入ってるんだ!? よく持てるなこんなに!」
あら、おうどんは別腹ならぬ別腕と言いますよ?
「初耳だし! お前の世界だけの言い回しだろう!? ……まあ、それは置いといて」
エフ博士は寸胴鍋をずしんと脇に置いて真面目な顔になって言いました。
「外を見たけどあれは何なんだ? 僕の眼の錯覚じゃなければ地平線の彼方まで小麦畑が続いてたように見えたが」
はい。せっかく学院で時空魔法を勉強させて頂いてますのでちょっと空間魔法で農場を広げてみました。
「いやいやいやいや! ちょっと広げてみましたってさりげに空間魔法の奥義っぽいことやってるんだけど!?」
学院の先生がもったいぶって教えてくれませんでしたので仕方なく自分で編み出しただけですし、奥義って程でも無いと思いますよ?
「それ、もったいぶってるんじゃなくて今までこの世界に存在しなかった魔法だよきっと!」
ふえええええええ~。
どうやら知らず知らずのうちに新しい魔法を開発してしまったようです。
でも、作物の生産量を上げるだけの魔法ですからそんなに大したことないですよね。
「大したことあるよ! 農政とか軍事とか流通とか生産とか住宅とかあらゆる分野に重大な影響を及ぼすよ!」
ふええ~、そうなんですか~、凄いです~。
まあ、それはそれとして。
「さらっと流すなよ! 国政の一大事だよ! これ知ったらアール大臣が頭抱えるよ! 生え際に深刻なダメージが及ぶよ!」
それで、農場が広がりましたので大豆とか人参とかゴボウとかサトウキビとかうどんの木とかも植えまして、具材のバリエーションも少しずつ広がってきました。
「ちょっと待って! 最後のは一体何!?」
え、うどんの木、ですか? 秋になると瑞々しいうどんの実をつける、故郷のうどん県ではどこにでも生えてる落葉樹ですが。パンの木を品種改良して作りました。
「いやいやいや、パンノキってそういう樹じゃないよね!? なんか自然界の法則をぶっちぎってるよ!?」
まあ折角ですから、株分けで何本かお持ち帰り下さい。食糧事情の良くない村とかに植えると良いです。
「お、おう……」
ともあれ、現時点でのGDUは年間約10万玉といったところでしょうか。市場にも少しずつ行き渡るようになりまして、庶民の皆様でも無理なくお求め頂けるようになりましたでしょうか。
でももっとおうどんを広く普及するためにも、もっともっと魔法のお勉強頑張ります!
「……まずは剣術のEランクをどうにかしろよ」
▼4年目、わたし16歳
トントンと、時魔法実験室の扉が音を立てました。はーい、今出まーす!
ああ、エフ博士、いらっしゃいませ。今丁度おうどん茹でていたところです。良かったらこれをどうぞ。
そう言ってわたしは手提げ袋を手渡しました。見た目は普通の買い物袋ですが、空間魔法でちょっと細工してまして、中にはいつものおうどんが1000食分ほど詰まっています。
「ああ、いつもありがとう。職場のお土産にして皆で食べてるんだが、最近は『パンが無いならうどんを食べれば良いじゃない』が流行語になりつつあるよ……」
それは良いことです! この調子で、世界中から飢えを無くすのがわたしのささやかな願いです!
あ、そういえばこの前、活きの良い黒毛ベヒモスさんが手に入りましたので、袋にベヒ骨のスープにベヒのバラ肉も一緒に入れてあります。贅沢なベヒうどんを是非ご賞味下さいな。
そんなわたしの言葉に、エフ博士は何故かむせ返ると、
「ちょー!? 黒毛ベヒモスって、災害級の魔獣じゃないか! 一体どこでどうやって仕留めたんだよ! 剣術Eのお前が!」
えっとですねえ、学院の課外実習で魔物狩りの実技試験をしていたらいきなり黒毛ベヒモスさんが現れまして……
「まさか、あの草原にベヒモスが!? 普段は危険度の低い魔物しか出ないハズなのに……もしかして、未来の勇者を亡き者にしようと魔王がけしかけたか……?」
それで、空間魔法で頭だけをえーい☆と異界に吹っ飛ばしちゃいました。
「僕の知ってる時空魔法の使い方と違う!?」
あと、剣術Eというのは去年までのわたしです。今年のわたしは一味違いますよっ。
そう言ってお見せしました通知表に燦然と輝く、『剣術:E-』の文字。
「下がってるじゃないか! どん底かと思ったら二重底だったのかよ!」
ふええええ~。わたしが弱くなった訳ではありません。周りのみんなが強くなってるだけなのです。いや~、成長期って凄いですね~。
「そこで開き直るなよ! お前ももっと成長しろよ!」
あ、でも魔法はA+ですよ。先生方曰く、この学院始まって以来の奇才なんだそうです。
「微妙に褒められてないっぽい!?」
そんな訳で、最近では時間魔法も少し勉強しまして、農場の時間軸を操作して1ヶ月に2回収穫ができるようになりました。これがいわゆる二毛作ですね。
ただそろそろ手打ちじゃあ生産が間に合わないので今までの利益を使って工場を建造中なんです。
故郷のうどん県でもみんな家庭用のうどん工場を持ってましたから、わたしも自分用のに憧れてたんです!
「いやおかしいだろお前の世界! 何でみんなそこまでうどんに情熱燃やすの!?」
より多くのおうどんを作るためにおうどんを茹でるのです。登山で言うところの『そこに山があるから』理論と一緒ですね。
「それもう一種の中毒だろ!?」
お母さんもお婆ちゃんも、おうどんの生産量を一桁でも上げようと日夜努力しておりました。
「一桁『でも』って何だよ!? 十倍じゃねーか! 十分だよ!」
ちなみにわたしの現時点でのGDUは年間約250万玉で、まだまだお二人の足元にも及びません。半人前も良いとこです。
「何者だよお前の母親と祖母は!」
▼5年目、わたし17歳
トントンと、錬金術工房の扉が音を立てました。はーい、今出まーす!
ああ、エフ博士、いらっしゃいませ。今丁度おうどん茹でていたところです。良かったらこれをどうぞ。
そう言ってわたしは手提げ袋を手渡しました。見た目は普通の買い物袋ですが、時空魔法でちょっと細工してまして、中にはいつものおうどんが1万食分ほど茹でたて締めたての時の状態を維持して詰まっています。今回は海鮮うどんにしてみました。
「……ああ、いつもありがとう。辺境の村とかで炊き出しみたいに振舞うと喜ばれるからまた活用させて貰うよ……」
エフ博士は最近覇気が無いようです。お疲れなのでしょうか?
そんな時には、元気の出るニュースです! 何と遂に、故郷のソウルフードでもあるお醤油の再現に成功したんです! これで本家本元のおうどんを振舞うことができるようになりました!
「ああ。いつか言ってた、大豆と小麦と塩を熟成させて作る調味料だったか? ワインみたいに熟練の技が必要だと聞いたが凄いものだな」
なんか面倒になってきましたので、北海リヴァイアサンさんの肝から錬金術で練成することにしちゃいました。
「イカサマじゃねーか! ってか、ベヒモスに続いて今度はリヴァイアサンかよ!」
先月の修学旅行でクルージング中に襲い掛かられてきましたので。
「やっぱりお前のクラスは魔王に目をつけられてるよな」
それで、素材も頭から尻尾まで余す所無く欲しくて空間魔法は使わずに時間魔法で心臓をぽっくりと……
「何だそれ!? 今まで数多の勇者や騎士団や船団を死ぬ程悩ませてきた脅威をたった一行で排除しちゃうの!? もうお前魔王を倒せるんじゃないか!?」
ふえええええ~。魔王さんに即死系の魔法が効く訳ないじゃないですか。RPGの常識ですよ?
「え! お前が常識を語るの!?」
まあとにかく、わたしは戦いが苦手ですので。剣術の成績もEですし。
「あ。去年より一応上がってるんだな。よく頑張った」
はい。先生に渾身の海鮮うどんを振舞って評価に色を付けて貰いました!
「イカサマじゃねーか!」
ですが魔法の成績はSですよS! 5段階評価じゃあ正しく表せないとかで今年から新設されたんです!
そのSランクの時空魔法と錬金術とを組み合わせた相乗効果でこれまで以上の生産力を得られますし、これでわたしのGDUは年間約6.5億玉ぐらいまで伸ばせました。
「遂に億単位かよ! というかお前は一体何処に行こうとしてるんだよ!」
まずは一人前のおうどん職人になりたいですね~。
「お前の世界のうどん職人、どんだけ一人前のハードル高いんだよ!?」
▼6年目、わたし18歳
トントンと、宇宙ステーション管制室の扉が音を立てました。はーい、今出まーす!
ああ、エフ博士、いらっしゃいませ。今丁度おうどん茹でていたところです。良かったらこれをどうぞ。
そう言ってわたしは手提げ袋を手渡しました。見た目は普通の買い物袋ですが、時空魔法でちょっと細工してまして、中にはいつものおうどんが100万食分ほど茹でたて締めたての時の状態を維持して詰まっています。
あと今日の具材は天ぷら詰め合わせですよ。オリハルコンを錬金術にかけてみたら最高品質の海老天とかタラの芽の天ぷらとかが練成できまして、今までで一番の自信作です!
「ちょ! 待って! 何その希少金属の無駄遣い!」
美味しいは正義です。それに戦争が終わってもうオリハルコンの武具なんかも要らなくなりましたし。
「そう言われるとそうなんだけどね……このうどんはまた魔王城に押し付けるとするか」
そうなんです。先日遂に人類と魔王軍の皆さんとの間で停戦が成り立ちました。エフ博士が言うには『お互い、増えすぎたうどんを消費するのに忙しくて戦争どころではなくなった』ということみたいです。言ってる意味はあまりよく判りませんが、わたしの作ったおうどんが平和に貢献したということですよね!
やっぱり、美味しいおうどんが世界に溢れるとみんな幸せになれるんです!
あ、それともう一つ嬉しいお知らせがあります。
先日遂に新型のコンロが完成したんです! 最先端の科学の粋を極めた、暗黒物質圧縮式コンロが!
宇宙に漂う暗黒物質を密封した空間で圧縮して超高圧・高温にするとビッグバンを起こし、その時に発するエネルギーでおうどんを大量に茹でるんです!
「ちょっと待てオーバーテクノロジー過ぎるだろ! なんでそこまでしてうどん茹でたがるんだよ!」
だって凄いんですよ! 1秒に1万玉以上茹で上がるんですよ! GDUに換算すると年間大体3兆玉です!
「大量って次元じゃねえよ! 誰が食うんだよそんなに! 僕もううどん飽きたよ! そろそろパンとかビスケットが食べたいよ!」
でも、わたしがおうどん作るのを止めたらまた戦争が再開しちゃうじゃないですか。
それに故郷のうどん県では自分用の暗黒物質圧縮式コンロを手に入れてようやく一人前で、嫁入り道具の定番ですし実家にもお母さん用とお婆ちゃん用に2台ありますし、そんなに大層な物じゃないですよ?
「いやおかしいから! お前んところの世界が異常なのを自覚しろよ! なんでそんな宇宙戦争用兵器みたいなのがどこのご家庭にもある訳!?」
それだけうどん職人への道は遠く険しいのですよ。ふふん。
「悟った顔で言うなよ! その顔の横のキラーンと光るウザいエフェクトを今すぐ消せよ!」
むう、最近エフ博士の突っ込みが容赦ないです。
「お前は少し目を離すとすぐ暴走して世界をうどんで埋め尽くそうとするからな! 止める方だって必死なんだよ!」
人を災厄みたいに言わないで下さいよ。どこにでも居るちょっとおうどん作るのが好きな普通の女の子じゃないですか。
「少なくとも僕の世界じゃあどこにも居ねえ! 今はもう魔王以上に危険人物だよ!」
ちなみにわたし、今年で18歳ですからこの世界だと適齢期なんですよねえ。学校も無事卒業できそうですし暗黒物質圧縮器も準備できたことですしそろそろ恋人募集してみたいと思ってるんですけど……条件は優しくておうどんの食べっぷりが良くてあとできれば手作りと大量生産品との区別がつく味覚をお持ちの方で。
「お前の希望する『食べっぷりが良い』は1日に何万玉消費を想定してるのか問い質したい。で、卒業と言えばもう勇者とかはどうでも良くなってしまった訳だけど一応最終的な成績も報告して貰おうか」
はい。最後に貰った通知表では剣術がEで魔法が『升』でした。
「え? 魔法が……何だって? 明らかにこの世界の文字じゃないよね!?」
何でも、既存の文字で表現不可能なので新しい文字を開発する必要があったとのことです。
で、卒業したらフリーになるわたしですが、エフ博士もそろそろ三十歳童貞一歩手前なんですよね。一途で可愛くておうどんを上手に作れるお嫁さんとか欲しいと思いませんか?
「嫌だああ! 僕は普通に家庭料理を適量作ってくれる常識的な女性が良いんだああ! あと魔法使いは実際に魔法があるこっちの世界じゃあ通用しないスラングだから!」
そうですか。今ならエフ博士の分も暗黒物質圧縮式コンロをお作りしようかと思ったのですが。量産化の目処が立ちそうですので。
「頼むから止めてくれえ! もはや物量テロじゃねえか!」
わたしとしましては、おうどんを食べたくても食べられない恵まれない子供達がこの世界から居なくなるまでは、生産で手を抜くことは許されないんです。
「食べたくなくても食べなきゃならない人達のこともちょっとは気にかけてくれないかな!?」
世界から飢えを無くすまで、わたしの戦いは、まだ始まったばかりなんです!
「もう終わって良いよ! お願いだからそろそろゴールしてくれよ! あと頼むから人の話を聞けよおおおお!!」