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「空」 第7話

俺はそう感じていた。




その感じた事を、率直に聞こうかどうするか考えていた。


茜は眼鏡のレンズ越しに、不安そうな潤んだ目で俺を見ていた。


この25畳の無機質な部屋の中に、緊張の糸だけが1本張りつめていた。



「・・・辞めた」



俺の口から出てきた言葉はこれだった。


茜は依頼を断られたと思い、右手を口にあて、嗚咽が漏れないように塞いでいる感じだった。



「茜さん、依頼を引き受けよう。 報酬の話しはまた後でいい。 内容を詰めていこう。 取り敢えず、この15万は預かっておく。 で、・・・内容を詰める前に、煙草いいかな?」



俺は、指2本を口の前に煙草を吸う仕草で持っていき、ウインクして見せた。


茜はホッとしたのか、泣いているとも笑っているともとれない笑顔をみせて、頷いた。



(やっぱり女は、泣かすもんじゃないな・・・)



煙草に火をつけ、煙を漂わせた。


その煙が、緊張の糸を切るでもなく、溶かしていってくれた。


煙草を飲むと、頭の回転が早くなる・・・と、勘違いをしている俺は、本題に入った。



「まず、この写真の人物の歳を、全員教えてくれ」



茜は少し泣いたせいか、瞼と鼻頭にピンク色の薄化粧を施した感じに見えたが、真面目に答えようとしている仕草に、茶化すのをやめた。



(彼女は、化粧をしているのだろうか・・・?)



そんな事を思いつつ、茜の説明に耳を傾けた。



「・・・あのー、会長が75歳で、社長が52歳です。 あのー、奥様は・・・・・・・」



茜は、チラッと俺の顔を見た。


女性の歳は、言いたくないのだろう。


俺がグッと睨んで見つめ返すと、観念したかのように話しを続けた。



「あのー、奥様は50歳で、宇宙〈そら〉坊ちゃまはあのー、13歳です。 ハツさんはあのー、82歳、東城さんは39歳ってあのー、聞いてます。 あのー、私は26歳です」


「宇宙は、どうやって居なくなったのかな?」


「あのー、解りません。 私はお屋敷の炊事場で、あのー、食事の支度をしておりました。 そうしたらあのー、奥様がいらっしゃって、あのー、“宇宙ちゃんがいないの!! 茜!! 何処行ったか知らない!?”って、あのー、聞かれたので、私はあのー、解りませんと答えました。 それから、あのー、宇宙坊ちゃまの姿を一度も見ていません・・・」


「茜さんが、宇宙を最後に見たのは何時?」


「確か・・・あのー、昨日の朝、学校へ送り出した時が最後だったとあのー、思います・・・」


「葉子夫人が、茜さんに聞きに来たのは?」


「・・・晩御飯の支度中だったので、あのー、夕方の5時ぐらいだったとー・・・」


「宇宙が、学校から帰って来たのは?」


「あのー、解りません・・・」


「いつも帰って来る時間は、解るかい?」


「・・・あのー、いつもであれば、“茜!! 今日の晩御飯は何!?”ってあのー、学校から帰って来て、一番に、あのー、聞きに来ます・・・」


「それは、いつも何時頃?」


「あのー、いつもは5時ぐらいです・・・」


「でも、昨日は無かった・・・」


「あのー、はい・・・」



ラストの一服を、口に運んで灰皿に煙草を押し付けた時、ハッとした。


色々な事が重なって、彼女の仕草や態度が眼に入っていなかった・・・・・、いや、眼には入っていたが、頭に入っていなかった。



(茜に対して、何か引っかかるものがあったのは確かだ・・・、それは、宇宙を探す理由もそうだが、一番最初の引っかかりは、彼女自身に対しての違和感だったはずだ・・・)



その引っかかりが今、解った。



「茜さん・・・、君の話し方、あのーってよく言うけど、その話し方・・・、作ってるね」




                    ・・・つづく

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