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「空」 第4話

「では、お話しを伺いしましょう」




彼女は座ったまま軽く下を向き、喋り出そうとしなかった。



「これは失礼」



俺はソファーを立ち、自分の後ろにある台所へ向かった。



「お茶と珈琲、どちらか如何ですか?」


「あっ、いえ・・・ あのー・・・」


「遠慮しないで、言って下さい」


「じゃ、あのー・・・お茶を」


「はい」



彼女にはセオリーどうり、丁寧に接する事にした。


電話のやり取りでは、横柄な態度を見せておいて少し不安がらせ、会ってみたら“あれっ! 違う!”と、思わせるようにギャップを見せる。


それで話しがスムーズにいけば、作戦成功である。


お茶を入れ、ソファーに戻った。


初秋という事もあり、少し温めに入れ横に水を添えた。


「どうぞ」


「あのー、ありがとうございます・・・」



お茶に一口つけるのを待って、関係無い話しを切り出した。



「此処、解り難かったでしょう?」


「あのー、いえ、不動さんの説明が、あのー、解り易かったですから・・・」


「あっ、そうそう申し遅れました。 不動 武と申します」



名刺を持っているのは知っていたが、改めて名刺を出してみた。


彼女は素直に受け取った。



「あのー、私、自分の名刺持ってないんですけど・・・」


「結構ですよ。 お名前さえ頂ければ」


「あのー、小林 茜と申します」



(名前は聞けた・・・。 まだ予測の域を出ないが、嘘は無いように見える・・・。 座り方もちゃんと膝を揃え、膝下を斜めに傾けその膝に手を重ねて置いている。 実に品がある・・・、だが、何か引っかかる・・・)



名前を言ったと同時に、彼女は軽く頭を下げた。


こちらも、それに合わせて軽く会釈をした。



「それでは、小林さん・・・」


「あのー、茜で呼んで頂けますか? 普段、周りからあのー、そう呼ばれてるもので・・・」



(!? 苗字み違和感があるのか・・・?)



「・・・解りました。 では茜さん、お話しを伺いましょう」


「あのー、実は私、住み込みで家政婦をやっているのですが・・・、そこの御家の坊ちゃまが・・・あのー、居なくなってしまったのです。 坊ちゃまを探して頂きたいのですが・・・」



少し俯き加減で話していた。


俺は、取り敢えず最後まで話しを聞こうと、黙って頷いていた。



「警察には・・・あのー、奥様が届けに行ったのですが・・・あのー、取り合ってくれないとカンカンに怒って戻られました。 その時に奥様が“警察にこんな物を渡された”と、あのー、名刺を一枚私に見せて、目の前で怒りに任せてビリビリに破いてしまわれたのです・・・」



と言って、彼女は持っていた黒いハンドバックから、セロテープで継ぎ接ぎになっている紙切れを俺に差し出した。



(俺の名刺だ・・・。 確かに警察に行って探偵の名刺を渡されたら、誰でも頭にくるだろう・・・。 哲さんも悪気は無いんだろうが、少し考えろよ・・・!?・・・哲さん!?)



哲さんと電話で話した会話が、脳裏を横切った。



「話の途中に申し訳ない。 その居なくなった坊ちゃんの名前は・・・宇宙〈そら〉・・・君か?」


「・・・!? お坊ちゃまをあのー、ご存じなのですか?」



彼女は、今にも目の玉がこぼれそうなくらい眼を広げ、驚いていた。


だが、それにも気づかないくらいに驚いていたのは、俺の方だった。



(・・・なんて事だ・・・。 虫の知らせが当たっちまった・・・)



「・・・って事は、奥様というのは・・・塩沢〇き似の・・・?」


「?・・・あのー、塩沢〇きという方を、あのー・・・存じ上げませんが・・・」


「!?・・・これは失礼・・・」



(・・・ジェネレーションギャップだな・・・)



俺は、セオリーも作戦も無視して、普通に質問を開始していた。




                    ・・・つづく

                 

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