「空」 第48話
「あぁ、らしいな。 俺もそこへ来ている・・・」
「ケッ! 先を越されたか・・・、いけ好かねぇ野郎だな、相変わらずよ」
「フッ・・・・・」
「俺もこれからそっちへ向かわぁ~」
「あぁ、解った。 パトカーとか連れてくんなよ。 確証も無いし、騒ぎもデカくしたくない・・・」
「何度も言わせんな! 探偵風情が騒いだところで、今以上に騒ぎはデカくならねぇよ」
携帯を切り、マンションの中へ入る。
エレベーターに乗ると、奇数階の押しボタンしか無かった。
(珍しいな・・・)
取り敢えず最上階の11の数字を押し、そこから屋上へ登った。
屋上の鍵は、俺が来る事を解っていたかのように開いていたので外へ出てみると、秋風が気持ち良さを運んでくれている。
この屋上には照明が無く、目が慣れるまでは新宿の高層ビルの灯りしか目に入らなかった。
(確かに綺麗だな・・・)
新宿の夜景を見ていたら、歌舞伎町であった出来事や、今まで扱ってきた事案の事などが走馬灯のように甦ってきて、夜景に気持ちを奪われた形となった。
(・・・夜景は魔物だ・・・)
気持ちを取り繕い慎重に周りを見回したが、誰もいる気配は無かった。
必ずここへ来る・・・そう感じていた俺は、身を隠すところを見つけ、新宿とは逆の池袋の夜景を見ながら煙草に火を点けた。
携帯が暴れ出す。
「探偵! 今着いたんだが何処にいる?」
「今、屋上で夜景を見ながら一服やっている・・・」
「ケッ! 呑気な野郎だな・・・てめぇは。 でも、その呑気も終わりみてぇだぞ・・・」
「???」
「下に、平井らしき男がいる。 キャップにサングラスだが間違いねぇな・・・平井だ」
「? 奴さんは下で何やってんだ?」
「何かを警戒しているようだが、中に入ろうともしている。 何してんだか・・・」
「解った、哲さん。 平井を頼む・・・」
「あいよ・・・・・って、てめぇは!?」
「もう一服する・・・」
「あああぁ!!!!!」
「嘘だよ。 どうも俺には、葉子夫人がここの近くに来ている気がするんだ・・・」
「どういう事だ?」
「今、屋上には俺1人だが、葉子夫人はこのマンションの1室に・・・それも高い階の何処かにいるんじゃないかと思っている。 別に根拠は無い。 ただ葉子夫人が俺だったら、この夜景を見ながら覚悟を決めている・・・そんな気がするんだ。 それにもう1つ・・・・・」
「なんだ?」
「この屋上の扉は鍵がかかるようになっている。 キーを刺さないと回らない鍵だ。 昔、葉子夫人はここに住んでいたらしいから、鍵を持っていてもおかしくは無いが、俺はまだ、葉子夫人がこのマンションの1室を持っているのではないかと思っている・・・」
勘の域は超えないが、どうしてもそう思えてならない。
現に今は、鍵は開いていた・・・ノブの鍵穴は錆ついておらず、鍵穴周りも丸い傷がついていた。
恐らく、普段は鍵が掛かっているのだろう・・・でも、今は開いている。
(平井を誘っているのか・・・・・・・・・・、それとも俺か?)
「解った。 平井は任せろ」
「あぁ、頼む」
携帯を切ろうとした瞬間、ちょっと待ったとスピーカーが叫んだように聞こえた。
「どうした!? 哲さん!」
「今、平井が中に入った。 エレベーターに乗るぞ・・・・・乗った!! 降りるのは・・・・・11階だ! 11階!! 俺も上に上がる!」
「了解・・・」
(さぁ、平井は何処へ行く? 屋上か・・・何処かの部屋か・・・・・恐らく・・・・・・・・)
屋上の扉が、無機質な音を立てて開いた。
屋上に来たのは哲さんだった。
哲さんは、平井が屋上にいると思っているらしく、そーっと扉を閉めて、闇に潜むが如く動きを慎重にしていた。
「哲さん!」
・・・つづく




