「空」 第47話
「解った! ありがとう、宇宙、茜さん」
俺は、大門寺から借りた車に乗り込み、屋敷を出て東中野に向かった。
周りの街並みは、オレンジ色に染まり鈴虫が鳴き始めていたが、今の俺の五感では、何も感じる事が出来なかった。
「・・・哲さん、どう?」
携帯を片手にハンドルを握り、小滝橋通りを中野方面に走る。
「駄目だな。 歌舞伎町にはいねぇらしい。 組にも暫く顔出してねぇ。 根性無ぇ奴ぁは、隠れるのだきゃあ上手ぇからな・・・」
「哲さん・・・。 俺は今、東中野に向かっている。 東中野にあるマンションで、新宿の夜景が屋上から見えて、隣に大きな車屋のある場所知らないかな・・・?」
「急にそんな事言われたってよぅ・・・。 管轄外だしな。 そこに奴がいるのかよ?」
「・・・確証は無い」
でも、居るような気はしていた。
何故かは解らない・・・・・が、俺の勘がそう告げていた。
「わぁった。 調べてやろう。 ここまで騒ぎがデカくなっちまって、被疑者死亡じゃ格好つかねぇからな!」
「あぁ、すまない・・・」
小滝橋通りと早稲田通りとが、合流したぐらいから道が混み出す。
夕刻の帰宅ラッシュなのか、徐行が続いた。
(チッ!! こんな時に・・・)
ハンドルを切って、裏道に入り駅の方へ向かう。
「・・・あっ、大門寺。 東中野は詳しいか?」
携帯を、顎と肩に挟み、ハンドルを握る。
大門寺は大丈夫だが、黒岩に世話になり過ぎると、後で何をさせられるか解らなかったが、背に腹は変えられなかった。
「・・・すまんです。 不動さん。 俺はあんまり・・・・・」
俺は次々と携帯を掛け捲った。
「・・・修、東中野詳しくないか?」
「すいません。 自分はダメっす・・・、でも不動さん。 不動さん車に乗ってるみたいっすけど、ナビ・・・付いて無いっすか?」
(ナビ!?)
東中野駅脇に車を停め、修に有難うを言い、車屋にターゲットを定めナビをいぢくり回す。
(出た!!! 4つあるのか・・・)
煙草を咥えながら、4つの車屋のルートを調べる・・・・・と、その時携帯が鳴った。
「不動さん、大門寺です。 さっきの話しっすけど、組長が“東京ナノペットじゃないか”って、言ってるんっすけど・・・」
「ナノペット? 何でだ???」
「昔、歌舞伎町にシマのあるヤクザは、住まいに中野を好んだらしいですぜ。 それも新宿に一番近い東中野を。 組長の知り合いも、東中野に住んでたらしいっすけど、そのマンションに何度か行った事があるそうでさぁ。 組長の知り合いは10階にいてて、ベランダで良く酒を呑みながら、新宿の夜景を見て“いつかあのネオンを掴んでやる!”って話してたそうっす。 そのマンションの隣が、東京ナノペット・・・」
「そのマンションの名前は?」
「東和コープ。 今から40年ぐらい前に建てられた、東和不動産の1号店だそうっす・・・」
「解った! 有難う。 行ってみる」
ナビを東京ナノペットにセットして、街灯に火が入り出した道路に車を出した。
ルートを見ると、以外に近い。
山手通りから、早稲田通りを左折。
信号を1つ越えた左側にそれはあった。
「ここかぁ・・・・・」
1階にある住民の為の駐車場に車を停め、マンションを見上げた。
(居てくれ・・・)
中に入ろうとした途端、ポケットの携帯が暴れ出した。
「探偵、調べたぞ。 夜景が見えるという条件から、10階以上と想定して、隣に車屋・・・中古車屋だが、出て来たのは3丁目にある東和コープ。 築40年の古いマンションだ」
「あぁ、らしいな。 俺もそこへ来ている・・・」
・・・つづく




