「空」 第46話
携帯を、もう一方の連絡先に向けた。
「・・・大門寺か?」
「不動さんっすか? どうしたんっすか? 何か慌ててるみたいっすね・・・」
「すまん・・・、ちょっと訳ありでな・・・」
「へい・・・・・」
「あの女・・・山岸 礼子はどうしてる?」
「あの女なら、今、うちの組にいやすぜ・・・」
「そっか・・・・・こっちは大丈夫そうだな」
「何がっすか?」
「・・・大門寺、よく聞いてくれ。 その女が狙われている可能性がある。 保護してやってくれ」
「この女をっすか・・・?」
大門寺は不満そうに答えた。
「大門寺・・・、俺も、その女がどうなろうが知ったこっちゃない。 だが、狙ってる方にこれ以上罪を重ねさせたくない・・・・・」
「・・・・・了解しやした! 不動さんがそう言うなら、護って見せまっさ!!」
「すまんな。 それと、黒岩に宇宙〈そら〉は無事戻ったと、伝えてくれ・・・」
「承知でさぁ。 ・・・でもっすね、組長、もう知ってるみたいっすよ」
(・・・流石だな)
「解った。 ならいい・・・・・」
携帯を切り、席を立った。
「!? 不動君・・・・・」
「会長・・・、最初に言ったはずだ。 俺のやり方に口を挟まないで頂こう・・・」
楠木会長の言葉を遮り振り返ると、そこに1人の少年が立っていた。
「宇宙・・・・・」
眼にいっぱいの涙を浮かべ、それでも泣くまいと歯を食い縛り握り拳を作っている姿は、血の繋がりはないにせよ、楠木会長を思わす姿に見えた。
「・・・ずっと居たのか?」
宇宙は頷くと、光の粒が2、3滴、頬を流れた。
(・・・宇宙には辛い結末になるかぁ・・・・・)
宇宙とのすれ違い様に、宇宙に頭に手を置き、心の中で“すまん”と一言呟いた。
「おじさん!! ・・・うううん、不動さん!! 僕、お母さんの行きそうな場所知ってるよ!」
「!?」
「多分、お母さんはあそこに居るんだ・・・」
「宇宙・・・、何故俺に?」
「お母さんを助けてくれるんでしょ? ・・・お、お母さんを・・・・・」
「あぁ・・・・・、でも助かれば警察に行く事になる・・・」
俺は、目線を合わせる為、宇宙の頭に手を乗せたまましゃがんだ・・・、宇宙と初めて会った、歌舞伎町の時と同じように。
「・・・お母さんは間違えたんだ。 間違えたら、謝ってやり直せば良いんだ。 僕はお母さんにそう教わったよ。 ・・・ね、お父さん、お爺ちゃん・・・・・」
守氏は泣きじゃくっていた。
楠木会長は、首を項垂れ、こちらには一切顔を見せない。
会長の隣で会長に寄り添い、会長の気持ちを代弁するかのように、目尻を光らせ何度も頷くハツがいた。
(・・・楠木家の人々も、悪い人達ではない。 宇宙を見てればわかる。 歌舞伎町で、雨の中、お母さんが居なくて泣いていた頃の宇宙とは、比べものにならないくらい成長した・・・・・)
「その通りだ、宇宙!! 男になったな。 で、お母さんは・・・?」
「この前ね、お母さんとあるビルの屋上に行こうって話になったの・・・夜景を見ようって。 そしたらね、ビルの下でやっぱりできないって、お母さん泣き出しちゃったの。 で、お母さんどうしたの?って聞いたら、何でも無いって涙を拭いてね、昔の話をしてくれたんだ。 このマンションはね、お父さんと初めて会った場所なのって・・・」
「そのマンションは?」
「う~ん・・・・・」
「・・・・・あっ!!!」
茜が急に声を上げた。
「私も聞いた事があります。 きっかけは些細な事でした。 夜景の話をしていて、お父さんでは無かったけれど、昔、知り合いと見に行った新宿の夜景が忘れられないと。 奥様がこの屋敷に来てすぐぐらいの時に・・・」
「で、その場所は?」
後ろを振り返り、茜をジッと見つめて茜の記憶に縋った。
「・・・・・・・・・・確か・・・・・・東中野のマンションとか・・・・・」
宇宙が、茜の話しにくっつけた。
「隣に大きな車屋さんがあったよ!!」
「解った! ありがとう、宇宙、茜さん」
・・・つづく




