「空」 第43話
「解ってるよ。 聞いてみただけだ・・・」
煙草を1本、飲み終わる時間ぐらい考えた。
「突っ込むしかねぇな。 東城は、楠木会長に脅迫電話入れてんだろう? あそこから動くとは思えねぇ」
「・・・あんまり頭使ってないように思うが・・・」
「じゃあ探偵!! 他に良い案でもあるっつーのか?」
「・・・いや、俺も突っ込むしかないと思っている」
「同じ穴の貉じゃねぇ~か」
「フッ、哲さんは“貉”じゃなくて“蝮”だろう?」
「ハハッ」
くだらない会話だが、息が合ってきた。
この憎まれ口が、2人のコミュニケーションになっている。
「じゃ、哲さん。 正面は任せるよ。 “警察だ”って叫んで入ったら、少しは相手もビビるだろうし・・・」
「てめぇは?」
「裏へまわる」
「裏口があんのか?」
「これから探すさ。 誘拐犯のアジトで、出入口が1ヵ所だけって、考え辛いからな」
「よし!! じゃあ、別れよう。 俺は、なるだけ正面で騒ぎをデカくする。 裏口から、奴らが逃げ出すようにな!!」
「OK! 後は任せてもらおう」
俺は、その店の脇をすり抜け裏へ出た。
裏には、赤い錆色の鉄扉が1枚あり、その錆色が、外敵を寄せ付けないオーラを出していた。
(・・・他に出口は無さそうだな・・・・・!? おっ!!)
俺は、鉄パイプを見つけ拾い上げた。
多少曲がってはいるが、十分武器になる長さと重みだった。
(よし!! 来い!!)
と、思った瞬間、誰かが正面で騒いでいるのが聞こえた。
「火事だ~~~~~!! 火事だぞ~~~~~っ!! 皆!! 避難しろ~~~~~~っ!!!」
哲さんの声だった。
(フフッ。 考えたな、哲さん。 パトカー読んで立て籠もられたら厄介な事になる。 騒ぎを大きくして相手をいぶり出すなら、火事が一番か・・・)
俺は、鉄扉の傍の非常階段に身を隠した。
消防のサイレンが段々と近づいて来て、少し離れた所で消えた。
此処は路地裏なので、あの馬鹿でっかい消防車は入って来れないのだろう。
(んっ!? 扉の向こうが騒がしくなってきたな)
ガチャーーーーーン!!!
凄い音をたてて、鉄扉が開いた。
「全くなんだって言うんだ!! 火事だと!? 来い!! この餓鬼!! 手古摺らせるな!!!」
(宇宙〈そら〉!!)
見つけた。
宇宙の腕を引っ張っているのは、東城だった。
その後ろから、白のベンツの男が出て来た。
(・・・・・よし!!!)
俺は、ベンツ男の後ろに立って、“おいっ”と一声かけた。
ベンツの男は、ギロリと睨むような感じで振り返った・・・と、同じぐらいに、男の鎖骨目掛けて鉄パイプを振り下ろした。
ゴィ~~~~~ン
ベンツの男は、肩を押さえて蹲った。
その音に振り返った東城は、宇宙を突き飛ばし慌てて逃げ出した。
「宇宙!!」
鉄パイプを捨て、突き飛ばされて倒れた宇宙に駆け寄り抱きかかえた。
その俺の背中に話しかけた奴がいた。
「探偵!! 大丈夫か? 奴は?」
「人質は無事だ。 連れはそこに蹲っている。 東城は宇宙を突き飛ばして逃げた・・・」
「何おぅ!!! ここまで騒ぎをデカくしたんだ!! 逃がすかよ!!!」
哲さんは、酒焼けの嗄れ声で吐き捨て、“すぐに応援が来るから、ジッとしていろ”と言い放って、東城の逃げた方にダッシュした。
「大丈夫か? 宇宙?」
「・・・うん。 大丈夫」
「立てるか?」
俺は、一刻も早くここを離れたかった。
警察とも顔を合わせたくないし、事情聴取など尚更御免被りたかった。
俺が警察を嫌いなのは、今に始まった事じゃない。
この話は長くなるので、又の機会に話すとしよう。
(取り敢えず、宇宙を会長と茜の元へ連れて行くか・・・)
「宇宙、帰ろう。 会長や皆の元へ・・・」
・・・つづく




