「空」 第42話
“俺らが行くまで動くな”と言われたが、そうはいかなかった。
環七に出て左、野方駅をくぐる前に側道へ入り車を停めた。
山岸 礼子から聞いていた店は、駅のすぐ近く、路地を抜けると吊り看板がまだあった。
「そこだな・・・・・ん? 誰か出て来る・・・」
如何にも、暴力団風の厳つい男が1人出て来た。
白地に金ラインの入ったジャージ・・・、平井では無いようだった。
(ん!? ちょっと待て。 あいつ・・・、見覚えがあるぞ・・・・・。 そうだ!! 白いベンツの男!!)
ベンツの男を見つけた。
(どうやらビンゴらしい。 今、哲さんが向かってる。 ここは任せて、俺はあの男をつけてみるか・・・)
その店の中には、何人いるのか解らなかった。
吉野組は動いていないらしいから沢山はいないだろうが、相手は暴力団。
何を持ち出すか解らないし、宇宙〈そら〉も人質に取られている以上、店に対する迂闊な行動はとれなかった。
男の後を、ある程度間隔をあけてつける。
男は、駅前のファーストフード店に入って行った。
男に顔が割れている可能性が高い俺は、同じ店に入るのを避けた。
如何やら、持ち帰りらしい・・・、紙袋を持って出てきた。
再度、男の後を追い、店に戻った事を確認してから、ファーストフード店へ戻った。
「すまんが今、ジャージ姿の厳つい奴が来たろう。 何セット買ってった? 俺の舎弟なんだけど、多分足りないと思うんだ」
如何にも、ジャージ姿の男を追っかけて来たように息を切らせ、仲間だからといわんばかりに捲し立てた。
「あっ!? はい。 たった今、お買い上げ頂きました」
「かーーーっ! 追いつけなかったか。 で、何セット買ってった?」
「3セットです」
「やっぱり1セット足りねぇ。 このセットくれるか?」
メニューを指さし、1セット買った。
店の前に戻り、入り口を張り込みながら、遅すぎる朝食を採った。
(3セットかぁ・・・。 少なくとも、2人は中にいる。 奴と東城か・・・)
ハンバーガーを齧りながら考えていると、誰かに肩を叩かれた。
「わっ!? ・・・哲さん、脅かすなよ~。 ・・・・・あれ? 1人???」
「当たり前ぇだ!! たかが探偵風情が誘拐だ殺人だと騒いだところで、税金で喰ってる俺達は動けねぇ。 当人からの被害届が出てなきゃな」
「お国思いの良い警官って感じか・・・」
「嫌味を言うな。 俺が来ただけでも、有り難いと思え!!」
「へいへい」
「でっ! 誘拐は本当なんだな!! どうなってんだか説明しろ!!」
哲さんに、今までの経緯を事細かに説明した・・・、荒っぽい《犯罪?》行為は外して・・・。
「てめぇ~、何でここまで黙っていやがった!! 途中からは、どう考えたって警察の仕事だろうに。 てめぇは、楠木会長を説得して、被害届を出させるのが筋だろうが!!」
哲さんは、眼光鋭く店の入り口を睨みながら、説教を垂れた。
「警察が頼れる存在なら、俺もそうしていたさ。 ただ、探偵風情が騒いだところで、誰も相手はしてくれまい?」
「ケッ! 屁理屈を」
「屁理屈も、理屈の1つだぜ」
「もういい!! 中の状況は?」
「今、俺を襲ったベンツの男が、ファーストフードで買い物をして入っていった・・・。 買ったのは、ハンバーガーセット3つ。 もし宇宙の分が入っていれば、東城とその男、入っていなければもう1人いる事になる。 哲さん、相手は永成会だ。 チャカ《拳銃》は?」
「持ってる訳ねぇだろ!! 見回りに行って来るって出てきたんだ」
「解ってるよ。 聞いてみただけだ・・・」
・・・つづく




