「空」 第40話
山岸 礼子は、半ベソをかいていた。
右の掌を俺に向け、お尻と足で少し後退りをした。
俺は、山岸 礼子に1歩近づき、もう1度言った。
「誰だ?」
「えっと・・・・・」
「・・・嘘は無しだ!」
考える素振りを見せたので、先手をとって追いつめた。
「はっ・・・ぃ。 お金持ちの方は、楠木 守。 彼の方は・・・、東城 仁・・・・・」
「!?」
俺が驚いてしまった。
咳払いをし、顔を取り繕って聞き返した。
「楠木 守は、クスクスレイクの社長だな? 東城 仁とは、何処の組のモンだ?」
「・・・永成会よ」
(!? ・・・ちょっと待て。 永成会って、平井じゃないのか? 平井と東城の繋がりは同じ組員??? いや、しかし哲さんも修も、楠木家の集合写真を見ている・・・。 もしそこに暴力団員がいれば、気付くはずだが・・・)
「??? 何か変な事言いました?」
「あっ!? いや・・・・・」
考え込んでいたらしい。
「・・・ちょっと見て貰いたい物があるんだが・・・」
俺は、懐に手を入れた。
「!? 何で!! 殺さないでよ!! 全部喋ったじゃない!! ・・・お願いよ。 殺さないで・・・。 何でもするから・・・・・」
山岸 礼子は、また勘違いをしたようだった。
「落ち着け!! 何でもするならこれを見ろ・・・」
山岸 礼子に、楠木家の集合写真を見せた。
「・・・仁がいるわ。 あぁ、守さんもいる・・・・・あれ??? これ、何の写真ですか? 雅子さんもいるの? 何で???」
「!? ・・・雅子さん?」
「そう。 占い師の雅子さん・・・。 ちょっと前に知り合ったの。 歌舞伎町で声をかけられて・・・」
「どの人だ?」
「この人よ・・・」
山岸 礼子は、葉子夫人を指した。
「!? どういう事だ?」
「どういう事って言われても・・・、歌舞伎町で声をかけられて、“あなたは今、不幸の1歩手前にいる”とかなんとか・・・。 最初は相手にしなかったの。 でも、あまりに五月蠅いから、話してみたら当たるのよ! 今、“不倫している”とか、“不倫している相手は金持ち”だとか・・・」
「そりゃ当たるだろう。 お前が話した相手は、お前が不倫していた相手の奥さんだ」
「!? えーーーーーっ???」
鳩が・・・というよりも、蛙が豆鉄砲を喰らったように驚いている。
「葉子夫人。 守社長の奥さんだ」
「どうしよう・・・・・、どうしよう・・・・・。 話しちゃったのよ、雅子さんに・・・あっ、違った。 奥さんに。 守さんの事とか、仁の事とか・・・・・」
「守氏に、東城を紹介したのは、お前だな?」
「・・・・・・・・・・・どうしよう・・・・・・・・・・」
「おい!!!」
「ハッ!! あっ、すみません・・・・・」
「守氏に東城を紹介したのは、お前かと聞いている・・・」
「あっ、はい。 私です。 どうしても、お金を引き出すには、お前が必要だって・・・。 紹介して欲しいって仁が言うから、暴力団の事は伏せて、“守さんの傍に置いてあげて”って・・・」
「なるほど・・・。 で、話しは変わるが、お前はこいつを知っているか?」
俺は、平井の写真を見せた。
「!? ・・・・・え~~~っと、なんて答えたら良いんだろう・・・・・」
「どういう事だ? こいつの事は知らないのか?」
「いえ・・・、知ってます。 ・・・・・っていうか、・・・・・彼氏です・・・・・・・・」
「???」
(・・・二股? いや、三股か?)
「・・・若い頃の写真だからかな? でも、ちょっと顔、変えてるかも・・・。 これ・・・、仁ですよ・・・」
「???・・・・・何~~~っ!!!」
今度は、俺が豆鉄砲を喰らった。
平井の写真と楠木家の写真を比べて、確かに言われてみれば、似てはいるが・・・、気が付かなかった。
(平井と東城が、同一人物? まずい!! 宇宙〈そら〉が危ないぞ!!!)
「おい!!!」
凄い剣幕で、山岸 礼子の両肩を掴んで揺らした。
「良く聞け!!! 今、東城は誘拐犯となった。 隠し事をすれば、お前も同罪となる。 奴の居場所を教えろ!!! 立ち寄りそうな所でも良い!!! 言え!!!」
・・・つづく




