「空」 第39話
(山岸 礼子)
エレベーターホールへ行き、エレベーターに乗り込んだ。
5階へ向かう。
ドアが開き、部屋番号とネームプレートを確認しながら、501の前で立ち止まった。
ピンポーーーン
ドアホーンが鳴る。
応答が無い。
もう1度押す。
ピンポーーーン
「・・・・・はい」
少し眠そうな声だった。
「山岸 礼子さん、恐れ入ります。 中野警察の者ですが、少しお話しをお伺いしたいのですが・・・」
「!? 警察!!!」
ちょっと慌てた感じがした。
「・・・・・少々お待ち下さい」
ドアチェーンのかけられる音がして、ドアが細く開いた。
俺はいきなりドアに手を入れ、力一杯引っ張った。
ガチーーーーン
ドアチェーンが、物凄い勢いで突っ張った。
すかさず足を滑り込ませドアを閉まらなくさせて、チェーンカッターでチェーンを切った。
ドアは無抵抗になり、山岸 礼子も後ろに尻餅をついて唇を震わせていた。
この一連の動作に、何秒もかからなかった。
中に入り、無抵抗になったドアを閉め鍵をかけて、土足のまんま山岸 礼子の前へ行きしゃがんで聞く。
「あなたが山岸礼子さん?」
声が出ないのか、恐る恐る頷いた。
「怖がる事は無い。 ちょっと聴きたい事がある・・・」
「あっあんた・・・誰よ!?」
何とか声を絞り出している。
「知る必要はない。 ・・・知ってしまったら、俺はお前を消さなきゃならない。 質問に答えてくれればそれで良い・・・」
少しドスを効かせて、それなりに勘違いするように仕向けた。
「!? お金なら待って!! もうすぐ大金が入るの!! そうしたら全額すぐ返すわ!!!」
山岸 礼子は、俺の腕にすがってきた。
(借金はあるわな。 風俗やってて借金の無い奴なんて、なかなかいない・・・。 で、近々大金が入るだと?・・・・・フッ)
「クライアントはもう待てないと言っているが、その大金とやらが気にかかる。 教えて貰おう。 どうやって大金を手に入れる?」
「・・・教えたら・・・・・?」
「俺の独断で待っても良い・・・」
「本当!?」
「疑うなら、今、お前の命で返して貰おう・・・」
その場に立って、懐に手を入れた。
「まっ、待って!? わかったわ。 話すから待って!?」
俺は懐から何も出さずに手を抜いて、しゃがんだ。
「・・・え~っと、あれは3年ぐらい前かしら。 私は歌舞伎町のソープにいたのね・・・」
山岸 礼子の話はこうだった。
3年前に、ある男性が客で来た。
その男性は、山岸 礼子を気に入り常連になった。
金持ちそうに見えた。
2人は外で会うようにもなり、暫く愛人関係が続いた・・・と、ある時、男性から悩みを相談された。
実は子供がいるのだが、どうやら自分の子では無いらしいという。
医者の友達がそういうのだが、信じられない・・・と。
そこで山岸 礼子は“あれ!?”と思った。
山岸 礼子には本命の男がいて、その男が“金づるを見つけた”と言っていた。
“ある金持ちの息子が、そこの家の子では無く、自分の兄貴の子だ”と。
“そこに取り入って、金を引き出してやる”と。
“・・・ただ、取り入るには少し時間がかかる”とも。
その男は、そう言っていたそうだ。
「・・・その男とは?」
「どっちよ!?」
「両方だ!!」
山岸 礼子は黙った。
何かに怯えているようにも見えた・・・、俺じゃ無い何かに・・・。
「・・・・・言わないのか?」
鋭い視線を、山岸 礼子に刺した。
「いっ!? 言いたいけど、相手は暴力団なのよ!! 言えば何されるか・・・」
「状況が解っていないようだな・・・」
俺は、普段から低めの声だが、もう少しトーンを落した。
「わっ!? わかったわ! だから・・・、だから・・・」
山岸 礼子は、半ベソをかいていた。
・・・つづく




