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「空」 第38話

「すみません。 急ぎで届け物をしたいのですが、取りに来てもらえますか?」




「はい。 有難う御座います。 では、まずはお名前からよろしいでしょうか?」


「はい。 田中と申します・・・」



住所はこのマンションの住所を、電話番号はうちの事務所の電話番号を教えた。


取りに来るには、15分程かかるそうだ。


駐車場に戻り、大門寺に買い物を頼んだ。



「大門寺! 悪ぃ、すぐそこのコンビニで、パンと牛乳買って来てくれないか?」


「!? な、なんっすかぁ。 こんな時に朝飯っすかぁ???」



大門寺は怪訝な顔をしたが、俺が“頼む”と拝んだ仕草をすると、“わかりやした”と車を降り、小走りでコンビニへ向かってくれた。


俺は、その間に1本電話を入れた。



「・・・茜さん、居るかい?」



ガチャ



「はい。 茜です」


「茜さんに、1つ頼みたい事ができた。 良いかい・・・もしかしたら、そこに白猫ヤマトから連絡が入るかもしれない。 留守電にせずに、直接出てくれ」



茜には、マンションの名前、住所、301の田中と名乗る事、ここら辺は道が入り組んでいるので、恐らく道案内をお願いする連絡が入るはずだと思い、山手通りからマンションまでの道を教えた。


茜は、何も聞かず“わかりました”と言って電話を切った。



(賢い娘だ。 普通、何でどうしてと聞くだろう事なのに、わかりましたの一言だけだ・・・)



茜には、何度も感心させられてしまう。


そんな事を考えていると、大門寺がコンビニの袋をぶら下げて帰って来た。



「へい。 不動さん」



コンビニの袋を俺に差し出した。


悪ぃと大門寺を再度拝み袋を受け取った時、携帯が暴れ出した。



「・・・茜です。 今、白猫ヤマトから連絡がありました。 後、2、3分で着くそうです」


「了解した。 有難う・・・」



茜は“いえ”と一言言い、電話を切った。


煙草に火を灯し、白猫ヤマトを待つ・・・・・と、白猫ヤマトの車がマンションの前で停まった。



「よし!!」



俺は車を降り、コンビニの袋を下げ、コートの中にはチェーンカッターを忍ばせて、小走りでマンションの入り口に駆け寄った。


白猫ヤマトの配達員は、301を押しインターフォンを押した。



「・・・はい」



女性が出た。



「白猫ヤマトでーす」


「は~い。 どうぞ~」



オートロックが開いた。


あくまで勘だった。


301の田中宅には子供がいる。


それも3歳以下の子供。


共働きでなければ、この時間はいるはず。


それに、この頃の男の子は手がかかる。


近くに商店街の無いこの辺りに住む主婦は、通販での買い物が多くなる。


運送会社にはガードが甘い。


ポストのシールを見て、仮説を建ててみた。


想像の領域を出ない仮説・・・・・、ハマった。


すかさず慌てず、マンションの住民ですみたいな顔をして、配達員の後を追いオートロックを通過した。


俺はすぐにはエレベーターホールへは向かわず、ポストの裏へ向かう。


白猫ヤマトの配達員は、一瞬不可解な顔をしたが、俺の下げているコンビニ袋を見て、何かを納得したようだった。



(コンビニ袋1つだけで、勝手に納得してくれるんだから、楽な世の中になったものだ・・・)



コンビニの便利さを履き違えている気もするが、501のポストの裏へまわり中を調べた。


オートロックだけあって、中に入ってしまえば然程大変ではない。


このアバウトなロックシステムが、何故これ程までに絶大な信頼感を得ているかは知らないが、ポストのロックは殆んど開いていた。


501も例外では無かった。


ポストの中を調べ、光熱費の封書から本名を確認。



(山岸 礼子)




                    ・・・つづく


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