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「空」 第35話

「・・・ただその当時、1人だけ納得せなんだ輩がおった。 ・・・そうじゃ、平井の弟じゃ・・・」




「弟・・・・・」



黒岩は胸元から写真を1枚取り出し、俺に差し出した。



「・・・この写真は?」


「随分昔のものじゃが、平井じゃ。 最近は、半年ぐらい姿を消しててのう。 手に入ったのはその写真だけじゃ・・・」


「くれるのか・・・?」


「・・・・・」


「珍しいな。 協力的じゃないか・・・。 何かあるな。 ・・・話してみろよ」


「・・・実はのう・・・。 預かっとった宇宙〈そら〉じゃが、昨晩から姿が見えんようになってのう・・・。 うちの馬鹿が、宇宙に唆されて表に食事に行ったそうじゃ。 その馬鹿は、大久保通りの裏道に倒れておった。 預かってからというもの、宇宙はこの屋敷から一歩も外へは出さなんだから、きっと飽きたんじゃろうのう・・・」


「!? 何!! じゃあ今、この屋敷に宇宙は居ないのか???」


「・・・おらん」


「何てこった・・・」



俺は顔全部で天を見上げ、目の周りを片手で覆い隠した。



「今、若いのに探せてはおるが、まだ見当もついとらん・・・」


「・・・そこで、俺に情報を与え、探させようとしているのか」


「・・・無理にとは言わん・・・・・」



黒岩は、後ろ手に組み、目を細めて俺を見た。



「アンタの尻を拭くのは御免被りたいが、宇宙の命がかかっているかもしれない。 今は、アンタに言われるまでも無く宇宙を探す!」



黒岩は表情を笑顔に変え、軽く2度頷いた。


屋敷の方から、側近と見える白髪混じりの黒服が、常設電話の子機を持って黒岩の後ろに屈んだ。



「組長、お電話が入っております・・・」


「誰からじゃ・・・」



側近はチラリと俺の方へ目を向けた。



「良い。 申せ」


「はっ。 楠木会長からです・・・」



この3人の中に、何とも言えない緊張の糸が張った。



「んっ・・・」



黒岩は、子機を受け取り話し出した。


黒岩の受け答えだけでは、何が話されているのか到底解らなかった。


その時、俺のズボンの後ろポケットに入っている携帯が、俺はここにいるぞと主張しているように暴れ出した。


画面を見ると、茜だった。



「はい・・・」


「茜です!! 大変な事になりました!!!」


「どうしたんだ?」



俺は冷静を装った。



「今、ハツさんから連絡があって、会長に脅迫電話がかかってきたそうです!!」


「脅迫電話・・・・・」



黒岩が電話を終え、俺を見て頷いた。


その顔からは、笑みは消えていた。



「茜さん、俺は今黒岩のところにいて、黒岩組長のところにも楠木会長から連絡が入った。 こっちで詳しい話しを聞くから、君はそこから1歩も出るな。 後で連絡する」



携帯を切り、ジッと見ていた黒岩に向き直った。



「・・・どういう事だ?」



黒岩は微動だにせず、ゆっくりと話し出した。



「この事を大門寺に伝えぃ。 後の事は解っておるな」


「はっ!」



側近は、屈んだまま会釈をすると、屋敷へ走って行った。



「・・・探偵。 今、楠木のところに平井から連絡があったそうじゃ。 宇宙を預かっておると・・・。 返して欲しければ5億じゃと。 どうする・・・?」


「払ったところで、宇宙が無事に帰って来るとは限らない。 今は、可能性のある場所を探す・・・」



(悠長な事は言ってられなくなった。 哲さんには悪いが、ちょっと荒っぽい手を使わせてもらう・・・)




                    ・・・つづく

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