「空」 第32話
やはりこの店は、自分にとって無くてはならない店だった。
事務所に戻り、すぐに居住区に入り裸になって寝た。
仕事の事は考えずに寝た。
仕事と喧嘩は、素面の時にやると決めているからだった。
朝になっている雰囲気を瞼を通して感じ、薄目を開けると陽は登っていた・・・、が、何時だか解らない。
枕元の携帯を開けて6時だという事と、着信、メールが無い事を確認する。
今日はまず・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・!?
二度寝してしまった!?
起きたら8時半になっていた。
オーディオの電源を入れ、脳を起こす。
昨日と同じサッチモが流れたので、今朝は違うとCDラックからジャパニーズメタルを選びオーディオに入れた。
かかったのは“ファイヤーストーム”、最高に乗れる曲だった。
「いいね~。 風を切る速さで♬ 闇を突き抜け~」
鼻歌交じりで、いつも通りの支度をして事務所に出た。
(・・・!? おかしい・・・)
香ばしい良い香りがした。
事務所の水回りでコーヒーが沸いている。
(???)
「あっ!! おはようございます」
俺のデスクを拭いている茜が挨拶をした。
(茜!?)
「あっ、ごめんなさい。 驚いてますよね。 昨日、不動さんに言われた事を会長に相談したら、“不動君に護ってもらえ”って今朝、お屋敷を追い出されちゃいまして・・・、ご迷惑でしょうか?」
(???)
暫く状況が理解できずにいた。
「・・・ごめんなさい。 やっぱり帰ります。 コーヒー入れてありますから飲んで下さいね」
茜は、ソファーにかけてあったカーディガンを取り、玄関に急いだ。
「・・・すまん。 ちょっと待ってくれ。 状況が理解できん。 まずはどうやって入った?」
「・・・玄関まで来て、やっぱり悪いかなと思って帰ろうとしたら、下から和服のおじいさんが上がってきて、“お客さんかい?”って尋ねられたので、首を横に振ったら“ちょっと待ってなさい”って鍵を開けてくれたんです。 私は“えっ!?”って言ったら、“大丈夫、私は大家だから”って・・・」
(!? く~ろ~い~わ~)
「入れて頂いて、ただジッとしるのもあれなんで、掃除をさせて頂きました。 それから大家さんに、起きたらこれを渡してほしいと頼まれました・・・」
茜から紙切れを受け取り開いてみると、“連絡をくれ”と一言書いてあった。
(・・・黒岩のところには宇宙〈そら〉がいる。 俺が頭を突っ込んだ事、会長に聞いたか掴んだな)
「あのー」
「!? 俺の前では、装わなくていい」
「!! 違います。 装ってません。 不動さんに聞こうと思って・・・」
「・・・何を?」
「・・・何を?って、私を引き留めたのは不動さんです!」
「あっ!? あの~、え~と~、その~」
「はい!」
茜の眼はキラキラしていた。
眼鏡の奥で輝いていた。
(・・・別に恋の告白でもあるまいし、何どもってるんだ・・・俺)
情けないと思いながらも、何か心の奥底で熱いものを感じる自分がいた。
「えーーーっと、もし茜さんが良ければ、ここに居てもらっても構わない・・・。 ただ、楠木会長の意向には添えない。 俺は外出が多く、茜さんを護ってやれないと思う・・・」
「私も護って貰おうとは思っていません。 不動さんのお手伝いが出来ればと思ってきました。 不動さんが楠木家の為に動いてくれているのに、私だけがじっとしていられないと感じたんです・・・」
(感受性も高いし、頭の回転も速い・・・。 良い娘だ)
「・・・楠木家の為じゃない。 金の為だ・・・」
・・・つづく




