「空」 第29話
塩沢〇きの影の部分を見たような気がした。
「確かに・・・。 何か方法を考えてみます。 では、私はこれで・・・」
残りのオレンジジュースを飲み干し、席を立った。
葉子夫人は、もう少し聞き出したかったようだが、軽く手を上げて挨拶をした。
俺は、店を出て少し離れてから、1時間ぐらい禁煙していた煙草に火を点けた。
周りはすっかり暗くなっていた。
時間を携帯で確かめて、次のターゲットの確認をした。
さっきもそうだが、暫く煙草を飲まないと、飲んだ時頭がクラクラする。
(今、19時半過ぎ・・・。 守氏が帰って来るまで、1時間以上あるな・・・)
携帯で、茜に連絡をした。
「はい・・・」
「不動です」
「解ってます。 今の携帯は、呼び出しの最中に誰からかかってきてるか、名前が出るんですよ・・・」
「知っている。 俺は古い人間だから、名乗らないと気が済まないんだ」
「古い人間だなんて・・・」
「茜さん・・・、お願い事があって連絡したんだが・・・」
「あっ! 何でしょう?」
「今から葉子夫人が帰る。 そうしたら、四六時中じゃなくていい、軽く気にしていて欲しいんだ。 特に、電話で誰と話しをしているかとかだ。 ただ、茜さんは恐らく葉子夫人から疎まれる。 ハツさんと一緒にできると嬉しいんだが・・・?」
「何故私が奥様からうとま・・・!? あっ!? 私が不動さんを雇ったから・・・?」
「当たらずとも遠からずだ。 葉子夫人には、何か考えがあるようだ。 その考えは、俺に限らず部外者は邪魔らしい・・・。 今、葉子夫人と話して“手を組もう”と、言われたよ」
「えっ!? 考えって? 私はただ・・・、宇宙〈そら〉坊ちゃまの安否が心配で・・・」
「解っている。 ただ、そう思う輩ばかりでは無いという事だ。 ・・・東城氏の言葉も気にかかる。 茜さん、くれぐれも気をつけてやってくれ」
「!!」
「じゃっ、宜しく頼みます」
「・・・はい。 !! 今、奥様が帰って来られました」
ガチャリ! ツーーーッ ツーーーッ ツーーーッ
(疑心暗鬼の餌は蒔いた。 その餌に誰が食いつくか。 ・・・次は守氏か。 時間があるから、今のうちに腹ごしらえでもしておくか・・・)
楠木家の門先に戻り、門の両方の飾り取っ手を結わくように髪の毛を結んでおいた。
新宿方面に少し戻り、食事ができる場所が無いか見渡してみると・・・、周りは夜の静寂が支配している。
街灯の明るさからなのか、空を見ても黒いだけ・・・、星は全く見えず、まるで都会の幼稚園児が書いた夜空のようだった。
明治通りまで戻り、角にあったラーメン屋に入る。
如何にも昔ながらのラーメン屋で、野菜炒めから作る味噌ラーメンは絶品だったが、テレビから流れる政治家のコメントが味を半減させた。
(政治家がこの為体では、俺が死ぬ前にこの国が危ないかもな)
国がどうなろうが、自分ではどうにもできないと少しはにかみながら、爪楊枝を咥えて店を出て、茜のメモを確認し、黒のシーマを待つ為に楠木家に戻った。
門の前に立ち、飾り取っ手を見てみると、まだ髪の毛は結ばれたままだった。
髪の毛が切れていれば、この門はい1度開いた事になる。
(・・・誰に説明しているのやら。 まだ守氏は戻っていないな・・・、予定通りだ)
またいつもの立ち位置に戻り、煙草に火を点けた。
煙草で肺癌になるのが先か・・・、仕事で命を落とすのが先か・・・、それとも女で身を持ち崩すのが先か・・・。
(最後は無いな・・・)
こんな不毛な想像を頭に思い浮かべながら、時間を潰した。
・・・つづく




