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「空」 第27話

(さて・・・、後は・・・)




そう、ここで葉子夫人を疑心暗鬼にかけ、“こいつは何処まで知っているの? お父様とは何を話したの?”と考えさせ、俺から何かを聞き出そうとすれば大当たり。


こちらの策に嵌るはず。


ここで大事なのは、葉子夫人を一郎氏に会わせない事。



「・・・いいえ。 私は知らないわ。 急用があるの・・・。 失礼させて頂くわ」



(やはり葉子夫人は一郎氏に確認を取りたがっている・・・)



「いえ、私も急がねばなりません。 どうやら宇宙〈そら〉君は誘拐されたらしいのです。 命が危険に曝されているかもしれない。 最近、宇宙君の周りで白いベンツが何度か確認されています。 組関係の車かもしれません。 そういえば葉子さん、あなた警察で“暴力団に息子をさらわれた”とか、訴えていたらしいですね」


「!?」


「それに今、楠木家では何か大きな揉め事があるらしいという人もいるのですが・・・」


「貴方何者!? 警察関係者? ・・・いえ違うわね。 強請りたかりの部類かしら?」


「いえ、私は茜さんに依頼された事を突き止めたいだけです。 どうかお時間を頂けないでしょうか?」


「・・・ええ、解ったわ。 立ち話もなんですし・・・、そこの喫茶店で話しましょうか」



(掛かった!!)



葉子夫人は、秋の夕日でオレンジ色に染まった道を、先に歩き始めていた。


俺は、連れに見えるか見えないかぐらいの微妙な距離を保って、後をついていった。


着いた先は、シックな深い茶色のバンガローとでも例えられる様な喫茶店だった。


中に入ると、左手に暖炉があった。


本物の火が入るのでは無さそうだったが、今はまだ秋の口で外が寒くない為、灯りは入っていない。


少し薄暗く、バックに流れるトム・ウェイツが渋さを引き立てさせていた。



「マスター」



葉子夫人は親しげにマスターを呼んだ。



「いらっしゃい・・・」


「奥・・・、いいかしら?」


「どうぞ」



カウンターを右手に見ながら奥に進むと、ちょっとしたデッドスペースがあり、そこにテーブルとイス、テーブルには蝋燭が1本。


炎がまるでBGMに乗っているかのように揺れていた。



「ご注文は?」



マスターが聞くと、葉子夫人はアイスコーヒーと答え、目で“貴方は?”と、訴えた。



「オレンジジュースで・・・」


マスターは葉子夫人に軽く会釈をし、カウンターに戻っていった。


マスターはけっして俺の方は見なかった。



(密会場所!?)



そんな事を考えていた時、葉子夫人が口火を切った。



「で、何? 聞きたい事って・・・」


「では、率直にお伺いします。 宇宙君の居場所を教えて頂けませんか?」



(・・・何て答える?)



「・・・聞いてどうするの?」



(否定はしない・・・。 むしろ肯定してきたと見るべきか・・・)



「それが私が依頼された仕事ですので・・・。 聞けたら確認をして、茜さんに伝えるだけです」



(こんな事では、教えはしまい)



「・・・教えてあげてもいいわ。 でもね、交換条件があるの」



(ほら来た)



「はい。 交換条件とは何でしょう?」


「あなとの情報を頂戴」


「私が答えられる事でしたら・・・」


「それで良いわ・・・。 まず、貴方は楠木家の揉め事と言ったけれど、何の事だか知ってる?」


「私は遺言書の事かと思っています」


「お父様が言ったの?」


「情報筋に関しては、お答えできません」


「・・・なるほど。 守秘義務という奴ね。 いいわ・・・、で、貴方は遺言書を見た?」


「あるという事は、掴んでおりますが・・・」




                    ・・・つづく

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