「空」 第26話
茜がクスッと笑った。
「だが、引き受けてやる。 俺も宇宙〈そら〉を護ってやりたいからな。 ・・・報酬は頂く。 前金で50頂こう」
「解った。 ハツ・・・」
「かしこまりました・・・」
後ろからハツが、俺の目の前に茶封筒を置いた。
「取り敢えず100入っている。 足りなくなったら言ってくれたまえ」
「・・・・・聞こえなかったのか? 俺は50と言ったんだ」
一郎氏は、視線を俺から俺の後ろにいるハツに移し頷いた。
「・・・はい」
ハツは俺の目の前にある茶封筒を、やはり後ろから取り中から半分抜いた。
その茶封筒を俺は懐にしまい、一郎氏に向けて言った。
「ここに居る御3方にお願いしたい事がある・・・」
「何かね?」
一郎氏はそのままの姿勢で聞き返した。
後ろの2人は姿勢を正し、俺が口を開けるのを待った。
「・・・1つは、俺には嘘をつかないでくれ。 言いたくない事は言わなくていい・・・、だが、嘘は困る」
一郎氏は軽く頷いた。
「・・・もう1つは、俺のやり方に口を出さないでもらおう・・・。 まずは俺への依頼の事は、御3方以外には伏せておいてもらう。 俺はこれから葉子夫人や守氏、東城に会う事になると思うが、俺はあくまで茜さんの依頼で宇宙を探しているという事にしておいてくれ・・・」
「解った・・・」
一郎氏は、再度頷いた。
俺は茜さんに振り向いた。
「茜さん、朝頼んでおいた事を教えて欲しい・・・」
茜は、すぐ様スラックスのポケットから1枚のメモを取り出し、俺に差し出した。
「これに書いてあります・・・」
俺は渡されたメモの内容を確認して、“了解した”と告げた。
一郎氏は“それは何かね?”と尋ねてきたが、“ラブレターさ”と話しを誤魔化して席を立った。
ハツと茜に送られて、秋の夕日に染まる屋敷を出たのが18時15分ぐらい。
(・・・日が短くなったなぁ)
そんな事を考えながら、屋敷の前の決まりの喫煙場へ行き、2時間ぶりに咥える煙草の香りを楽しんだ。
茜から貰ったメモにもう一度目を通し、18時半に帰って来る葉子夫人の帰宅を待った。
18時半過ぎになり、1人の女性が屋敷の門に近づいて来た。
(塩沢〇き!!)
葉子夫人を確認し、葉子夫人が門の中に入る前に、葉子夫人の前に出た。
「楠木 葉子さんですね」
「何!? あなたは???」
「私は、こういう者です・・・」
俺は興信所の名刺を差し出し、葉子夫人に手渡した。
「・・・興信所?」
葉子夫人は怪訝な顔を作り、思いっきり疑わしい目で俺を見た。
「はい。 宇宙君の行方不明の件で・・・」
「あぁ、貴方なの・・・、茜が雇った探偵というのは・・・」
「はい。 ちょっとお話を伺いたいのですが、お時間頂けないでしょうか?」
丁寧な口調を使いながら、葉子夫人の様子を伺った。
煌びやかな服装に大きなサングラス・・・。
とても過去にあんな事がある様に見えないが、逆にそれを一生懸命隠しているようにも見える。
「私は、話す事なんて何も無いわよ。 お父様や茜に話は聞いたの?」
「はい。 伺いました」
「じゃっ、宇宙ちゃんの居場所は聞いたでしょ・・・」
「はっ? 何の話ですか??? 私にはその様な事は何一つ仰っていなかったのですが・・・、と、いう事は葉子さん、あなたは宇宙君の居場所をご存じなのですか?」
葉子夫人は考え込んでしまった。
それはそうであろう。
黒岩組に預かって貰っている事を、茜も、そして一郎氏なんか預けた張本人なのに、“何故この探偵に話さなかったのだろう・・・。 何か理由でもあるのかな・・・”って、思っているはずだった。
(さて・・・、後は・・・)
・・・つづく




