「空」 第24話
(茜は何を必死になっているんだろう? 宇宙〈そら〉がそんなに危険なのか・・・?)
「・・・解った。 見てもらおう。 ハツ、持って来てくれ」
「はい」
ハツはスッと立ち、やや摺り足で廊下へ出て行った。
育ちが良いのか、品の良い歩き方だ。
茜の方を見ると、茜は俺をジッと見ていて、目が合うとニコリと笑顔を作った。
やはり瞼と鼻頭が薄いピンク色に化粧していた。
(また泣かせてしまった。 どうも茜が相手だと我を張れない・・・、何故だ???)
茜から目を逸らし、一郎氏に真っ直ぐ向き直って一言も発せずハツを待った。
「お待たせ致しました・・・」
襖が開きハツが入って来た。
「・・・こちらでございます」
目の前に遺言書を差し出された。
「・・・失礼」
一言付け加え、遺言書の封を解き中身を読んだ。
内容は簡単に言えばこうだった。
全財産を均等に3分の1にして、守夫妻、宇宙、茜で分ける・・・と。
守夫妻には“屋敷とハツを宜しく頼む”と書いてあった。
「・・・? これに何か含むところでもあるのか? 茜さんの事は、守氏は知らないから不服としても、守夫妻と宇宙で3分の2・・・、平等に・・・あっ!!」
「・・・そうなのだ。 もし守が宇宙が自分の子では無いと知っていたら・・・」
「会長の実子は自分だけ・・・。 茜さんの事も知らないから、直系の孫も居ないのに何故全てを譲り受けられないのか・・・」
「そう考えてもおかしくないのではないか・・・。 私はそう考えている・・・」
一郎氏の顔が苦悩に歪んだ。
「会長に聞く。 宇宙はもしかして平井の・・・」
「!? 言わんでくれ。 1回の過ちだった・・・。 本人も望んだ訳ではない。 無理矢理だったのに・・・。 タイミングがずれていれば葉子も気付いたろうに・・・、2人の子だと思い込んでしまった。 タイミングが合いすぎてしまったのだ・・・。 不幸な事だ・・・」
「何故解った?」
「・・・偶然だったのだ。 宇宙は小さい頃大病をした。 その病院で血液検査をしたところ、守の血液型からは宇宙の血液型は生まれないらしいのだ。 私は慌ててDNA検査を依頼した。 茜の事もあったからな。 そうしたらやはり父親が違うと医者に言われたよ・・・」
「守氏からすれば、その事実は耐え難いものかもしれないな。 それに加えて遺産問題かぁ・・・。 守氏は何処まで知っているのだろうか・・・?」
「私には解らん。 私は守に何も話してはおらんのだ・・・」
「その事を知っているのは?」
「この3人だけだ。 流石に当事者達には話せんよ」
(守氏がこの事実を知っているかは、まだ仮説の段階・・・、本人にどう確認するかだ)
この仕事、思い込みは厳禁。
一つの事に執着すると、他の可能性が見えなくなる。
あらゆる可能性から、真実を導き出すのがこの俺の仕事だ。
「遺言書は解った。 でも、それだけで宇宙を黒岩に預けたのか?」
「いいや。 ここからが依頼なのだが、不動君、宇宙の身辺警護をお願いしたい・・・」
「!? 身辺警護?」
「そう。 どうやら宇宙は、誰かに狙われているらしいのだよ」
「・・・どういう事だ?」
狙われている理由が解らなかった。
・・・つづく




