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「空」 第23話

しかし何故黒岩組に預けたのか?・・・、それにも増して驚いたのが、俺の住んでいる黒岩ビル・・・、うちの大家である。




「黒岩組には昔から付き合いがあってね。 先代の組長黒岩 幸造とは腐れ縁なのだよ」


「宇宙〈そら〉は、何故黒岩組に?」


「・・・実は私は病に侵されておってな。 いつ逝ってもおかしくない身体なのだよ。 それでこの間、遺言書を書いた。 うちの弁護士立ち合いのもとに。 内容は詳しく明かせんが、うちの財産の3分の1が宇宙に渡るようになっておる。 その遺言書をあるところにしまっておいたのだが、どうやらその遺言書を誰かに見られたらしいのだ。 弁護士が言ってきおった」


「俺は失礼させて頂く・・・」



話の途中だったが、俺は席を立とうとした。



「!? どうしたのだ? 不動君?」



一郎氏は、ちょっと待ってくれと言わんばかりに片方の掌を俺に向けた。



「俺が依頼されたのは、宇宙が何処に居るかだ。 居場所が解った以上、俺は他人のいざこざに関わろうとは思わない・・・。 黒岩の名前が出てきたから、好奇心で話しを聞いてしまったが、これで俺への依頼は終了した。 茜さん、宇宙は会長の命で黒岩組に居る。 依頼は完了した。 報酬と経費に関しては・・・」


「!! ちょっと待って下さい不動さん!!」



茜は下を向きながら、少し大きめの声で俺の話しを止めた。



「・・・確かに宇宙坊ちゃまの居場所は解りました・・・、無事だという事も・・・。 でもまだ宇宙坊ちゃまが、安全という訳ではないんです・・・」


「ヤクザの屋敷に居れば、そう簡単には襲われない」


「そうですけど・・・、けど・・・、けど・・・」



泣いているようだった。



「茜さん・・・。 俺はビジネスでここに居る。 俺は、茜さんが思っている程良い人間では無いんだ」


「・・・・・・・・・・」



茜は黙っていた。


俯きながら黙っていた。



(あーーーっ!! なんで俺は感情に流される! 不動 武!! お人好しもいい加減にしろ!!!)



「会長・・・。 何を言わんとしてるのか知らないが、依頼として話だけは聞こう。 請けるか請けないかはその後だ。 これだけは言っておく・・・、断る事も有り得る」



(何を請けるというんだ! 今、自分で言った通り、依頼の内容が解らないのに!! 馬鹿か! 俺は!)



自分の中で葛藤があった。


冷静に考えれば、今ここで立ち去るべきだ。


遺産争いなど興味も何も無いと思っていた。


でも口を開けば、全く逆の事を口走る。



(俺は長生き出来んな・・・)



「あっ! ありがとうございますぅぅぅ」



ハツに肩を抱かれた茜が、泣きながら笑顔を見せてくれた。


ハツも俺を見て軽く頭を下げた。



(この笑顔に弱い・・・)



「・・・ふーーーっ。 では、話の続きを聞こう」


「不動君。 有難う」


「俺の気が変わらないうちに始めてくれ」



不貞腐れたようにやや斜めに座り、左肘をテーブルの上に置いた。



「どこまで話したかな・・・。 そうそう弁護士が“誰かに見られた形跡がある”と、言ってきおったのだ」


「今、遺言書の話しをするのは、遺言は誰かの不利な内容になっているという事か?」


「・・・平等ではない・・・」


「遺言の中身に関して、詳しい事は言えないと言ったが、内容が解らないと判断できない。 遺言書を見せて頂こう」


「・・・・・」


「旦那様! きっと不動さんは力になってくれます」


茜が懇願した。


茜はかなり必死になっていた。



(茜は何を必死になっているんだろう? 宇宙がそんなに危険なのか・・・?)




                    ・・・つづく


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