「空」 第22話
「隣で寝ている男を見て、葉子は思ったらしい。 この男に一生食い物にされるのだと・・・」
そう思ったとたん居てもたってもいられなくなり、枕元の隣に置いてあった硝子の灰皿で、平井の頭を何度となく殴った。
平井も最初は抵抗したが、それでも1発目が効いたのか次第に抵抗しなくなり、葉子が正気に戻った時には、真っ赤に染まった顔に浮かんだ白目が何処を見る訳でもなく開いていた。
葉子はその目に怖さを覚え、無我夢中で帰ってきた。
「葉子が殺したのは人じゃない!! 葉子が殺したのは獣だ!!」
「落ち着いてくれ」
「ハッ! すまない。 少し冷静さを欠いたようだ・・・」
一郎氏は軽く頭を叩き、冷静さをなんとか保たせながら続きの話しを始めた。
その後は、一郎氏がホテルへ行き証拠を隠滅・・・、その男の身元を調べ根回しをした。
この殺人が無かったかのように・・・。
「普通ならこんな事は出来ん。 人が一人殺されて、何も無いなんていう事が・・・。 相手がチンピラだったからか、金でケリがついたんだ・・・」
「葉子夫人は罪を償っていないのか?」
「罪? 罪とはなんだ!? 何もしていない葉子を苦しめおって!! 罪だというならあいつが罪だ!! 葉子は何も悪くない!!」
「・・・それを決めるのは、会長、アンタじゃない」
「!!」
「落ち着いてくれ。 会長、あなたは解っている。 あえてそれを俺に言って、自分はそう思い込もうとしている」
「・・・すまない不動君。 君にはお見通しのようだな。 茜の言った通りだ・・・、君の目は誤魔化せない。 ・・・で、不動君、この事実を聞いて君はどうするかね?」
一郎氏だけでなく、今まで後ろで聞いていた、ハツや茜が緊張するのが背中で感じ取れた。
「法改正により、殺人事件の時効は15年から25年に延びた。 どうやら葉子夫人の時効は、後5年ぐらい有りそうだな」
「!!」
「・・・だが、その平井がどうなろうと俺には関係無い。 第一、事件にもなっていないものを、俺にはどうする事もできない。 その話は会長の夢の中の話しだろう? 夢で飯は食えないさ」
「・・・ありがとう」
「礼を言われる覚えもない。 それより俺は宇宙〈そら〉の居場所を知りたい。 宇宙は今、何処にいる? あなた方3人は知っているのだろう・・・?」
少し振り向いた形で目尻の先に茜を入れ、一郎氏に向き直った。
「あっ!! いえ・・・、不動さん私は・・・」
茜が慌てた。
「茜を責めんでやってくれ。 茜は今日まで知らなかったのだよ。 私が先程話しをした・・・」
「解っている。 責めてはいない。 今の事実を話しているだけだ。 宇宙は何処にいる?」
「・・・黒岩組だ」
「何!?」
(驚いた・・・。 黒岩組だと!?)
灯台元暮らしだった。
黒岩組とは、今、歌舞伎町には大きく分けて3つの組織がある。
歌舞伎町の半分を占めている“花園連合”、株の裏取引や麻薬、人身売買など何でも有の“永成会”、そして昔ながらの極道を貫き通している“黒岩組”。
その黒岩組だ。
楠木家と黒岩組が、関係があるという噂は知っている。
しかし何故黒岩組に預けたのか?・・・、それにも増して驚いたのが、俺の住んでいる黒岩ビル・・・、うちの大家である。
・・・つづく




