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「空」 第19話

(・・・時間だな)




携帯を見ると15時40分。


茜との約束が16時・・・、俺は楠木邸に向かった。


秋晴れの中、日蔭に入るとひんやりする裏道を、学生の下校と共に歩いていた。


楠木邸の正門に着くと、16時10分前。


朝、煙草を飲んだ場所と同じ所で1本取り出し火を点けた。


朝は日蔭で涼しいと思っていたが、今は日なたで軽く汗ばむ。


場所を変えれば良いのだろうが、1回ここに決めたらここが落ち着く。



(・・・全く融通のきかない事で・・・)



煙草をフィルター近くまでゆっくり飲んで、携帯灰皿に投げ入れた。



(いったいどんな話が出て来る事やら・・・)



そんな事を思いつつ、楠木邸の正門、檜の柱に埋め込まれているインターホンのボタンを押した。


何処ぞで聞いた鐘の音が鳴る。



「・・・はい」


「不動ですが・・・」


「お待ちしておりました」



茜の声だ。



(喋り方を作っていないところを見ると、守氏も葉子夫人も居ないようだな・・・)



ガチャリ!! ギィーーーーーーーーッ



「どうぞ、お入りになって下さい」



よく、神社仏閣で使われているような板目の大門である。


まさか手動で開けるとも思わなかったが、目の前で自動で開くと、それはそれで異様さを感じる。


開いている門から中へ入る。


コンクリートで舗装された軽い登り坂が、先の屋敷まで続いていた。


歩き出して20歩ほど進むと、後ろで大門が古臭い木戸の軋みをたてながら閉まっていった。



(まるで遊園地にある洋館だな)



少し口元を緩ませ、これから聞ける話に期待を膨らませた。


20mぐらいだろうか、歩きで玄関先まで来た時いきなり玄関が開いた。



「不動さん、ご足労頂いてありがとうございます」



深々と頭を下げたのは茜だった。


後ろに老女がいた。


茜と一緒に頭を下げている。



「いや、気にしないでくれ。 茜さん・・・、後ろにいる方は?」


「ハツさんです」



頭を上げて微笑んだ顔は、写真で見た穏やかな顔だった。



「お初にお目にかかります。 池田 ハツと申します。 この度はお世話をかける事となりまして・・・」



ハツはもう一度頭を下げた。



「不動と申します。 微力ながらお手伝いさせて頂きます」



俺も一礼した。



「旦那様が奥でお待ちです。 ささっ、どうぞお上がり下さいませ。 ご案内させて頂きます」



ハツと茜は二人で奥の方を手で指した。



「お邪魔致します」



用意してあったスリッパを借り、上がらせてもらった。


屋敷の中は純和風。


写真で見た中庭を横目に、鴬張りとまではいかないが、多少軋む板張りの廊下をハツの後ろについて奥へ進んだ。


その間、ハツとの間に会話は無かった。


ハツの背中が“まず旦那様とお話し下さい”と、告げているようだった。



「こちらに御座います。 ・・・・・旦那様、不動様をお連れ致しました」



ハツは板張りの廊下に正座をし、三つ指をついて閉まっている襖に頭を下げた。



「・・・お通しして下さい」



少し低めの声だったが、張りがあり精力が感じられた。



(・・・老いて尚、現役か)



俺はその声を聴いて、身を引き締めた。


老人と話すというより、クスクスレイクの会長、一代でここまで築き上げた先読みの異端児、楠木 一郎と話すのだと・・・。



「不動です。 失礼します」



ハツは、閉まっている襖に頭を下げている俺を見て、襖を開けてくれた。


中は二間に分かれており、仕切りの襖は今は開いていた。


畳敷きで全部で30畳ぐらい、左側に見える障子は腰のあたりから下、約1尺硝子になっていて、座ると外が見えそうだった。



「どうぞ、こちらへ・・・」




                    ・・・つづく


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