「空」 第17話
煙草を消して、中央公園を甲州街道に向かって歩き出した。
甲州街道に突き当り、左手、新宿駅方面に折れて暫く歩くと、懐石料理屋があった。
まだ時間には早いだろうと、テナントビルの林を見回すと煙草屋を発見!!
煙草を2箱買い、店先の灰皿の側でラスト1本に火を点けた。
(楠木 一郎は俺に何を話すのか・・・。 葉子夫人が警察で言っていた暴力団に攫われたとは、どういう意味なのか・・・。 宇宙〈そら〉は何処にいる・・・)
色々な考え事をしている時、少し離れた所から声をかけられた。
「不動さ~~~ん!!」
車道を隔てた向こうから、修が手を振っていた。
髪の毛の色は真っ茶っ茶で、ホストっぽいが髪はセットしておらず、恰好も黒の上下のスウェットだった。
修はあっちあっちとジェスチャーで指を指し、その指の先にある横断歩道で修と対面した。
「早かったっスねぇ~。 待たせちゃいけねぇと、ダッシュで来たっスけど・・・」
「大丈夫、俺も今来たところだ」
挨拶やら何やらを済ませ、俺たちは店に入る階段を降りていった。
店に入ると、予約でもしていたのか個室に通された。
木目調を活かした純和風の店で、照明も暖かく、障子の先には小さな庭園も見えた。
「良い処知ってるな」
「お店の客に教わったっス。 お客は大半が金持ちのおばさんっスから・・・」
(成る程、こういったところで同伴か・・・)
ランチの注文をして、来るまで雑談をした。
「今、玄さんを見かけたぞ・・・」
「おっ!! 玄さん元気だったっスか? 暫く会ってないっスね。 そういえば・・・・・・・・・・・」
ランチが来てからも修の話しは止まらず、食べながら最近の水商売の話を面白おかしく話してくれた。
それに交えて、俺が今拘っている件を簡単に話した。
食べ終わった後、確認済みの灰皿に、封のセロハンと金紙を捨て食後の一服を楽しみながら・・・
「そんで、自分が呼び出されたって事は、自分はその件の何を話せばいいっスか?」
「最近の桃園の話を聞きたい・・・」
「!? 桃園連合が拘ってるっスかぁ?」
「まだ解らん・・・」
「そ~スねぇ。 最近は中国に押されっぱなしで、大人しいもんっス・・・・・!? あっ!? でもっスねぇ、変な事言ってたソープ嬢が1人いたっスけど、不動さんの件と関係あるかどうか解らないっスよ・・・」
「いいよ。 話してくれ・・・」
「じゃ・・・、桃園連合じゃなく永成会なんっスけど、ずーっと下部組織に吉野組っつうのがありまして・・・」
「あぁ知ってる。 組員20人弱の歌舞伎町の隅っこにある組だな・・・」
「そぉーっス。 そこの何とかっつう組員の舎弟に平井っつうチンピラがいるらしいっスけど、その平井がそのソープ嬢・・・麗香っていうっスけど麗香の常連で、ある晩平井が客で来た時に“もうすぐ5億掴める。 そうしたら、それを軍資金に成り上がってやる”って、言ってたそうっス。 組が掴める金ならこの額解るっスけど、チンピラ風情に5億っておかしくないっスか?」
「・・・確かに。 その麗香って女に話を・・・」
「麗香は、2丁目にあるアイドルっつう店にいるっス。 俺の名前出しちゃっても大丈夫っスから・・・、不動さんそういうとこ気にすっからなぁ・・・大丈夫っスから!!」
「・・・すまんな」
「何言ってんスかぁ~。 不動さんの為なら火の中水の中・・・・・って、東京湾は勘弁っスけどね」
修は、舌を出しておどけて見せた。
「フッ・・・、後、これを見てくれ」
「・・・随分でっかそうなお屋敷っスね~。 この写真がどうしたっスか?」
「この写真の中に、修の店の客はいないか?」
「・・・客っつうぐらいっスから、女っスよねぇ~。 ・・・3人とも見た事ねぇっス」
「ありがとう・・・」
・・・つづく




