「空」 第16話
今の時代に、乗り遅れた人間という事になるのだろうか。
ただ、時代に置いていかれた俺でも、新聞記事を探すのと、電車の乗り換え案内ぐらいは使える。
パソコンに年数を入れ、無理心中記事と打ち込んだ。
ヒット数は156件。
今から6年前といえば、バブルが弾けた煽りが末端まで波及し、体力の無い中小企業が軒並み潰れていった時だった。
(・・・結構多いな)
茜が、両親と住んでいたのが新潟県新潟市。
絞り込みで、場所を入れてみた。
件数は3件に絞られた。
1件目から読んでいくと、2件目でビンゴ!!
読みたい記事が見つかった。
“昨日未明、新潟県新潟市在住の小林 正さん宅で心中事件発生。 借金を苦にしたもので、正さん(47)と、寿美さん(42)が薬物死の状態で発見される。 県警では、取り立てに桃園連合系暴力団一輪会が関与しているものとみて、捜査を開始した”
と、書かれてあった。
(正と寿美・・・間違いないな。 茜の両親だ・・・。 一輪会かぁ・・・)
パソコンに一輪会と打ち込み検索した。
“東京を拠点とした桃園連合の下部組織。 表向きは風俗業、金融業を生業としているが、新潟港を縄張りとしている為、裏ではシンガポールやタイ、マレーシアからの人身売買、違法薬物や武器の密輸、販売で生計を立てているものと考えられる。 構成員86名・・・”
(組自体はあまり大きくないが、相当危ない橋を渡ってる組織みたいだな・・・。 茜もかなり怖い思いをしてきただろうに・・・)
と、思いながら、ふっと・・・
(そうか・・・・。 だから茜は、変装とか言葉を変えたりとかいう発想を持っていたのか。 幼い頃からの自己防衛の為に植え付けられたものだったんだ・・・)
他に調べられるものを調べ、パソコンの席から立ち、図書館の受付に軽く会釈をして都庁を出た。
時間は11時前。
俺は、都庁の目の前にある中央公園のベンチに座り一服した。
離れたところを浮浪者が横切る。
「玄さん・・・」
浮浪者は、こちらに気づく事もなく立ち去った。
携帯を取り出し、一本電話をする。
「修か?」
「不動さん? おはーーーざーースっ!!」
高橋 修(21) 半年ぐらい前、大麻売買の事で、歌舞伎町の暴力団と小競り合いを起こし、追われているところを助けた事があった。
喋りが上手い青年で“そんな売人紛いみたいな事をやってないで、その喋りを活かして働いてみないか?”と、今、修が勤めているホストクラブを紹介した。
№1までにはなっていないが、人気は上々で“ホストは天職っす! こんな楽しい仕事ないっす!!”と、楽し気に話していた。
その事で、俺に恩を感じているといって、色々と情報を回してくれている。
喋りが上手いからだろう、修のところにキャバ嬢やら風俗嬢からの情報が、山のように入ってくる。
「修、昼飯でも食わないか?」
「いいっスねぇー。 俺、おごりますよ!」
「フッ、いいよ、金は俺が出す。 店を決めてくれ」
「わっかりましたーーーっ。 で、不動さん、今どちらっスか?」
「今、中央公園だ」
「中央公園っスね。 そしたら甲州街道沿いに懐石料理屋があるんっスけど、ランチ美味い店なんっスよ。 そこにしませんか? ちょっぴり高めっスけど、サラリーマンとかOLとかが来なくて、ゆっくり話せるっスよ」
「・・・すまんな、気、遣わせて・・・」
「何言ってんスか~。 不動さんが居なかったら、俺、東京湾の海の底っス。 俺がランチを食うんじゃなくて、俺がランチの食材に喰われてたっスよ~」
ホストの職業柄、朝帰りは当たり前。
まだ眠いだろうに・・・、頭が下がる思いだった。
煙草を消して、中央公園を甲州街道に向かって歩き出した。
・・・つづく




