「空」 第15話
俺は、ビジネスマンやOLで賑わい始めている明治通りを突っ切り、靖国通りのガード下を目指した。
新宿西署は新都心にある。
青梅街道から、首都高速入り口のTの字を左に曲がった右側だ。
青梅街道は靖国通りと直線でつながっていて、新宿の大ガードの下で名前が変わる。
このガード下は少し長めで20メートル程あって、そのどこから名が変わるのかは謎である。
俺は靖国通りを新宿駅方面に、哲さんは青梅街道をやはり新宿駅方面に歩くと、丁度ガード下で会える寸法になっている。
俺がガード下に入ると、逆光で見辛いが、向こう側から哲さんらしき影が近づいて来た。
「哲さん・・・」
「探偵! 早めに用件を済ませろ。 俺はおめぇみてぇに暇じゃねぇ」
「俺も今は暇じゃない」
まず哲さんに楠木家の写真を見てもらい、俺の名刺を渡した御婦人がこの写真の中にいるかどうかを聞いた。
「・・・・・彼女だな」
哲さんは、葉子夫人を指指した。
「哲さん、家政婦の話を聞く限り、暴力団は一切出てこない。 ここ最近の暴力団に動きは?」
「大人しいもんさ。 陰で何かやってんだろうが、表には出てきてねぇ。 やっぱ組は・・・」
「関係無いかもしれない・・・」
俺はまだ、断定した訳では無かったが、今のところ暴力団の情報は皆無である。
「探偵! 組の方は俺に任せろ。 眼を光らせておいてやる。 もしこの件が事件になりそうなら、すぐに連絡を入れろ」
「・・・解った」
哲さんと別れ、手帳を見ながら次の情報収集にあたった。
向かった先は都庁の中にある図書館。
都民であれば、誰でも使える図書館である。
都庁の前まで来ると、携帯が鳴った。
「茜です。 頼まれてた事なんですけど、学校の方は、朝はいつも通り登校して来たそうです。 ホームルームの出席点呼の時は居たと、担任の先生が言っています。 下校の確認はとれていませんが、6時間目終了後のホームルームにも居たそうです。 これも担任の先生が確認しています」
「・・・解った。 ありがとう」
「それから、今日の皆様のご予定ですが・・・」
「それは楠木家に行った時で良い」
「・・・解りました」
「他に変わった事は?」
「う~ん・・・。 気になるといえばなるのですが・・・」
「!? なんだ?」
「・・・はい。 宇宙〈そら〉坊ちゃまがいないというのに、皆様、態度が普段と変わらないんです・・・。 何故でしょう?」
(!? 確かに、変わらないのはおかしいかぁ。 家族が一人居ないんだから、一般の家庭では大騒ぎになってもおかしくない状況だ。 ・・・!? 実は皆、宇宙が何処に居るのかを知っているのでは・・・)
「・・・今のところは解らない。 茜さんは、皆の様子を見といてくれ」
「・・・はい」
茜からの電話を切ると、都庁に入った。
(これで宇宙が居なくなった時間が絞られた。 終わりのホームルームが15時。 宇宙は15時~17時の間で居なくなった)
都庁のエレベーターで4階へ行き、携帯がマナーモードになっているかを確認し、図書館の受付を済ませ、壁際に並んでいるパソコンの1台に座った。
(便利になったものだ。 昔、過去の事件を調べるのに、その当時の膨大な量の新聞を、手当たり次第に探さなければならなかったが、今は、年代とカテゴリーを打ち込めば、関連記事が出て来る)
俺はパソコンは使えない。
今の時代に、乗り遅れた人間という事になるのだろうか。
・・・つづく




