「空」 第12話
外はネオンがちらほらと点き、俺の住む歌舞伎町は昼の顔から夜の顔へと変わり始めていた。
夜の歌舞伎町。
若者が欲望を満たしに来る街。
大人がストレスを吐きに来る街。
女性が美貌を競いに来る街。
そして、それを喰らおうとする人達の街である。
今、歌舞伎町は様変わりを見せていた。
昔、この街は極道で溢れかえっていて、組の大きさ強さによって行動範囲が区分されていた。
縄張りというものだが、歌舞伎町の半分を“桃園連合”が、残りの半分を“黒岩組”と“永成会”が分け合っていた。
その頃から中国マフィアはいたものの、ジャパニーズヤクザの力に押され、新宿2丁目に追いやられていた。
1995年、暴力団新法発令。
翌、警視庁による強制大執行。
これにより、極道は衰退をみせる。
これを機に、中国マフィアが母国中国の高度成長と比例して、その巨万の財力を使い歌舞伎町を乗っ取った。
衰退した極道達は、シノギ(資金集め)に困り、的屋や風俗店など合法的なシノギを始める者と、麻薬や裏株取り引き、闇金など非合法なシノギを始める者とに分かれていった。
歌舞伎町で働いていた堅気の人達の中では、前者を“ヤクザ”と、後者を“暴力団”と呼んでいた。
前者も後者も、ただ1つ同じ事をしていたのが武器の密輸だった。
売る売らないに拘らず、どの組も大なり小なり武器は持っていた。
今、歌舞伎町は中国マフィアが握っている。
黒岩ビルの2階は、ワンフロア俺が借りていた・・・とは言っても、入り口は1つしか無く階段でしか出入り出来なかった。
3階からは、エレベーターで入り口は別になっている。
扉を開けると25畳の事務所、正面にソファーセット、その奥、窓際にこっちを向いてデスクがある。
右手に小さな台所・・・台所の左のドアを開けると居住区に入る。
居住区は、普通のマンションの1DKとなっていて、住み心地はまあまあ良かった。
その居住区での・・・今日の目覚めは早かった。
黒電話の横にある時計は、6時を指していた。
煙草に火をつけ、オーディオの電源を入れる。
俺の朝はここから始まる。
スピーカーからは、Louis Armstrongの“Only You”が流れてきた。
ベッドに座り気分に合う曲を聴きながら、煙草と100%のオレンジジュース・・・これでゆっくりと、煙草まるまる1本の時間をかけて眠気を覚ます。
気持ちの良い朝を向かえられた。
朝のサッチモは一段と良かった。
シャワーに入りさっぱりした俺は“What A Wonderful World”を聴きながら、出かける支度をした。
その朝の気分で流れる曲のジャンルも違うのだが、その流れる曲でその日の服装が決まっていた。
(!!・・・これだな)
ワインカラーのYシャツに、ブルーの濃いGパン・・・黒のスプリングコートを羽織って、黒のショートハーフブーツでまとめる。
中途半端に伸びた髪は、ドライヤーで乾かして2、3回ブラッシングしただけ。
「・・・よし!!」
気合い一発、一声かけて居住区を出た。
格好が決まると、その日1日勢いがつくというものだ。
事務所に入って、昨日まとめておいた手帳を見ながら、デスクに座り作戦を立てた。
(・・・まずは、宇宙〈そら〉の足取りからだな・・・)
・・・つづく




