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「空」 第10話

「それで、君が何故、宇宙〈そら〉を必死で探そうとしているかが解ったよ」




(俺が小林さんと呼んだ時、茜にしてくれと言ったのも、それを恐れての事だったんだな・・・)



茜の話には、続きがあった。


茜が楠木家で働き出して5年が過ぎようとしていた頃、そう、今年である。


一つの事件が起きた。


2年前から楠木家に出入りするようになった東城が、今年になって急に茜に言い寄ってきたという。


茜は“使用人風情に勿体無い”と、断って来たのだが、ある時、酔っ払っていた東城が“知ってるぞ、おまえの過去を!”と言ってきた。


茜は何の事かと惚けはしたが、冷や汗をかいたらしい。


だが、もっと怖いのが、今も続いているらしいのだが、東城がその日から一切茜に近づかなくなった。


何も無い方が、怖い事もある。


で・・・、この宇宙の行方不明騒ぎである。


茜も何かあると思ったようだ。


そこで、法律でガッチガチの警察より、ある程度融通のきく探偵の俺に話しをしようと思ったらしい。



「全部伏せてな・・・」


「意地悪な言い方しないで下さい。全部話しました!!」



全部話して少し荷が軽くなったのか、茜が明るくなった気がする。


色白の頬も、多少紅色に染まったような感じがした。



「で、眼鏡をかけていた茜さんが、話してくれた事は?」


「・・・何か言い方に棘があります・・・」


「すまんな。 俺はこんな言い方しかできない」



ちょっと膨れっ面になった茜を宥めながら、俺に悪意が無い事を説明し、煙草に火をつけた。


煙草が残り3本になっていた。



「でも、この状況で“信じて”と言う方が、難しいんですけど・・・」


「いや、信じるさ。 君は本当の事を言っている。 涙は嘘は言わないさ」



俺は、よく女の涙に騙される。


涙は女の武器だって、頭の中では解っている。


でも、涙を見る度に信じてしまう。


茜に対しても、俺の中で疑う余地は全く無くなっていた。


根拠は何もない。


これで騙されるなら、本望だと言わんばかりに・・・。



(俺は長生きできんな・・・)



そんな事を考えつつ、煙草をゆっくりと飲んでいた。



「色々脱線したのもあるが、宇宙の事を一度まとめてみよう」


「はい」


「いつもであれば、宇宙は午後5時ぐらいには炊事場に来て、君に晩飯の献立を聞くのだが、昨日は来なかった。 で、昨日は宇宙の代わりに、やはり午後5時ぐらいに奥さんが君の所へ来て“宇宙を見かけないけど知らないか”と聞いてきた・・・」


「はい」


「その時刻、炊事場にいたのは?」


「ハツさんと私だけです」


「その日に屋敷にいたのは?」


「・・・ずっと見ていた訳では無いのですが、会長はいらしたと思います。 昼食も一緒に摂りましたし、出かける時は必ずお声をかけて頂き、身支度を手伝わせて頂いております。 奥様は、お昼前にお出かけになられています。 昼食は要らないと言われましたから。 社長は、定時の10時に出勤なさっています。 東城さんは、昨日はお見えになられていません」


「東城氏は来ていない・・・?」


「はい」


「会長がいるのにか?」


「はい・・・。 今年に入ってからですが、会長が出かけられる時、東城さんからの用事がある時以外は、お屋敷にはお見えになられていないのです」


「・・・会長と東城氏は、仲が悪いのか?」


「・・・解りません。 会長は、あまり仕事の話を私にしないので・・・。 ただ・・・」


「ただ?」




                    ・・・つづく


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