「空」 第9話
「・・・・・嘘はつけませんね、不動さん。 ・・・全てをお話しします。 不動さんならと、期待を込めて・・・・・」
茜が喋ってくれた話しはこうだった。
茜は、20歳の時に両親を亡くした。
借金苦の自殺だった。
両親は、遺言書を残していた。
その遺言書に“楠木 一郎という人に会いに行きなさい”と書いてあったという。
小林姓は、その時のものだ。
家は借金取りに押さえられ、茜も風俗に売り飛ばされそうになった時、今の会長が買い戻してくれた。
これから、どうしたら良いものかも解らないまま楠木家に入った茜は、会長に“うちで働きなさい”と言われハツを紹介された。
ハツは優しく仕事を教えてくれた。
少しずつではあったが、会長、社長、奥様、ハツ、そして宇宙〈そら〉に、茜の心は開かれていった。
特に当時7歳の宇宙には、弟のような愛情さえ湧いていた。
楠木家に入って1年が過ぎた頃、会長に“話しがある”と呼ばれて部屋へ行ってみると、会長とハツが神妙な面持ちで座っていた。
何か用かと尋ねてみると、茜の両親は昔、会長の会社で働いていたのだという。
でも、それだけではこの神妙さは解せない。
で、話しを聞いてみると、昔、会長が社長をしていた頃、息子の守は、相当女関係にだらしなかったらしく(今の守氏からは、想像もつかないが・・・)、茜の母親もその1人に含まれていた。
今でいう、パワハラである。
見るに見かねた茜の父親は、母親と付き合っていた事もあり、会社に辞表を出して2人で逃げ出した。
会長の話しでは、それから1年ぐらいして、茜の父親から手紙が来たという。
“子供が出来たのだが、自分の子かどうか疑わしい。 でも、調べるのが怖い”と、書いてあった。
それから19年、何の音沙汰も無く過ぎ去っていったある日、1通の手紙が茜の母親から届いた。
“どうやら自分達は、ここまでのようだ”と、“娘の茜をお願いします”と、書いてあった。
会長は、慌てて探して見つけた時には、茜は一人になっていた。
会長は、19年前の父親からの手紙が気になり、引き取った茜をⅮNA鑑定にかけた。
その答えが“茜は守の子供である”である。
会長は唖然とした。
この事をハツと相談して、誰かに気付かれる前に本人に打ち明けようという話しになり、茜に打ち明けた。
会長は、“茜の好きなようにすればいい”と言った・・・“楠木の姓を名乗りたければ、今すぐにでもしてやる”と。
でも、茜は断った。
茜は、“今のままが良い”と・・・、今のままが、守にとって、葉子にとって、そして宇宙にとって一番良いのだと言って、二人に口止めをした。
会長は、優しい子に育ててくれた茜の両親に感謝をし、楠木家の墓に茜の両親の遺骨を入れた。
茜は、このままでは自分の素性がいつか守に解ってしまうのではないかと思い、眼鏡をかけ喋り方を変えたという。
「それで、君が何故、宇宙を必死で探そうとしているかが解ったよ」
・・・つづく




