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「空」 オープニング

こちらでは、「ジャパメタBAR 龍の隠れ家」のマスター“光鬼”の書下ろしオリジナル小説・・・


{不動探偵事務所事件簿}


を、連載致します。



予定では、週一回のペースで更新していきます。


楽しんで頂けたら幸いです。



宜しくお願い致します。

(どんより広がる曇り空。 今にも雨が降りそうだ・・・)



ベッドの横に立ち、窓の外を眺めながら、寝起きの口に煙草の煙を注ぐ。


吐く煙を硝子に当て、弾ける様を眼で追った。


時計が眼に入る。



(昼過ぎか・・・)



寝過ぎとも寝足りないともとれる脱力感に襲われながら、ふっと思い出した。



(彼は元気にしてるだろうか?)





三年前、雨降る歌舞伎町。


俺は遅すぎる朝食を、西宝会館の下にあるジャンクフード屋で摂っていた。


液晶画面や色鮮やかな映画の看板に囲まれたスペースと、壁に当たって弾ける水飛沫でネオンを着飾るこの街が、今は水墨画の様に見えた。


その霞がかかった絵の中に1人の男の子が雨にずぶ濡れになりながら、僕はここだよと言わんばかりに泣いていた。


朝食を終えて一服していた俺は、ジャンクフード屋を出て彼に近づいた。


背丈は俺の腰ぐらい、蝶ネクタイが似合いそうなマッシュルームカット、黄色のチェックのボタンダウンにワインカラーのベストを着合わせ紺ブレでまとめ、パンツは緑のタータンチェック。


ピカピカの革靴も、雨の飛沫でラメ色に着飾っていた。



(アイビーファッション?)



少し懐かしさを覚えながら傘を差し出し、目線を彼と同じ高さに置いて聞いた。



「どうした? 迷子になったか? いくつだ?・・・名前は?・・・」



聞き方が悪いのか、俺のことが怖いからなのか、一向に彼は泣き止もうとはしない。


濡れた彼の頭に手を置き、会話にならない様に少し呆れて煙草を口に運ぶ。


半分が灰になろうかとする時、怒鳴り声が俺の後ろから飛んできた。



「子供の前で煙草を吸わないで!!」



驚いて肩をすぼめながら振り向くと、そこには塩沢〇き似の御婦人が、顔半分ぐらいありそうなサングラスの奥で、目を尖らせて睨んでいた。



(煙草? 雨曝しの方が、余程問題だと思うが・・・)



どうやら親らしい。


いつの間にか、彼は御婦人の足に抱き付いて泣き止んでいた。



(これは早々に退散した方が良さそうだ・・・)



彼の目の前で指を2,3回揺らし、“じゃあな”の合図でウインクをして一歩踏み出そうとした時、またでかい声に驚かされた。



「宇宙〈そら〉です!!」



さっきまで泣いていたのが嘘のような、満面の笑みで答えてくれていた。


彼の名前のようだ。


つられて口元が緩むと、咥えていた煙草が落ちそうになった。


背中で視線を感じながら、職安通りの方へ歩みを進めた。




(それ以来、彼とは会っていないが、元気にしているのだろうか・・・)



窓の前に立っている俺の目は、何も見てはいなかった。


その俺を引き戻したのは、けたたましい黒電話の呼びベルの音だった。


時計を見ればまだ昼過ぎ。


視線を窓に戻し硝子越しに空を見上げ、呑んでいた煙草を灰皿に押し当てた。



(どんより広がる曇り空。 今にも雨が降りそうだ・・・)



半分切れてくれる事を期待しつつ、呼びベルを13回数えて受話器を取った。



「はい、不動探偵事務所です」



                    ・・・・・つづく                                             

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