プロローグ「境界線の記憶」
ラノベ作家目指して修業中の者です。拙い文章ですが、一読よろしくお願いします。感想とか評価とかアドバイスとかお待ちしています。縦書きのフォーマットで読むことを推奨します。
夕暮れ。
赤く染まる空と、徐々に広がる夕闇。
黄昏時へと続く光と闇の境界線。
遠く響く虫の声を置き去りに。
生い茂る草むらをかき分けて。
肌に触れた草が、その柔肌を切り裂こうとも。
とどまる事はなく。
きっとここではないどこか、別の場所に繋がっていると信じて。
少年はひたすら走り抜けていく。
まるで、悪夢のような恐怖から逃げるように。
見えない魔手がその幼い体を掴もうとしている。否、それは所詮少年の妄想だ。けれども、理不尽な不幸という現実は確かに彼を追い詰めていた。
必死に逃げる。
ここは存在の許された場所ではない。
彼が生きることを許された世界ではない。
ならば、死ぬしかないのだろうか。それは嫌だった。
終わらせることはあるいは簡単なのかもしれない。しかし、終わるという漠然とした逃げ道は救いには程遠く、彼にとっては更なる恐怖に他ならない。
耐える程の強さもなく。
凌ぐほどの器用さもない。
ただ苦しみ耐えるだけの日々。
逃げ出すしか、彼には選択肢は残っていなかった。
逃げた先に、新しい世界があることを信じて。
そう、存在の許された世界。彼にとっての居場所が、きっとどこかにある筈なのだ。
そんな幻想を盲目に信じることで自分を保っていた。
逆に言えば、そうでもしなければ自我を保てない程に、彼は精神的に磨り減っていたのである。
突然、空気が変わった。
どう変わったのか、具体的に答えろと言われても出来はしないが、しかし確信して言える。ここは彼の知る世界ではない。
夕暮れの赤に染まっていた草むらはもうない。
黄金色に輝く草が視界いっぱいに広がっていた。
森に囲まれた丘。黄金の草の生い茂る空間。澄み切った空気と、ほんの少しだけ何かが濃い大気。心なしか、時間さえも流れが違う世界。
そこはもしかしたら彼が望んだ世界なのかもしれない。
彼が見た夢だという可能性も否定は出来ないが。
「君は……、だれ?」
幼い少女の声で尋ねられた。
彼女の方を向く。
「僕は――」
忘れない。
この出会いを。
忘れない。
感謝の気持ちを。
忘れない。
犯した罪の重さを。
誓おう。
謝罪と、懺悔を。
――エスピルシェに。