夢
今日で閉園したテーマパークを後にする、与える男と梓。
ちらほらと空から雪が降ってくる。
駅へと続く道を歩く二人は降る雪に取り囲まれる。
「今年初めての雪ね、、、きれい」
梓は雪を見てつぶやく。
てのひらに雪を乗せる梓。白い雪が手のひらに乗ったとたん
色を失い溶けてなくなっていく雪。
「私ね、、、あの頃、あなたと出会った頃が、どうしても現実にあった事とは思えないの。
あまりにも楽しく、あまりにも幸せ。現実離れしてると思うくらい
あの頃は幸せだった。
私、あの頃は夢の中を生きていたんだと思う。」
与える男はにやりと笑って言う。
「ママ、、昔の思い出を美化して懐かしむのは年をとった証拠だよ。
でも確かにあの頃は何をしていても楽しかった。
今からすると、確かに夢の中を生きていたみたいだったな」
「もう、、2人っきりなのにママはやめてよ!
それに年取ったなんてよくも言ってくれたわね!」
怒って梓は与える男の頬をつねる。
冬の冷え切った肌をつねられるととても痛い。
与える男は悶絶する。
「いててて、、なんだよ!年食ったのはほんとじゃないか!
それにママはママなんだから別にいつ言っても、、、、」
文句を言い続ける与える男の口を梓は押える。
「もう、、やめて!それより手をつないで歩かない?
2人っきりだからいいでしょ?」
梓は与える男の手を取る。
久しぶりに外で手をつなぐ与える男は少し照れくさい。
無邪気な顔をして歩く梓。
その横顔を見ながら与える男は思う。
これからもずっと、一緒に歩いて行くんだろうな。
そして一緒に歩いて行く限り、梓にすべてを与える男でいよう。
雪景色の中二人の影が消えていく。
2人が去って、テーマパークは雪の降る中、誰もいなくなった。