広場の誓い
春、桜が咲き乱れるテーマパーク。
広大な駐車場がびっしりと車に覆われ駐車待ちの車の列も
最後尾は果てしなくむこう。
暖かい陽気のなか、入場門へと向かう、人々の波が
途切れることなく続いている。
楽しい笑い声がそこらじゅうから聞こえてくる。
そんな幸せの集合体のようなテーマパークの広場に4人は立つ。
与える男と吉田君の手には指輪。
梓と薫の手には、花屋さんでブーケ風に作ってもらった花束を握っている。
空は雲ひとつない快晴。
そんな空の下、4人は(もしそんな言葉があるとすれば)快笑
と言うにふさわしい笑みを浮かべている。
「それでは!結婚式を始めまっす!準備はいいですか?」
梓は高らかに言う。どれほどこの日を楽しみにしていたか、、、
梓は、今この瞬間がずっと続けばいいと思っている。
「まず言わしてほしいんやけど」
吉田君は珍しくまじめな顔で言う。
「なんか儀式ばったこと俺はしとうないなあ、
俺は、俺の言葉で、薫にこれから誓うことを言うわ、、、
薫、、、
俺は薫を幸せにする。
そして子供を作って家庭を守る。
この二つは絶対約束する!どうや?薫」
「うん、、、ありがとう」
顔を赤くして薫は答える。
「後、、、ギャンブルは止めることと、浮気はしないってことも
誓ってくれる?」
「なにい?まだ2つも誓えって言うんか?おのれは?強欲な女やのお!!」
「なによ!誓えないって言うの?そんな奴こうしてやる!」
薫は吉田君の首を絞め上げる。
吉田君は本気で苦しそうだ。
「、、、仲の良い2人はほっといてと、、
与える男!!出番よ!この私に将来一体何を与えてくれるの!
教えて!与える男!」
梓は広場に響き渡るくらいの声で叫ぶ。周りの人たちが何事かと振り返る。
「はい!!」
「僕は!!将来!!梓にすべてを与えて抜け殻になって死にます!」
与える男も梓に負けないくらいに大きな声で叫ぶ。
「僕は与える男になるんだ。決して貰う男にはならない!
家族に、友達に、そして梓に僕のすべてを与えるんだ!
決して見返りは求めない!
人に与えて、与えて、抜け殻になって死んでいくのが、男の生きざまなんだ!
与える男の墓には花が絶えないが、貰う男の墓は誰も訪れない!
そう親父が教えてくれたんだ!
人のために生きるのが一番幸せになる道なんだ。
要するに!」
与える男は大きくいくを吸い込んで叫ぶ。
「梓と一緒に生きていきたいんだあああああ!!!」
広場にいるすべての人たちが注目する中、与える男はあらんばかりの大声で叫んだ。
やがて、1人、2人と周りの人たちが祝福の拍手をはじめる。
そして広場中の人が彼らに向かって拍手をしている。
「頑張れよ!」と声をかけてくれる人もいる。
与える男は思った。
今、この広場にいる人がみな、僕たちに祝福を与えてくれた。
この広場にいる人すべてが今「与える男」になっている。
なんて嬉しいことだろう、、、
与える男はこの広場にいる人すべての幸せを願った。
「でも、、、でもそれはなぜなの?何でそこまで人の幸せを願うの?」
梓は尋ねる。答えがわかっていようとも
「だって、、、」
与える男は、梓を見据える。
「だって僕は与える男ですから!」
いろんなことがあった。
これからも、もっといろんなことを経験するんだろう。
でも、どんなことがあってもこの今の気持ちを持ち続け
与える男
でありたい。
桜の花びらが舞い散るなか立つ梓は
どこまでも美しく見える。
与える男は、この人と思える人を大切にできる幸せをかみしめていた。
第十一話 完