第十一話 桜に誓う
春、冬の束縛から逃れた植物たちが、解き放たれる解放の季節。
木々に新芽が芽吹き、緑が復活を遂げるころ、
4人は、テーマパークの通用門の前に立っている。
「この門の周りの木って桜だったんだね、気がつかなかったわ」
薫は門の周りを見渡して言う。
確かに門の周りにはつぼみをつけた桜の木が
4人を取り囲むようにして生い茂っている。
吉田君は桜の木に何故かパンチを入れている。
「この木が全部咲けば、きれいやろうなあ、、、
ここで花見しようか?」
「こんなとこで花見したら、警備員さんに怒られるよ」
与える男は言う。
梓は一言もしゃべらず、あたりを見渡し、両手を広げて深呼吸する。
まだつぼみの桜の香りが梓の体内に入っていく。
すがすがしい顔をした梓。
「私たち、ここで出会ったんだよね」
全員が、うなずく。
「ああ、一生に一度の出会いやったわ。最高の彼女と、最高の友達に出会えた。」
「もしここで出会ってなくても、いずれどこかであなたたちとは
出会ってた気がする。運命なのよ。私達が出合ったのは」
薫はやさしい顔で一同を見つめながら言う。
「そうだ!!」
突然梓は叫ぶと言葉を続ける。
「桜が!桜が咲いたら、ここで結婚式やりましょうよ!!
私たちが出会ったここで!
2組のカップルがここで愛を誓い合うのよ!!
どう!素敵でしょう。」
「結婚かあ、、この前吉田が籍を入れるって言ってたもんなあ?」
与える男。いたずらっぽく笑う。
吉田君は頭をかき、照れくさそう。
「その話はやめてくれや、、、
薫からアレが来ないって聞いた時、不思議と迷いはなかったんや。
このまま薫と結婚してもいいかなって、思ったんや。
以前の俺やったら、違ってたやろうなあ
束縛、重荷を背負うのを嫌がって逃げていたかもしれん。
与える男を見てたらなあ、泥臭く、精一杯がんばるのも
ええかなって思えるようになったんや。」
「結局そのあとすぐ、来たんだけど、、、
吉田が、籍を入れようって言ってくれたのがうれしくて
しばらくだまってたもんね、、、」
「え?ほんまか?きさまあ!!」
吉田君は薫をものすごい勢いで睨んでいる。
薫も全く負けずににらみ返している。
「ああ、喧嘩しちゃ駄目だよ!
そうだ!梓?結婚式っていってもさあ、僕たちお金もないし、まだ正式に籍も入れたわけじゃないし
第一、このテーマパークの中でそんなことさせてくれるのかなあ?」
与える男は、喧嘩をしそうな二人の仲をとりなそうと話題を変える。
「そんな、正式なものをしようって言ってるんじゃないの。
ただ、私たちが出会ったこの場所で、お互いのカップル同士が、立会人になって
将来を誓い合おうって言っているだけ。
薫ちゃん達もいいでしょ?」
「要は結婚式ごっこやな?」
吉田君はなおも薫をにらみながら言う。
「結婚式だったら、ブーケくらいほしいわね、そうだ!指輪も交換しましょうよ!
このまえかわいいペアリング見つけたのよねえ、、、買え!吉田!」
薫は吉田君をにらんで言う。
「確かに結婚式ごっこだけど、誓いは本物よ!一度誓ったら一生破っちゃダメ!
いい!みんな!」
梓がそう言うと、みんながうなずく。
この桜が咲けば、皆で一生の誓いをする。
僕は梓と、吉田君は薫と。
立会人になってくれるこの桜に、今度ありがとうを言っておこう。
そう思う与える男だった。
また雪降るなんて、、、油断してた!