入り混じった心〜mixed emotions〜
迷ったけど、、、、、
迷ったけど行ってみた。
素直な所は僕の長所の一つだ。
それにしても「墓に行け」という梓の言葉、どういう意味なんだろう。
墓に行け、、墓に入れ!イコール死ねということだろうか、、、、、
「こんなところで、何してるんだろう僕。」
名もない、こじんまりとしたお寺の石畳の下に立つ与える男。
石段の上には、うちのお墓があるお寺。
さらにその上には、冬のどんよりとした空がある。
さらにその上に、親父はいるんだろうか、、
そのさらに上には、神様がいて、、、、
石段の上に立つお寺を見あげて、夢想にふける与える男の背後に人影が近寄ってくる。
白いスカートにコートを着、右手には花、左手にはバッグを持っている。
髪をなびかせながら、近寄ってくる人は与える男にこう言った。
「あんた、、、こんなところで何してるの?」
、、、、母さんかよ!!
与える男は、少し落胆した様子。一体何を期待していたのだろう。
「あんたにしては、感心ねえ、、墓参り?それにしても手ぶらで来たの?
供花くらい持ってきなさいよ、、まったく、、」
しかたがないので、母さんと一緒に墓参りに行く与える男。並んで石段を登っていく。
母さんと並んで歩くなんて久しぶりだ。そう思う与える男。
お寺の門をくぐり、お寺に入ると住職が、2人を出迎えてくれた。
「よくおいでくださいました。、、息子さんもお元気そうで、、
さあ、入ってお茶でもどうぞ。」
「いえ、とんでもございません、、お墓の様子を少し見に来ただけですから
お父さんに挨拶をしたら、すぐお暇いたしますので、おかまいなく、、」
母さんは深々と住職にお辞儀をする。
「それにしても、徳の高いお方だったんですね、、、、
徳の高い人、立派な人は、その人のお墓を見ればすぐにわかります。
あなたのお父さんは間違いなく立派な人だったんですよ。」
「はあ、、そうですか、」
気のない返事の与える男。
さっそく、お墓の方へと向かう3人。
久し振りに来る、、納骨以来か、、
親父の墓、、
その親父の墓を見て与える男は思わず声を出した。
「ほんとだ、、、、親父の言ってたことは、本当だったんだ、、」
親父の墓はこれ以上ないくらいにきれいに磨かれ、回りの掃除も行き届き
何より、お供えの花でいっぱいになっていた。
「与える男の墓には花が絶えないが、貰う男の墓は誰も訪れない。」
親父がいつも口癖のように言っていた言葉だ。
「お父さんのお墓には、いつもお参りする人が絶えないんですよ。」
住職が口を開く。
「会社の同僚の方や、お友達、そしてお父さんにお世話になった人たちが来て
私に、たくさんお父さんの思い出話をされて行くんですよ、、
中には、大層若くて、美しいお嬢さんもいて、
その方は毎週のように、お父さんのお墓をお参りに来られますよ、、」
「梓さんなの、、すごく申し訳ないと思っているんだけど、、、、
本当にありがたいわ、、、、」
母さんが少し涙ぐみながら言う。
そうか、、、
僕が、やけになっている間、
親父は死んだあとも、人気者でお参りする人が絶えず
梓は他人なのに、僕の親父の墓を参り、母さんを慰めていたのか、、、
まったく嫌になるよ、、
周りにいっぱい偉い人がいると、、、
僕がみじめになる、、、
母さんは花を供え、墓の掃除をはじめる。
呆然と見つめる与える男。
「お母さん、、お手伝いします」
その声は、、、、
梓だ。
お墓に現れた梓は母さんの横で、親父の墓掃除を手伝う。
2人の姿をなおも見つめる与える男。
相変わらず何もしない。
きれいに掃除したお墓に、手を合わせる梓。
「あんた、何しに来たの?せめてお父さんにあいさつでもしなさい!」
母さんに言われた与える男は、しぶしぶ梓の隣に並び手を合わせる。
そして、墓に向かって与える男は言う。
「親父、、今日はこれ持ってきたんだ。」
ポケットからギターのピックを出す。
「これ、お棺に入れるの忘れてて、、、ごめん、、これ無いとギター弾けないよね、、」
ピックを墓の前に置く与える男
「それで、、今日、墓に来て思ったんだけど、やっぱり親父の言ってたことは、正しいんだってことがわかったよ。
でも、親父みたいに立派な与える男には、僕はなれそうもないよ、、、
でも、そうなろうと努力することはできる、、、、
自分なりに頑張ってみるよ、、、
あと、梓には愛想を尽かされそうなんだよ、、
もしそうなったら、お墓参りには来てもらえないけど、、勘弁してくれよ、、、親父」
「お父さんの前でそんなこと言うのずるい、、、」
梓が与える男を睨む。
「お父さん、、、心配ないわ、、私、与える男がいないと、どうにかなっちゃいそうなの。
さびしくて、、、
どこがいいんだろう?まったく、、
私が付いていないと、ダメ人間になっちゃいそうだし、、、
仕方がないので、これからも一緒にいます、、、ずっと、、」
互いに見つめあう2人。
与える男が梓の手を取る。
「ちょっと、、いちゃつくのは2人っきりになってからにしてよね、、
ここお墓の前だし、、」
かあさんがため息をつきながら言う。
あわてて離れる2人。
梓の顔が真っ赤になる。
墓参りが終わった3人は、住職に礼をし、帰路に着く。
親父が死に、入り混じった感情を抱え悶々としていた日々が、ここにきてやっと晴れた与える男。
梓にも笑顔が戻っている。
2人が歩く姿を、後ろから見つめる母さんは
いつまでも涙ぐんでいた。
第九話 完
9話終わりです。
それにしても納骨とか墓参りという言葉が出てくる
恋愛コミカル小説ってどうよ?
ご意見お待ちしてます。