行ってみて、、、、
「吉田!そっちはどう?」
休憩中小声で、吉田の携帯に電話する薫。
何だかそわそわして、落ち着かない様子。
「あかんあかん!全然反省しとらん!
まるですねた子供を相手にしているみたいで、いややったわあ」
携帯から聞こえる吉田の声は、少し疲れていた。人の機嫌を取るということを、今までやったことのない吉田君は
神経をすり減らした様子だ。
2人の思いは同じだった。
梓と与える男を、このままにしてはおけない。
心の中では、梓も与える男も、お互いを求めあっている。
2人ともお互いが好きなのだ。
なのに些細なすれ違いで、このまま別れてしまうなんて、2人とも不幸になるだけだ。
「今度は、こっちが助けてあげる番よ!」
薫がそう言うと吉田君も大きくうなずく。
「そうやな、、あいつらにはいろいろ世話になっとる。できるだけのことは、してやりたいな。
じゃあな、休憩も終わるし電話切るわ。そうそう、帰りはわかっとるな!」
「わかってる、、じゃあね!」
夕方。
バイト終了の時間になった。
やっと解放された与える男と吉田君は、店を出て事務所へと歩き始める。
案内所の前を通り過ぎたとき、呼び止める声がする。
「あら、偶然ねえ!私たちも今帰るとこなの!一緒に帰らない?」
梓と薫がやってきた。視線を合わさない、与える男と梓。
「、、、僕、、、先帰るよ、、、」
と言い、歩き出す与える男。
「私も、、帰る、、」
梓も逃げるように歩き出す。
「もう!!二人ともちょっと待って!!このままでいいの?」
我慢が出来ずに叫んだ薫の言葉にびくっとして歩くのをやめる2人。
「何かお互いに言いたいことがあるんじゃないの?言わないままにするのは良くないよ!!」
その言葉を聞いた与える男は、小さくうなずいた。
「うん、、確かにそうだな、、、
梓、、、いいか?
つまらないことで死んだ親父に幻滅して、僕は、与える男という生き方をやめた。
本当の僕をさらけ出す、生き方に変えたんだ。
なのに、梓はそんな僕が嫌いだという、、、
つまり、梓は僕のほんの一部分だけが好きだったんだ。
良いことをして、みんなの役に立とうとする部分だけがね、、
それじゃあ、、僕が疲れちゃうんだよ、、」
「あなたが、、あなたが、馬鹿でぐうたらってことはとうに知ってる!!」
梓がやっと口を開く。
「甘やかされてて、ぐうたらで、とっても気の弱い馬鹿な人ってことぐらい
とうの昔にわかってる!
私が怒っているのはそんなことじゃない!
お父さんに会えなくてさびしいからって、すねておとうさんの悪口ばっかり
言ってる所に腹が立つのよ!!
まるで子供ね!!」
「なんだと、、、?」
梓と与える男はこれ以上ないくらい険悪な雰囲気。
とりなそうとする薫を、吉田君は制する。
「ええんや、、ほっとけ、薫。言いたいこといわしたれ!
その方がすっきりするし、2人にはええことなんや」
吉田君に言われた薫は、うなずいて2人を黙って見守る。
「お墓に、、お墓に行ってみて!」
「親父の墓か?なんでなんだよ?」
「お父さんのお墓に行ってみれば、あなたがいかに愚かで、間違っているかわかるはずよ!
じゃあね!もう顔も見たくない!!」
走り出す梓。
与える男も、ポケットに手を突っ込んでとぼとぼと歩きだす。
その姿を見守る吉田君と薫は、2人がよりを戻す見通しは暗いと
考えざるを得なかった。
昔の写真を見て、思い出にふけるのは、
年をとった証拠でしょうか、、、、、