走る!
その後も彼らの暑さとの格闘は続いた。
汗は拭いても拭いても出てくる。
温度計を見ると45℃を差していた。
彼は頭をふり、もう温度計を見るのはやめようと思った。
「くそー暑い!あ!今度どっちかが暑いって言ったら
ジュースおごるのどうや?」
吉田君がやけくその提案をしてきた時だ。
お孫さんを連れた年配の夫婦が店にやってきた。
その夫婦は、お孫さんにハンバーガーを
買っていった。
店を出る時にその夫婦は何かを鞄の中から落としていった。
「あ!お客さん、何か落ちましたよ!」
彼はすかさず叫んだのだが
年配の夫婦は気がつかず店を出て行った。
彼が店を飛び出てそれに駆け寄った。
財布だった。
分厚い財布でかなりの金額が入っているようだった。
店長が
「財布かあ、いずれ気がつくだろうから店で預かっておこう」
と言ったが、彼は猛然と言った。
今までの彼とはまったく違った調子で、、
「だめです!!あの夫婦はお孫さんと
ここに遊びに来るのを楽しみにしてたにきまってます!
その貴重な時間を財布を探すのに使ってほしくないんです!
僕、探してきます!」
「どうしてそこまで、、どうせすぐ気付くって。」
「だって僕は与える男なんで!」
「、、、、よくわからんが、君のいうことにも一理ある。
よし!行ってこい!店は俺に任せとけ!」
店長の許しを得た彼は駈け出した。
あちこちを探したがどこにもいない
もう見つからないんじゃないかと彼は不安になった。
しかし幸い近くのベンチでお孫さんと座ってる
老夫婦を発見した。
その夫婦は何度も礼を言い、お礼がしたいと言ってきたが
彼は
「いいんです!だって僕は与える男ですから
貰ったらだめなんです。」
といった。
怪訝な顔をしている老夫婦の前を
礼をしてまた彼は走り始めた。
彼が持ち場を離れたので、二人が休憩に行けない。
早く戻らないと
と思い、彼は走って店に戻って行った。
店に戻る前に案内所をちらりと見た。
中にいる彼女が彼に向かってにこっとしたような気がした。