返上
その後のことは、よく覚えていない。
ただ、遺影の前に座って
弔問客に挨拶をするのが気恥ずかしかったことだけは
覚えている。
ただ
いまだに実感がない。
遺品を棺桶にいれても
火葬場で骨を拾っても
骨壷を胸に抱いても、、、
それにしても
もし、親父が死んでしまったのならば
ひとつの思いが胸の中にある。
「自分の損を省みず、人助けばかりして
挙句の果てが、そのせいで死んでしまった。
結果、家族を悲しませ
不幸にした。
親父は、与える男どころか
僕たちから、すべてを奪っていった、、、
身勝手な生き方、、それが与える男なんじゃないか?」
それは違うと、梓は言う。
「お父さんが突然死んでしまって
気が、動転していたとしても
その言葉は許せない。
突然死んでしまって、辛いけど
奪ったなんて言葉をお父さんに使わないで。
お父さんがあなたに与えてくれたものは
計り知れないほど
素晴らしいものだったはず。
今のあなたは
親とはぐれて泣き叫んでいる子供と同じ。
見苦しい。
あなた。」
うるさい。
今は愛する人の言葉さえ耳障りだ。
梓の言葉も蠅の羽音にしか聞こえない。
梓を振り切り夜の街へ出る。
一人で歩く街は不気味なほど活気がある。
喧噪のなか街の中を歩く。
そしてまたあの建物の中に入る。
パチンコ屋だ。
この中では、誰も与える男のことなんか気にしない。
たとえ彼が今死んでしまっても
客は黙ってパチンコを打つだろう。
そんな所なんだ。
また闇雲に台に座り
紙きれのように札を突っ込む。
パチンコを打っているとうそのように忘れられる。
嫌なこと。
梓の顔さえも。
梓。
僕のことを呼ぶのはやめろ。
与える男と呼ぶのを。
僕は本当はそんな男じゃない。
ひ弱でケチくさい男。
見て見ぬふりをする男なんだ。
返上するよ、その名前は、、、
パチンコ玉がはじかれ
転がり落ちる様を眺めながら
与える男は
そんなことを考えていた。
今年ってうるう年だったんですね!!
気がつきませんでした、、、、、、