彼女との差
バイトの苛酷さは想像以上だった。
ごうごうと燃える鉄板の前で
フルスピードで動く。
彼は一瞬で全身汗だくになった。
厨房には二人で立つ。
バイトの彼ら二人は
交替で休憩をもらったが
厨房から外へ出るたびに
彼らは地面に座り込んでしまうほどだった。
「うう、、、」
うめき声をあげながら彼は裏の休憩室で座り込んだ。
自分の膝の間に頭を入れて
まるでノックダウンされたボクサーのようだ。
汗だくの頭をあげると
向かいの案内所に彼女の働く姿が見えた。
彼女は、油まみれの服とは違い
ちゃんとした制服を着ていた。
冷房の利いている案内所の中で
何やら指導を受けている様子だ。
「汗だく、油まみれの俺たち、、、
それに引き替え彼女は、、
この差は何だ!
これが現実かあ、、、」
先ほど一瞬でも彼女と知り合えるかもと
彼はときめいたのだが
今は彼女が遠い世界の人に見えた。
程無く吉田君も休憩室に入ってきた。
店長が新米に気を使って二人ともに
休憩をくれたようだ。
「彼女頑張ってるなあ。」
吉田君が声を振り絞るように言った。
かなりバテている様子だ。
「俺、、彼女に相手にされないんだろうなあ、、
ものすごくかわいいし、、彼氏も絶対いるよ、、」
「疲れてマイナス思考になってるで!!
相手にされなくても、自分が彼女を好きっていう気持ち
があれば、何とかなるもんやで!!
まあ、梓と付き合うのは俺やけどな!」
口もきいたことない子を呼び捨てにして
付き合うっていう吉田君の言葉にはあきれたが
確かにマイナス思考になっていた。
「そうだな、、すぐあきらめちゃいけないな!
頑張ろう!」
「おーい、仕事も頑張ってくれよ!
もうすぐ昼時で、忙しくなるから」
店長がよんでいる。
また炎熱地獄へと彼らは連行されていった。