与える男
バイト初日の日曜日が来た。
彼は予定より早く目が覚めてしまった。
まだ家族は誰も起きていない。
空気が少し冷たく感じる過ごしやすい朝だ。
しかし
これから行くサウナ風呂のような仕事場を思うとぞっとしてきた。
「装備を確認せねば、、、」
昨日から凍らせておいたペットボトル
タオル2枚
着替えのTシャツ
などを
一つずつ確認しながらカバンに入れていった。
「おお早いな、おはよう」
親父が起きてきた。
髪の毛はぼさぼさで、目はショボショボ
かなり眠たそうだ。
「いやあ昨日ギターの練習に熱が入っちゃって、、
2時まで練習しちゃったよ。
指にたこができたぞ。」
と彼の親父は左手を見せながらいった。
「そういえば今日からバイト行くんだってな。
頑張れよ!お店の人に迷惑かけるんじゃないぞ。
お前にはいつも言ってるが、仕事場でもお前は
与える男
になるんだぞ!いいな。」
「はいはい、、わかったよ、、」
いつも親父が口癖のように言う言葉がある
「お前は与える男になるんだ。決して貰う男にはなるな!
家族に、友達に、そして未来のお前の嫁に
お前のすべてを与えるんだ。
決して見返りは求めるな。
人に与えて、与えて、抜け殻になって死んでいくのが
男の生きざまなんだ!わかったな。
与える男の墓には花が絶えないが
貰う男の墓は誰も訪れない。
人のために生きるのが一番幸せになる道なんだ。」
確かにその通りだと彼も思うのだが、、、、
与えすぎて抜け殻になるのはちょっと、、、
少しは自分の分も残しといていいかなあ
と彼は思うのだった。
「それだけ言うのなら親父は与える男だろ?
じゃあこずかい俺に与えておくれ」
「馬鹿者!与えるのと甘やかすのは違うのだ!
早く仕事に行ってこい!」
へへ、、うまくいかなかったか、、
さあ冒険(単なるバイトだが)に出発だ!!