降りてきた星
視界から、すべてが消えた。
山の闇は深い。
本当に何も見えない
目が見えなくなったような気分だ。
与える男は、底知れぬ恐怖を感じた。
「ほ、本田さん、、いますよね、、」
心細そうな声。
「おういるよ、安心しな
俺が作業欲張ったばかりに、、、
すまんな」
「いえ、僕がトロいからですよ、、
それより、これからどうしましょう、、」
「そうだな、、
とりあえず荷物はここに置け。
そんなもん持ってちゃ夜道は歩けないからな」
二人は50キロはある調査の機械を
降ろした。
木にタオルを巻きつけ
機械を置いた目印にした。
身軽になった二人は
ふたたび歩き始める。
しかし夜の闇に閉ざされた
でこぼこの山道は
容易な道のりではなかった。
いつしか二人は川沿いを歩いていた
昼間聞くと心地よい小川のせせらぎの音も
夜聞くと不気味な響きに聞こえる。
「ちょっとひと休みしていくか
そこに座れよ」
道端に座り込んだ本田さんは
空を見上げながら煙草に火をつけた。
「ほら、空を見てみな」
本田さんに言われて空を見ると
夜の闇にだんだん慣れてきた
与える男の目に、満天の星空が
飛び込んで来た。
「うわあ、空に星ってこんなにあったんだあ」
与える男は、置かれている状況も忘れ
夜空に見とれていた。
「こっちも見ろよ
こんな光景なかなか拝めるもんじゃないぜ」
本田さんが川の方を指さす
本田さんが指さす方には
光
おびただしい数の光の点が瞬いていた。
青白い光が
草むら
木々
川の中の石にも
びっしりとついていた。
光の点々に彼らは囲まれていた。
それは都会のどんなイルミネーションよりも
美しく、与える男は息をのんだ。
「蛍だよ、、これ全部蛍の光なんだ」
本田さんがつぶやく
「梓に見せてやりたい」
与える男は心の底からそう思った。
蛍の光に囲まれ
梓と川べりに座る。
光の点が渦になり
二人の周りを回り始める。
ああ、会いたい
梓に会いたい、、、、
「彼女に見せてやりたかったら
戻らなきゃな、さあ行こう!!」
本田さんはそういうと
ふたたび歩き始めた。
困難な道のり。
だが、弱音も吐かず
歩き続ける。
そしてやっと二人はふもとまでたどりついた。
冷静になって時計を見て見ると、、
まだ6時だった。
夜の山には結局1時間ほど居ただけだ。
その夜の山で
与える男はこのときはじめて
本当の恐怖と、真の感動を
味わった。
ボロボロになって旅館に戻ると
梓が玄関先で出迎えてくれた。
「ああーー心配したあ
怪我とかない?大丈夫?」
「ああ大丈夫だよ。
それより夜の山ですごいもの見たよ」
「え?何?」
「あたり一面に蛍がいる場所があったんだ
まるで星が地上に降りてきたみたいだった。
梓にも見せてやりたいよ」
「すごい、、見てみたいなあ、、」
うっとりしている梓の横顔を見て
与える男は、無事で梓とまた話せる
幸せをかみしめていた。
恋愛小説だったよな?この小説、、、、
ちなみに私、本当に夜の山で迷ったことがあります