第0話 冬空の下
冬の厚い雲から、今にも雪がこぼれおちそうな
昼下がり
男は、駅に降り立った。
スーツを着て、ブリーフケースを抱えた男は
駅を降りた瞬間、冬の風にさらされ
思わずコートの襟を立てた。
男の眼前には、広大な駐車場が広がる。
しかしその駐車場には、
まばらにしか、車が止まっていない。
「今日はほんとに営業してるのかな?」
駐車場の、左隣にあるテーマパークにも
人の気配がなく、観覧車や、コースターも
動いていなかった。
男は、久しぶりに、このテーマパークにやって来た。
ほぼ10年ぶりだ。
男が知るテーマパークは
大勢の家族連れや、カップルでにぎわい
駐車場にも数えきれない数の車が止まっていた。
しかし冬空の下、誰もいないテーマパーク
を見て、男は思った。
「僕の知る、テーマパークはすでにここにはない
ここは、ただの廃墟だ、、、、、」
男は、このテーマパークが今日で閉園になると聞き
いてもたってもいられず、来てしまったのだ。
汗水流して働き、大勢の人と出会い
楽しい思い出も沢山作った。
そして、彼女との出会いもあった、、、、
あの時は、永遠に
この時間が続くと思っていた。
ましてやこの場所がなくなるなんて
思いもしなかった。
誠に勝手ながら
本日をもちまして
当園は閉園させていただきます
永らくのご愛顧ありがとうございました
ポスターに書かれた、そっけない文字を見て
彼は
青春の終わりを感じ取った。
もう20代ではなくなった。
少々仕事にも疲れてきている。
自分の中のくだらない思い出にひたってきた
今までの自分にけりをつけるいい機会だ。
男はさびしさを振り払い
そう考えるようにした。
「大人1枚」
入園券を買う。
そういえば、金を払ってここに入るのは
初めてだなあ、、、
園内を一人で歩くが
すれ違う人はいない。
そして、男が
かつて働いていた売店の前に立つ。
「ああ、、、」
男は思わず声を漏らした。
売店はすでに、シャッターが下ろされていた。
わずかに見える隙間からなかをのぞくと
暗闇の中たくさんの荷物が山積みになっていた。
もうだいぶ前から、倉庫代わりに使われているようだ。
煙草に火をつける男。
寂寥感を乗せた煙草の煙が
冬の空に消えていく。
陽もだいぶ傾き、夕暮れ時が迫っていた。
まばらにいた人たちもいだいぶ帰り
園内に男はひとり取り残された。
「元気出しなさい!与える男!
もうここは、あなたのいる所じゃなくなったのよ。
さっさと帰りましょ!!」
その声に振り替えると梓が立っていた。
夕日をバックに立つ彼女は優しい笑みを浮かべていた。
「ああ、、そうだな。帰ろうか、、、、」
与える男は再び歩き出した。
園内に誰もいなくなり
もう開けられることのない
入場口のシャッターがガラガラと閉められた。
その音に振り替えることもなく
与える男と梓はは家路についた。
すべてはこの体験から始まりました。
事故のニュースを見て、
忘れていた思い出がよみがえり
この時の気持ちを書きたくて
小説にしたんです。